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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
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純白の花嫁

 帝国歴223年10月、カーリルン公アルリフィーアとラフェルス伯ウィンの婚礼がフロンリオンで執り行われた。帝国諸侯同士という極めて珍しい組み合わせとあって、2人の婚姻は帝国中の耳目を集めた。


 その日は朝から約1名が大混乱に陥っていた。

 「エメレネア、入浴じゃ入浴。隅々まで清めるのじゃ」

 「髪、髪が乾かぬ! デシャネル、どうしよう」

 「香油香油。違う、もっとこう、ふわっとよい香りがするやつじゃ!」

 「ああ、紅がはみ出した! エメレネア、代わりにやってくれ」

 デシャネルの差配に任せておけばよいものを、自分で勝手に何かやっては失敗して大騒ぎしている。

 「姫様、ご安心を。列席者全員が息をのむような美しさですよ」とデシャネルがなだめる。

 「列席者など正直どうでもよいわ。好きに思わせておけ。ああ、ウィンを失望させたらどうしよう」

 「これで失望するようなら、平手打ちでもして差し上げればよいでしょう。お得意でしょう」

 「失礼な。別に平手打ちが得意な訳ではないわい」

 最後に、純白の衣装に袖を通す。フワリと広がった裾とキュッとすぼまった腰の部分が、アルリフィーアの細い腰回りを際立たせている。

 目の周りに施した化粧によって、もともと大きな目がさらに強調されている。赤過ぎない桃色の染料がつぼみのような唇を彩り、木目が細かい肌には薄く白粉が乗せられ、頬紅が顔に生気を加えていた。耳たぶに付けた耳飾りは、アルリフィーアが動くたびに揺れてきらきらと輝く。

 エメレネアをはじめ、侍女たちはアルリフィーアをうっとりと見つめた。デシャネルは涙でかすんでアルリフィーアがよく見えなかった。実の子を持つことがなかったデシャネルにとって、アルリフィーアこそが我が娘だった。

 どれくらいアルリフィーアに見とれていただろうか。エメレネアははっと我に返り、やるべきことを思い出した。「さあ、ラフェルス伯がお待ちですよ!」


 ウィンは、目の前に現れたアルリフィーアに息をのんだ。

 「リフィ、その……いい天気だね」

 「何じゃそれは。他に言うことがあるじゃろ」

 「これからの領地のこととか?」

 「たわけ! きれいだねとか美しいねとか、感想はないのか?」

 「ああ、そういうことか。きれいだね」

 「感情がこもっておらん! やり直し!」

 「お2人とも、誓いの儀式が始まりますのでご入場を」

 2人が儀式の間に入ると、参列者の間にどよめきが起こった。カーリルン公のなんと美しいことか。それに引き換え、横に立つ夫の風采の上がらなさはどうしたことか。均整の取れた体格と整った顔立ちの割に、どうにもやる気が感じられない。妻の引き立て役にしかなっていない。

 アルリフィーアは、指折り数えて心待ちにしていたこの日がついに来たという実感を得て、叫び出したくなってきた。嬉しくてたまらない。

 「リフィ、鼻、鼻」

 「しまった」

 2人は多くの貴族や顕官が見守る中で、出席者を証人として契約の神ドルゲゾンに互いに裏切らないことを誓う。繁栄と豊穣の女神ストラミゼトラに2人の名を宣して子孫の繁栄を願う。それぞれの守護神に相手の守護を求めて、式は終了した。


 この時をもって、2人は夫婦となった。


 ウィンはアルリフィーアよりも20セルほど背が高いので、アルリフィーアがウィンの顔を見るときは見上げる形になる。アルリフィーアの視線を感じて、ウィンは彼女の顔をのぞき込んだ。

 「何?」

 「ドルゲゾンに宣誓するとき、ちょっと噛んだじゃろ」

 「ばれたか」

 アルリフィーアはくすりと笑った。ウィンはやはりウィンのままだった。

 「え? 何?」

 「これからはずっと一緒じゃ!」


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