『その縄、魔法につき。〜十九歳の縛術師は、殺さずの技術で乱世を縛り上げる〜』第4話 縄使いという異端
正しさは、
いつも多数派に属しているとは限りません。
第4話では、
リオネルの行いが「異端」として認識され始めます。
それは彼が間違っているからではなく、
常識の外に立っているからです。
この物語は、
強さの価値観が揺らぐ瞬間を描いています。
王城の石壁は、夕刻になるとひどく冷える。
その冷気が、騎士団詰所の空気をさらに重くしていた。
「……城下での噂は、すでに収拾がつかんでいません」
報告役の若い騎士が、喉を鳴らしながら言った。
机の向こうに座る副団長ガルドは、腕を組んだまま黙っている。
「剣も使わず、魔法も使わず、縄だけで騎士を制圧した――
しかも、誰一人死んでいない」
その言葉に、部屋のあちこちで小さな舌打ちが漏れた。
「笑えん話だな」
「慈悲深いのか、侮辱しているのか……」
ガルドは、ゆっくりと目を伏せた。
「……問題はそこではない」
低い声が、室内を制した。
「殺さなかったことだ」
一瞬、誰も言葉を継げなかった。
「この国では、“敵を倒す”とは、命を奪うことを意味する。
それを否定する力が現れた――それが、民を混乱させている」
事実、城下町ではすでに噂が変質し始めていた。
〈縄の魔術師〉
〈騎士を縛るだけの男〉
〈血を嫌う異端〉
どの呼び名にも、共通しているのは――恐れ だった。
人は理解できないものを、恐れる。
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一方、城外の古い倉庫。
夕闇の中、リオネルは静かに縄を解いていた。
三本の縄は、まるで意思を持つかのように彼の手に従い、
絡まりもせず、音も立てずに腰元へと収まる。
「……少し派手でしたか」
独り言のように呟き、苦笑する。
剣を折らず、骨も砕かず、命も奪わない。
それでも――相手を完全に無力化する。
彼にとっては、それが当たり前だった。
「殺さずに済むなら、それでいい」
誰に聞かせるでもない言葉。
だが、その選択が、この国の常識からどれほど外れているかを、
リオネル自身も理解していた。
遠くで、城の鐘が鳴る。
――探されるだろう。
――追われるだろう。
それでも、足は止まらなかった。
縄を携えた青年は、静かに闇へと歩き出す。
この国にとっての「異端」として。
だがその異端こそが、
やがて国の在り方そのものを、縛り直すことになるとは――
まだ、誰も知らない。
第4話をお読みいただき、ありがとうございます。
敵を殺さなかったことが、
称賛ではなく恐怖として受け取られる――
それが、この国の現実です。
リオネルは英雄ではありません。
ただ、自分の基準を捨てないだけです。
しかしその姿勢こそが、
周囲の価値観を否応なく問い直させていきます。
次話では、
この「異端」を巡って、
具体的な動きが起こり始めます。
王の試練、騎士団の判断、
そしてフィアの立場も、少しずつ絡んでくるでしょう。
引き続き、
リオネルの歩みを見守っていただければ幸いです。




