(14)最適プロダクト・ミックス
いくつかの工具と削って出た木の屑が机の上に散乱している。椅子に座って、机の上で片手に木槌を持ち、最後の作業に入る。三面の接合を終え、残り一面の板を慎重に、軽く、叩いていく。部品を削ることに特に時間を掛け、後はただそれが正確にできていて、上手くはまるかどうかだけ。
小気味良い音が響くこと少し、手を止めた。目の高さにまで持ち上げて全周囲、妙な隙間ができてしまっていないかを確認する。
「……よし。ちゃんと形はなしてるし、後は……」
山場は越えた。ゆっくりと息を吐くと、机の引き出しを開けてあと一つ残る部品を取り出して、
「これで、よしと。あぁぁー、やっとできたぁぁぁぁー」
達成感の籠もった声を上げた。が、
「……はぁ……」
確かに蓋もあっさりはめて、目の前の木箱は完成したが、掛かった時間を思うとため息をつかずにはいられなかった。
規格定型C木箱【C】の取り扱い価格は400Mf。板同士を接合するための溝を削るのに何度も何度も実物と設計図を交互に確認、再計測しては……と夕食の時間を挟んで削るのにかなり時間が掛かった。時間当たりの利益はジゼルへの納品用の下弦薬と良い勝負どころか明らかに劣る。ただ、それだけ慎重に慎重を重ねたためどうしようもない失敗をすることはなかったのはせめてもの幸いだった。
次は更に手間が増えるとしても、規格定型B木箱か、あるいはA木箱にでも挑戦してみようと思いながら、意を決して口を開く。
「…御星様、評価お願いします……!」
そして、目の前に現れたのは、
【A】(但し、埃を取り払った場合)
目を疑い、何度か瞬きを繰り返した。
「【A】って【A】…? おぉお! いや待てよ」
天井を見上げ、改めて良くよく考えると、完璧に乾燥処理を施された素材ということを鑑みれば、自身の腕のみによって得られた評価ではない。
「きっとそうだ……まぁでも」
できた事には変わりない。
そこへ部屋の扉を叩く音が鳴り「リアン、そろそろ今日の時間」というミラルドの声が扉越しに聞こえた。確かに七時近くを示す時計を視界に捉え、
「っとそうだった! 今いく!」
大きめの声を上げると机の上はそのままに、慌てて用意しておいた下弦薬の入った桶を持って扉に向かった。
「っと、よし行こう、ミラルド」
「いや……そんなに慌てて出なくても。もしや今日も木箱の作成中だった?」
ミラルドは木屑の着いた服を一瞥して言った。
「ああ、うん。そう。やっと一つできたよ」
そのまま部屋を出てリアンはミラルドと一緒に廊下を移動し始める。
「それはおめでとう。一応評価は?」
「【A】だった。多分先輩の乾燥作業の質が良かったのが大きいと思う」
「【A】か。なるほど。…でも、それを加味しても【A】ということは……特に見た目にも問題が無いってことの証明になるのでは?」
「んー確かに、時間かけただけあって、その辺はね。そうだ、ミラルドも今日は油脂の抽出だっけ? やったんでしょ?」
何となく照れくさくなって軽くはぐらかすと、ミラルドの新しい調合に取り組んだ話題に切り替えて、ジゼルの元に向かった。
「……正直、返済は完全に後回しだわー。先輩のお陰で単位数はどうでもいいけど、二類の作成と、50万Mfの達成はまだまだだから」
「そうだよね。50万、どうしようかなぁ……」
「定型A木箱300個、とか?」
「うわぁ……。想像するだけでもう」
冗談めいたミラルドの発言に思わず引いた。
ジゼルとの契約によって、売上単位数は400まで達するのは想定できていたが、売上高50万Mfの条件達成には大分遠い。ジゼルへの納品売上だけで14万Mf近く稼ぐことができるのは確かに大きいが、それでも、他のものと合わせても進捗率はまだ30%程度。
「何にしても、二、三週間そこらでこの調子だから条件達成はそこまで遠くなさそうだわ」
「うん。そうなることを願いた…」
「ちょっと君達」
ミラルドと話しながらE棟に入る直前、待ちかまえていた素振りの、制服から一回生と思われる女子が進路に立ち塞がるようにして、声をかけられた。落ち着いた茶髪に、目鼻立ちは非常に整っているが、
