トルトエン副伯 その2
「貴公は頭が回るようだが、彼の裏切りには気付かなかったか。ドルトフェイムに居て、ラフェルスをよく知る人物……」
「帝国代官……」
「そう、ティルカールだ」
5年前の事件とつながっていたのだ。
ティルカールの前の代官は、ラフェルス副伯領内を視察しているときに城館の残骸に気付いた。彼はトルトエン副伯領に居るオインロフォムのところに乗り込んで、撤去を要求した。要求を飲めばあの穴が露出する。拒否したとしても、あの残骸に目を付けられたからには秘密が露見する恐れがある。そこで金をエサにして抱き込みを図った。
だが前代官はそれを拒否し、進退窮まったオインロフォムの手で殺害された。この事件は、オインロフォムの家臣による犯行ということにされ、その家臣をオインロフォムが手討ちにしたということで片付けられた。帝国側にまともな文書が残っていないのはそのためだ。
そして、代わりにティルカールがラフェルスに赴任してくる。ティルカールは、前代官がオインロフォムの家臣に殺されたと知り、そこから調査を始めてオインロフォムの旧領地の残骸にたどり着いた。ティルカールが前代官と違う点は、オインロフォムの抱き込み工作に乗ったことである。彼は、金を採掘できるようになったら分け前を受け取るという条件で、パルセリフィン公らの計画に協力することにした。
そうした一面はあるにしても、彼は優秀な代官だった。領民のために善政を敷き、つつがなく統治した。ウィンが疑わなかったのも無理はない。トルトエン副伯を騙しはしたが、ウィンを積極的に妨害するような行動は取らなかった。共に籠城して、共に飢えていた。金の隠蔽に協力して分け前を得るという点以外については代官として誠実であったのだ。
「まあ人間とはそういうものなのだろうな。善良なら正しいことしかしない、というわけではない。悪人でも人を助けることもあろう。善良だが多少は不正もする。金を帝国に無断で採掘したところで領民は困らぬしな」。そう言ってダリオネイムは笑った。
ダリオネイムとその父は、2代にわたって騙され、領地を失うに到ったということになる。領民に重税を課していたことはいえ、許されないほどの苛政ではなかった。
「私もできる限り減刑を主張しておきますよ」と言って、ウィンは彼の下から辞去した。




