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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
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 現実問題として、2人はなかなか一緒に居られない。ウィンはラフェルス伯領の金の問題について帝国と折衝するため、帝都に戻らねばならなかった。

 コーンウェ、マーティダ、ウィン、ムトグラフの4人での話し合いはこれで3回目になる。金の採掘権は帝国が一元的に保有することになっているので、ウィンは金が出た旧オインロフォム領を帝国に返還するという案を出した。これで片が付くと思ったが、旧オインロフォム領の代替地がないということでマーティダが難色を示した。ウィンは不要としたが、そうはいかないのだという。

 「領地から金が出たら領地を没収される」あるいは「領地を返還しなければならない」という前例ができると、また金の産出を隠そうとする者が出てくる。「金が出ると損をする」という印象を与えるのもまずい。ゆえに何らかの補償は必要なのだというのが宮内伯たちの意見だった。

 「これはラフェルス伯だけの問題ではないのです」と、コーンウェはしかめっ面のまま嘆息した。

 問題はもう一つあった。旧オインロフォム領に堆積した砂金の量だ。量が少なければ、採掘しても赤字になる。少しばかり砂金が含まれている、という程度ならば埋めて土地を平らにでもした方がましなのだ。帝国としても、猫の額のような土地を直轄領にして管理するのは手間がかかる。要は持て余しているのである。

 「つまり、産出量がわずかならば帝国は関知しない、ということでしょうか」

 ムトグラフが2人の宮内伯に確認する。これに対してはマーティダが答えた。

 「そうだな……。金相場を帝国が制御できない事態になることと、諸侯が必要以上の利益を得ることを防げればそれでよい。オールデン川の砂金採りを黙認しているのもそうした理由からだ」

 「では旧オインロフォム領はラフェルス伯領のまま。ラフェルス伯が金を採掘し、ラフェルス伯は採掘費用に若干上乗せした分だけを得る。それ以上は帝国に納める、ということでいかがでしょう」

 「なるほど。金が出るなら帝国もラフェルス伯も潤う。出なければラフェルス伯が損をするだけ、か。帝国としては異存はない」

 マーティダがウィンに向き直って問うた。

 「ラフェルス伯にご異存がなければ、ムトグラフ卿の案で進めたいが、よろしいか?」

 ウィンとしては、実のところどうでもよかったので話はまとまった。

 2人の宮内伯と分かれて、ウィンとムトグラフは出口に向かって外廷を歩いていた。

 「マーティダ宮内伯に敬語を使われると、どうにも落ち着かないな」

 「ラフェルス伯という立派な帝国諸侯ですからね。宮内伯よりはるかに身分が高くなってしまったのだから早く慣れてください」


 もうすぐ出口というところで、背後から声を掛けられた。「お2人がいらっしゃると聞いて、お探ししていました」

 振り返るとラフェルス副伯領を治めていた帝国代官のティルカールだった。

 「結局、金はどういう扱いになったのですか?」

 ムトグラフは、ティルカールがパルセリフィン公らの計画に協力していたことを知らない。「久しぶりですね」などと言いながら、宮内伯との合意内容をディルカールに簡単に説明した。ティルカールは穏やかな顔でそれを聞き、ゆっくりとうなずいた。

 「なるほど、ラフェルス伯が……。悪くない決着ですね」と言って、ティルカールは満足そうに笑った。そして、しばらくしたら帝国南部の直轄領に赴任するのだと語って去っていった。

 ウィンは思う。ティルカールは、金を領民のために使うつもりだったのではないだろうか。金があるというのに、オインロフォム領に埋もれさせておくのは無駄だ。だが、金の存在を帝国に知られれば帝国領に組み込まれて領民のためには使われない。パルセリフィン公らに協力して、わずかでも自分も金を手に入れることができれば領民のために生かせる。

 そしてトルトエン副伯が攻めてきた。ティルカールは、ウィンとトルトエン副伯、いやパルセリフィン公らを天秤にかけていたのかもしれない。ウィンやラゲルスたちは、その気になれば夜陰に紛れて逃亡することもできた。だが彼らはワイトの要請を受け入れて最後まで戦った。ウィンかパルセリフィン公か。積極的な妨害を行わず、むしろウィンに協力していたのはウィンを選んだからか。


 もちろん、ウィンの買いかぶりに過ぎず、ティルカールは私腹を肥やすことしか考えていなかったのかもしれない。今となってはどちらでいいことだ。

次回、最終回です。

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