「……ねえ、君達さ。最近毎日この時間に来てるみたいだけど、何なの?」
肩口辺りの長さの髪を軽く掻き上げ、若干不機嫌そうな表情に、同じく不機嫌そうな声色で言った。
微妙に上から目線で「何なの?」と問われても、どうもこうも無い気がして何となくミラルドを見やると、
「何なのか……さしずめ下僕かな」
「……あー、たしかに……?」
改心の自己紹介、しかし相手には事故紹介的なミラルドの答えに曖昧に同調した。
「はぁァ? ゲボク?」
要領を得ない疑問も尤もだが、そもそもの質問に「はぁ?」と、こちらが返したかったような気もした。それより、ここで時間を潰している場合ではない、そう思って口を開く。
「あの、悪いけど、納品の時間があるから、いい?」
「自分達、正式な依頼を受けてるので」
ミラルドもそう言って迂回するようにさっさと先に進もうとすると、
「っちょっと待ちなさいよ!」
まだ絡んできた。
「……話は聞くので、移動しながらにしてもらえませんか?」
「分かった、分かったわよ!」
無駄に怒らせないように口調だけは丁寧にしながらも先を急ぐと、後ろから彼女は慌てて付いてきた。
移動しながら改めて、口から飛び出す言葉を聞いていると、どうやら色々気に入らないのだというのが何となく分かった。
女子寮に男子が毎日同じ時間に尋ねて来るのが何となく気に入らず、正式な依頼を受けていることについても、わざわざ離れた寮に住んでいる男子が依頼を受けているというのが「何で同じ寮内で済ませないのか」とその文句を言うべき相手はジゼルだろうが、やはり気に入らないらしい。
312号室の前に着いた所でミラルドが本心を指摘するようなことを言う。
「要するに、自分が依頼を受けたかったとかそういうことを言いたいと?」
「そ、そうじゃなくって……!」
図星のような素振りを見せながらの否定に、気にせず扉を叩く。
「こんばんわ、先輩、納品に来ましたー」
部屋の中から「入ってくれー」といういつもの声が聞こえ、
「あ、ちょっと!」
制止も聞かず、扉を開け、さっさと中に入った。
流石に中にまで着いてくることはなく、所在無げに彼女は扉の前で立ち尽くした。
「ん、今、部屋の前に女子が見えた気がしたが良いのか?」
「ええと、良いのかというと良くは無い気がするんですが……」
「あちらが先に特に理由無く絡んできたのでそもそも話す理由も無い気がします」
「ほう、そうか。……しかし、あの手の女子を待たせると大体禄なことにならなそうな上、まだ部屋の前にいるようだ。後で近所でもめられると私が困る。……適当に話をつけてきたらどうだ? それと桶は置いておいてくれよ」
本音を包み隠さずジゼルは手でどうぞ、と扉を示した。集中力を要する作業を行う以上、確かに邪魔になるだろう。同じ事を考えたのか、ミラルドと同時にリアンは「……はい」と答えると、もう一度扉の向こうに対峙しに振り返った。
出ると、
「にょっ!?」
まだ留まっていたことに気まずさを覚えたのか、慌てて扉の前から離れようと奇声をあげながら足が動きかけたのが見えた。
大体禄なことにならなそうと、ジゼルは言ったが、分かる気がした。少し予想できた反応だけに、その通りのことを実際やってみせられると、絵になっていると一瞬思う一方で、なぜだかこの反応を見るために扉を開けたような錯覚がしたり、これから相手をするのに僅かながら時間を掛けるのだという実感が沸く。
「……何か用がありますか?」
「な、なんでもない! 無いわよ! 無いから! じゃあね!」
そう言って、奇声を聞かれたことと、まだいたことを見られたのが余程恥ずかしかったんか、顔を真っ赤にして三回指をこちらに突きつけると勢い良く走って去っていった。
全く分からない、とミラルドが呟く。
「一体何だったというのか……」
「……戻ろうか」
とりあえず気にしないに限る。再び、ジゼルの部屋に戻り、
「よくわからないですけど帰っていきました」
