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(15)使用権取引

【口座預金】17,100Mf【貸付金】17,100Mf


【借入金】8,550Mf【口座預金】8,550Mf

【借入金】8,550Mf【口座預金】8,550Mf

 初期借入金が返済されたのを確認するとジゼルが頷く。

「よし。これを以て契約終了だ。御星様、お願いします」


【個人間契約】

【契約関係】(主)ジゼル・アーネスト→(従)リアン・レガーレ

【契約状況】終了


【個人間契約】

【契約関係】(主)ジゼル・アーネスト→(従)ミラルド・デナーズ

【契約状況】終了


「今までご苦労。助かった」

「いえ、こちらこそありがとうございました」

「色々教えて頂きありがとうございました。工房の件、考えておきます」

「ああ。また何か用があった時には頼むよ。君達も私に何か頼みがあれば伝言を利用するなり、適当に連絡してくれ」

 遂に契約満了の日を迎え、毎晩下弦薬を納品するのも終わり。計十三日間の契約単体で下弦薬の売上高128,700Mf、第三者への売上単位数402を達成したことになる。

 ジゼルが少し眉を上げる。

「それと、妹が少し迷惑を掛けたな。ややこしくしたのは私にも原因があるが……。ま、何か縁があったらそれなりによろしく頼む。あくまでも、それなりに、一応な……」

「は…はい」「き、機会があれば」

 僅かに苦い表情で念を押すジゼルに、ぎこちなく答えた。

 思い出すこと五日前、納品の時刻に二日連続で待ち伏せして現れた彼女の正体は、本人が名乗ったことで判明した。



「私はトエル・アーネスト、ジゼルお姉ちゃんの妹よ!」

「えぇっ!?」「先輩の、妹!?」

 驚いて声を上げると、トエルがすぐに声を上げて勢い良く突っかかってくる。

「なぁっ、何よその反応! 私がお姉ちゃんの妹なのがそんなにおかしいっていうの!? ねぇ!?」

 思わず一歩退いて説明する。

「いや…単純に予想外というか本当に驚いただけです」

 噛みつかんとばかりの勢いの目の前の相手がジゼルの妹だったという事実に、その前日に一瞬目にしただけとはいえ当のジゼルが無関係とばかりの反応をしていただけに、流石に予想外だった。

 言われてみれば、ジゼルが色縁眼鏡を外し、髪の毛も茶色にすればどことなく似ているような、気がしないでもない。

 ふん、と息をついて終始不機嫌そうな様子のトエルの質問の仕方には若干の難があった。何を知りたいのか判然とせず、埒が明かないと思い、結局契約の経緯を一から全部話してようやくトエルは少し納得したのだった。

 その後、妹ならそもそもジゼル本人に直接聞けばいいのではないか、という話になるも少々複雑なようで実際のところ他人からすると大したことはなかった。

「……どちら様?」

「妹さんだそうですけど……え、まさか違うんですか? じゃあ一体…」

「違わないわよ!」

 トエルと対面してすぐジゼルは迫真の演技でとぼけ、こちらがそれに騙されかけると、トエルが声を荒げた。

「……いやー、世の中というのは実に狭いものだね……。じっつに驚きだ」

 ジゼルは妹が腕にべったりくっついた状態で、諦め顔で簡単に事情を話した。

 要約すれば、単純にトエルは姉のジゼルが好きすぎて、ジゼルはそれが原因で困ることがあるのだという。主に作業が進まなくなるために。

「ねぇお姉ちゃん、下弦薬なら私がただで作ったのにどうして知らない奴に依頼するの!?」

「だーかーら……身内に頼むよりもこういうのは他人に頼んだ方が後々得になると何度言えばわかってくれるのです?」

「全然わからない! 私わからないよ!」

 トエルは目をきつく瞑って、勢い良く頭を振った。

「……はぁ。またこれだ……」

 盛大にため息をついてジゼルは額に手を当てた。

 その姉妹のやりとりを見て「ああ、なるほど……」と、何となく大体事情は察せられたのだった。



 一息おいて、ジゼルが質問を投げかけてくる。

「妹のことはさておき……霊素の集積も今日で無事終わる予定な訳だが、この依頼私はどこから受注したと思う?」

 少し考えて、薄々思っていたことを口に出す。

「……やっぱりプロスネンス工房ですか?」

 ジゼルが頷くと、ミラルドもやはりそうかという表情をする。

「そう、その通り。ネルが直接君達に連絡したのだから妥当な判断だな」

 そこへ部屋の扉が叩かれる音がして「こんー!」という間延びした声が聞こえる。

「……噂をすれば、だ。入ってくれー」

 ジゼルの声に応じて扉を開けてネルフィが入ってくる。

「こばわー、みんなお疲れさまー。今日で完成と聞いてきーたよ」

「ああ。この後最後の作業をして完成だ」

 ネルフィが指で丸を作り、首を傾げる。

「おけー。最後の完成前に聞くけど、やってみてどうだった?」

 ジゼルは右手を口元に当て、左手を右肘に触れて思いだしながら感想を述べる。

「そうだな。これだけ大容量の物は初めてだったが、要領はさほど他のと変わらないし、それに報酬も弾んでくれるとあればまた機会があればやってもいいな。ただ次回の発注は他を当たってくれ。失敗した時のことを考えると流石に何度も頻繁にやりたくはない」

 うーん、とネルフィが呟く。

「そっかー。みんなそう言うらしいんだよねー。でもうちはかなり研究開発費につぎ込んでるから資金に凄く余裕がある訳じゃ無いし次の発注はまだ少し先かなー。もし上から発注が来ればまた別だけど」

「…と、そんなこんな、君達から購入するという形で払ってきた代金は実質的に全てプロスネンス工房が払っていたのであって、私の懐は殆ど痛くも痒くもない。私の所属工房の下弦草の固定価格購入権を利用したことぐらいか」

 ジゼルはこちらを見て裏事情を明かした。

「……なるほど」「そういうことですか」

「そゆことー、秘密にしててごめんねー」

「いえ……あの、ネルフィ先輩、今一瞬上から発注が来れば、といわれたのはどういうことか聞いても良いですか?」

「あー、言ってないっけー。簡単に説明すると、プロスネンス工房は、学外のノスティア星霊統都に本店があるアストリア商会から、その傘下の霊装研究所を介して資本供給を受けてるんだよ。因みにアストリア商会はここの公設市場にも出張店舗が出てるから、プロスネンス工房に所属したら系列関係者として割引で商品買えて便利だよー。物によっては取り寄せもしてくれるし」

「ミルディア霊術院の学内商会組織は大抵多かれ少なかれ資本提供を受けているからな。私の所属するシトラス工房もその例に漏れない」

 ネルフィとジゼルの説明に、ミラルドは知っていた様子で頷いていた。初めて知ったので、納得して頷く。

「学外ともそういう関係があるんですね。良くわかりました、ありがとうございます」

 不意にジゼルがネルフィに確認する。

「それよりネル、リアン君に何か話があるんじゃなかったのか?」

 思い出してネルフィが声を上げる。

「あーそうそう。それでリアン君、今後売上高伸ばすための商品にこの前の木材で木箱作る予定ある、よね?」

「そのつもりです。折角なので、一応既に少しだけ作りました」

「んー、やっぱりかー。じゃあちょっと待ってねー。御星様、ヒュイ・マーシャル先輩に伝言お願いします。ヒュイ先輩、こんばんわー。頼んでた霊槽は間もなく完成です。それで、所属希望者のリアン・レガーレ君の件ですけど、先輩今から例の話できますかー? 丁度リアン君納品に来てここにいるので、返信お願いしまーす。以上です。ところでリアン君この後時間ある、よね?」