声を掛けると丁度桶を大釜に投入し終えていたジゼルが振り返り、平然と述べる。
「つまり撃退に成功したという訳だな。これで憂いは無いだろう、さて。御星様、決済お願いします」
【消耗調合品】19,800Mf【口座預金】19,800Mf
【口座預金】9,900Mf【調合品売上】9,900Mf
【調合原価】8,550Mf【買入素材】8,550Mf
【口座預金】9,900Mf【調合品売上】9,900Mf
【調合原価】8,550Mf【買入素材】8,550Mf
「納品ご苦労。一昨日も少しほのめかす発言をしたが、この調子だと後五日だ。頼むよ」
ジゼルの言葉に揃って「分かりました」と答えると、
「何か他にはあるか? 別にさっき絡まれた話でも構わないぞ」
「……これといって特には無いんですが、そういえば、女子寮なのにわざわざ男子に依頼している、というか契約していることについて、気に入らない様子でした」
「ほほう。恐らく毎日君達が桶を持って来るのを見て、そういう依頼を自分も受けたかった……とでも言ったところか。君達が絡まれた時のことが目に浮かぶようだな」
ジゼルはミラルドと同じようなことを言いながら苦笑した。
「私が君達を薄給でこきつかっていること……おっとこれは失言。いやいやいや、利害の一致した契約が羨ましいのも無理ないですよ。ねー?」
「は、はい」「実際、この契約は羨ましいかと」
ジゼルのかなりふざけた言い方と、わざとらしく見開いた含むような目を見て、思わずこちらも苦笑した。
そこでふと、少し考え込むようにしていたミラルドが尋ねる。
「ところで先輩、もし良ければ、今後調合品で売上高を稼ぐにあたって何かコツをご教授頂けませんか? 直に先達のお話が聞けたらと」
「そういえば君は調合士志望だと言っていたな。なるほど、そうだな。私からの助言を授けよう。……コツと言うには余りにも自明ではあるが、さっさと基礎二類の販売要件を満たして、そのままC級一類二類、B級と講義には一切構わず高みを目指すのが一番だ。……何より取り扱い単価が違うからな」
フッとキメ顔で一度ジゼルが言い切ると、
「あー、そんなことは知ってるって顔だなー?」
「い、いえ」
ミラルドは思わずぎょっとし、ジゼルは更におでこに手を当てておどける。
「ええー、そんな、知らなかったのかい? 仕方ないなぁ。安心しろ、まだコツはある。まぁ、まず座ってくれ」
お互い笑いながら「分かりました」と言ってミラルドと一緒に椅子に座った。
「さて……君達は最適プロダクト・ミックスという言葉を知っているか?」
揃って「知らないです」と答えるとジゼルが続ける。
「これはまだ君達は受けてもいない管理会計の講義で教わる内容だが教師気取りで先取り講義とでもしておこうか。最適プロダクト・ミックスとは、簡単に説明すれば、資源や時間など、一つから複数の、ある制約条件下において最も高い利益を上げるためにはどうしたら良いか、という意志決定のために考える、生産すべき製品の最適な組み合わせのことだ」
そういうと、ジゼルから精霊が飛び出し、部屋の隅に立てかけてあった小型の黒板とチョークを持って来る。確かに雰囲気が講義らしくなってくる。
「それらしく言っているが、考えることは単純だ。基本的にはある商品の単位当たり売上高からその商品に直接掛かると把握される原価を差し引いた利益、これを貢献利益というが、それが大きいものをできるだけ作りましょう、というただそれだけのことだ」
「……はい」「なるほど」
言われてしまえば、当たり前の話に頷いた。
「次も当たり前だが、ただ貢献利益が高ければ良いという問題ではないのは分かるだろう。今まさに売上高50万Mfの早期達成を目指している君達の場合だと、時間という制約条件を考慮すべきだ。少し具体的な話をすれば、時間を制約条件として設定した君達にまず最も役立つのは、
・作成可能な各商品の貢献利益と作成に掛かる実際時間を計算し、それを一時間当たり貢献利益に換算して把握し、比較。