 大分軽い流れで話が勝手に進んだような気がしながらも「大丈夫です」と答えた。すぐさまネルフィの眼前に非常に簡潔な霊文が現れる。


【伝言】

【送主】ヒュイ・マーシャル

【宛先】ネルフィ・ハイド

【本文】

 ほい了解。本人はA棟223号室に来るように。


「返信はやーい。それじゃ今からA棟223号室に訪ねに行ってね」

 後はよろしくね、とばかりにネルフィに言われ、一度ミラルドを見ればミラルドが黙って短く頷いたのを受けて返事をする。

「……わかりました。では、そろそろ失礼します。ありがとうございました」

「自分も失礼させて頂きます。先輩方、ありがとうございました」

「またねー」

「お疲れ様」

 椅子から立ち上がると、ネルフィとジゼルに見送られて部屋を後にした。

 少し急ぎ足で男子寮の方向に戻りながらミラルドと「木箱の作成に関する話だと何があるのかな」と適当に予想しながら、途中で別れた。

 男子寮A棟223号室につき「こんばんは」と声を掛けると同時に扉を叩くと、すぐに扉は開き、ゴルドー並みに背が高く、かなり低い響くような声の主が現れた。

「ほいこんばんは。入ってそこ座って、まずはさくっと質問行くから答えて」

「失礼します、ヒュイ先輩」

 勧められた椅子に座ると、ヒュイは机の前の椅子に半分こちらに身体を向けた状態で座り、何か途中だったらしい紙に続きを書きながら次々に質問をし始めた。

「改めて確認すると、本当にうちに所属する気はあるかいね?」

「それは、是非入りたいです」

「即答よろしい、次。条件達成まで売上高は残りいくら?」

「後約35万Mfです」

「それで、これからしばらく木箱を作っていく予定?」

「はい」

「既に今までに何個か作った?」

「C木箱を一つと、A木箱を三つ程作りました」

「ずばりその評価は?」

「【A】でした」

「素の霊力量は?」

「2,296Sptです」

「プリール森林の精霊の共生は?」

「まだです」

 書きながらヒュイが唸る。

「だろうな。今の口座預金額は?」

「えっと6万Mfと少しぐらいの筈です」

 そこまででヒュイは小さく頷きながら動かしていた手を止め、紙を持って半身だった体をこちらへ向けた。

「んー。はい、はい、なるほどなるほど。ではでは、プロスネンス霊装工房に必ず所属するという前提でこの契約書を渡そうか」

「は、はい」

 受け取った紙を見ると、


【対個人契約】

【契約関係】(主)プロスネンス霊装工房→(従)リアン・レガーレ

【契約内容】

 主契約者は従契約者に対し、保有する工作霊機の使用権利を、毎時間従契約者の口座預金からの自動引き落としによる使用料金(8,000Mf/時間)の支払いを以て提供する。

 尚、従契約者は使用開始と使用終了の際にはプロスネンス礼装工房の成員にその旨を伝えること。

 また、従契約者の口座預金額が決済時に8,000Mfに満たなかった場合には、従契約者は自動的に主契約者に対してその都度8,000Mfの債務(年率利息10%)を負い、返済の義務を負うものとする。

【契約付随要件】

 本契約を締結するにあたり、従契約者は学内商会組織所属条件達成の後、プロスネンス霊装工房に必ず所属する意思を示す誓約書への署名を要する。

【契約満了日】

 従主契約者の学内商会組織所属条件が達成された日を以て契約満了日とする。

【契約署名】プロスネンス霊装工房ヒュイ・マーシャル


「これは……」

「うちの常識では規格定型木箱の製作をもしする時には、工作霊機を使って一気に組立用の部品を作成するものでね。部外者、それも個人には滅多に貸しはしないが、必ず所属するという条件なら先行使用を許可しても良いという内容だ。ほい、どうするかいね?」

 落ち着き払った微笑を浮かべ、そうヒュイは尋ねた。

 契約するかしないか、その選択は、一点だけはどうしても気になるものの、明らかだった。



【損益】

【素材売上】9,005Mf(4,534Mf)


【調合品売上】136,825Mf(納品単位数:学総10、他402)(69,300Mf)

【調合原価】116,272Mf(59,850Mf)

 差引計 20,533Mf


【道具売上】4,100Mf(4,100Mf)(納品単位数:学総4)


【労働・契約収益】67,770Mf(18,100Mf)

【生活費用】3,935Mf(2,695Mf)

【採集権利】1,237Mf(660Mf)

 差引計 62,598Mf


【資産】

【口座預金】66,116Mf(24,279Mf)

【採集用具】22,900Mf

【調合器具】38,180Mf

【素材加工具】6,500Mf

【生活用品】12,560Mf


【負債及び資本】

【資本金】50,000Mf

【営業利益金】33,658Mf(18,084Mf)

【労働・契約利益金】62,598Mf(14,745Mf)


【リアン・レガーレ】

 学内配達員時給:800Mf(累計51時間)

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