これをするだけでもどの商品が最も時間当たり利益率が高いかが数値化できて一目瞭然になる。計算に際してはもちろん下弦薬のような一度に纏めて作れる場合にはそれを一単位として計算するべきだということと、君達の場合には今は売上高が重要な以上一時間当たり貢献利益ではなく売上高をそのまま使った方が良いということを補足しておくぞ。因みに、基礎一類の調合品で最も優秀なものだと、アレだ。それはだな……」
ジゼルはそこで口を大きく開いてみせ、
「と、ここは秘密にしておこうではないかー。ま、やってみてのお楽しみという奴だ。自分で計測してみるといい」
含むような笑いをした。思わず一瞬前につんのめり、ミラルドは黙って眉間に手を当てた。
「まだ当たり前のような話だが、これだけでもただ知っているのと実際にやってみるのとでは大分違う。次に行くぞ」
ジゼルがそういうと、チョークを持った精霊が同時に黒板に更なる要点を書き始める。
「制約条件の加算。時間当たり貢献利益率の比較だけでもそこそこ役立つが、例えば資源を制約条件として加えるといよいよそれらしい計算をすることができる」
こちらがどういうことかと首を傾げると、ミラルドはじっと耳を澄まし真剣な様子。ジゼルが少し唸って考えながら続ける。
「基礎一類の調合品では同一の資源で何かを作るということは殆どないだろうが……まぁあるとすれば、プリール森林で採集してきた水を使用する対象物の選択ぐらいはあるかもしれないが、それはそれとして、何か直接的で他に分かりやすい例として……ネルから聞いたが最近君達は確か木の伐採に行ったのだったな?」
「あ、はい。そうです」
「なら、それで行こう。制約条件に木材という使用可能量の限られた資源を加えると、規格定型木箱ABCをどういった組み合わせで作るのが一番利益を上げられるかという問題を考えよう。ここで実際はともかくとして、仮にこう設定するとしよう」
言うと、ジゼルは簡単な表を精霊に書かせた。
【A】【B】【C】使用可能資源
貢献利益 1000 700 400
原材料 5 3 1 100
時間 3.0 2.5 2.0 100
「そして、この仮設資料を基に定式化すると」
・5A+3B+C≦100
・3.0A+2.5B+2.0C≦100
(但し、A、B、Cはいずれも整数)
・1000A+700B+400C=X(Mf)
「そのままこうなる。御星様、解をお願いします」
精霊が書いた所でそう言うと、霊文が浮かび上がる。
【解】
①A=14、B=0、C=29:X=25,600(Mf)
②A=0、B=28、C=15:X=25,600(Mf)
(理論的には①②間の直線上も解となりうるが、整数条件の元では①又は②の時、X(25,600Mf)が最大となる)
「え!」「えぇっ」
そんなこともアリなのかと驚いた。計算までやってもらうというのは流石に気が引ける。
「ありがとうございます。と言うわけで、これが答えになるんですねー。しかしこれはあくまで仮設上の式での答えであって、実際に木材を使用するとなれば切り出せる板の部位の制約の問題がいよいよ含まれてくるからここまで単純にはならないので注意。いきなり三項で式を立てたが普通は二項で式を立てるのが一般的というのも頭の片隅にでも覚えておくと良い」
「は、はい」「わ、分かりました」
ジゼルが満足そうに頷き、
「よろしい。分かった所で、だ。……仮設上の式ではあるが、少し現実に落とし込んで真面目に考えてみるとどうだろう。今のは解としては最適だとしても、果たして本当の意味で最適かな?」
「本当の意味で最適……?」
言っている意味が良く理解できず聞き返すようにすると、ミラルドが少し遅れて口を開く。
「……こういうことでしょうか。式の解を求めるという性質上、100時間という利用可能時間の制約条件をきちんと守ってはいるものの、現実問題として馬鹿正直にそれを守る意味があるか、ということですか」
「その通り! よくできました。リアン君はまだよく分かっていないようだから、分かりやすく説明しよう。つまりこういうことだ。100という仮設上の木材利用可能量を元に各定型木箱の最大生産可能量に換算して貢献利益を算出、更に各定型木箱の消費時間数も出すと」
A 20個 → 20,000Mf 60時間
B 33個 → 23,100Mf 82.5時間
最適解 → 25,600Mf 100時間
C100個 → 40,000Mf 200時間
「更に、各貢献利益の差を同じく時間差で割るとこうなる」
0―A間 20,000Mf ÷ 60時間 =333.3Mf/h
A―B間 3,100Mf ÷ 22.5時間 =137.8Mf/h
B―解間 2,500Mf ÷ 17.5時間 =142.9Mf/h
解―C間 14,400Mf ÷ 100時間 =144Mf/h
それを見て閃いた。
「ああ! そういうことですか」
「そういうことだよ。正直言って、この一時間当たり137.8Mf以下三つのために、仮に木箱を作るための時間として確保すると決めた時間があった場合、A木箱に要する60時間以上を掛けるのは頭が悪いとしか言いようがない。60時間以降は何か別の調合品を作ることを真剣に検討した方がよい。まぁそれを言ってしまえばこの仮設上だとA木箱ですらかなり残念な利益率ではあるが……」
ジゼルは妙に哀愁漂う目をして言った。わざとなのだろうとは分かるが、こちらまで哀愁漂ってくる。
「……そう、ですね……」
薄々分かってはいだが、今日初めてC木箱を作ったのがさも時間の無駄とばかりの感覚がして肩を落とした。見た目の取り扱い価格の高さにつられた結果がこれなのか。
ミラルドが気に掛けてくる。
「……気を落とすな。現状の下弦薬に比べれば良い方だし、慣れれば制作時間もそのうち抑えられるようになる筈だ」
「ふむ。何か事実に気がついたようだが、実際値で計算してみれば結果は当然に異なるからな。……と、今晩の教訓は実際に数値比較してみるとはっきりとした事実が分かるということだろうか。調合品ならばこの先、調合品の調合のために頻繁に必要になる中和剤、還元剤、濾過剤や分離剤といった類の投入の意志決定などに資源の制約条件は当てはまるが、少なくともこの考え方はなにかしら役に立つだろう。詳しいことは実際に本物の講義を受けるといい。では、明日も頼むよ」
そこまで説明したジゼルは締めくくり、考えても仕方がないので気を取り直し、ミラルドとともに普通にためになる話を聞けたため「ありがとうございました」と礼を述べて、空になった桶を持ってその場を後にした。
歩きだして、ミラルドに質問を振ってみる。
「……結局、木箱ってどうなのかな? 時間考えたら優先的にA木箱をできるだけ作った方が良いのは分かったけど、木材を効率的に使うとなると勿体無いし……」
「だけども、そこに立ち返ればやはり資源を時間よりも優先することになるから時間当たりの効率が落ちる、と」
「だよね……」
「実際には作成途中に失敗する可能性も考慮に入れないと損する可能性もありそうだけども、その辺は?」
「んんー。大きい木箱の方が失敗の可能性は上がるけど……」
上を見上げながら尻すぼみに呟いた。あっちを立てればこっちが立たない。
仮に単位当たりの失敗する可能性を割合として数式の係数に加味すれば、より正確な解が出せそうではあるが、恐らくそうだとしても、A木箱だけを作って学総に納品するのが結局は効率的な気がする。
「そうだ。別に木材が残ったとしても捨てる必要は無いから、A木箱を優先的に作ってみて、その時点で残りでBとCを作るかどうか改めて考えてみるのでも良いのでは?」
「ああ、そっか。それが実際の所、最適解かも。A木箱作るには微妙な板材の時も、考えるのを保留すれば、何かしらに使えるだろうし」
そうこうして、話しながらある程度の考察に至りつつもミラルドと寮に戻っていくその頭の中からは、謎の絡みを見せたさっきの女子の事は完全に抜け落ちていた。
翌日、再び遭遇することになるとは知らず。
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