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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
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戦後処理

 オインロフォムの自供によって、戦後処理は一気に進んだ。

 パルセリフィン・グライスは解体され、その担当地域はガリトレイム・グライスに一時的に編入された。

 パルセリフィン公は当初、事態の把握に時間がかかったと苦しい申し開きをしていたが、カーリルン公からの要請が初期からあったことをガリトレイム公が証言したことで退路を断たれた。これによって、グライス軍を動かさなかったことは意図的な怠慢、あるいはグライスの長官たる能力の著しい欠如と見なされた。これは特にロレンフス大公を激怒させ、皇帝に対して厳罰を要求したといわれている。

 ロレンフスはウィンのことを嫌っていると思っていたムルラウ大公は意外に思ったが、ロレンフスにとって帝国の統治機構の健全化は自身の感情をはるかに上回る重大事だった。ムルラウは、まだロレンフスの複雑な心理を十分に理解しているとは言えない。

 パルセリフィン公は、公爵位とソルブレー副伯位を剥奪されてメルレロー伯の爵位のみが残された。パルセリフィン公領は当面、帝国直轄領とされた。

 これに連動して、ガリトレイム・グライスの取次であるトウデイゼンの怠慢も明らかになった。レオテミルからの訴えはしかるべき機関に全く伝わっていなかったのだ。トウデイゼンは宮内伯の地位を奪われ、皇帝宮殿から追放された。彼はタッカツァーカの意を受けていたと主張したが証拠はなく、タッカツァーカも否定した。トウデイゼンが報告すべき相手はタッカツァーカではなく侍従長であったから、タッカツァーカに止められたのが事実であったとしてもトウデイゼンに言い訳の余地はなかった。


 時は少々さかのぼるが、フォロブロンがラフェルス副伯領救援に出発した2日後には、枢機侯の1人であるナインバッフ公にトルトエン副伯の討伐令が発せられた。この命令はドルトフェイム解放の少し前にナインバッフ公の下に届き、6月18日にナインバッフ・グライス軍によるトルトエン副伯領侵攻が始まった。

 ラフェルス副伯領侵攻のためにトルトエン副伯自身も兵力も出払っていたトルトエン副伯領は、戦うことなく降伏した。

 トルトエン副伯領は、ラフェルス副伯救援に功があったフォロブロンに与えられ、アレス副伯兼トルトエン副伯となった。

 パルセリフィン公が保持していたソルブレー副伯領はラフェルス副伯領と統合され、ラフェルス伯領として再編された。これによって、ウィンはラフェルス伯に陞爵した。

 一見すると大変な出世に見えるが、副伯領2つ程度では小規模な伯爵領にも全く及ばない。ラフェルス副伯領とソルブレー副伯領を合わせても、帝国最大級の副伯領をようやく上回るという程度なのだ。伯爵は3500~1万人強の軍役を課されるが、ラフェルス伯は所領の規模的に軍役は1500人程度になるだろう。ほぼ副伯級である。

 こうして、「帝国史上最小の伯爵領」が成立した。爵位は、いわく付きの領地を与えたことに対するせめてもの補償といったところだろう。ウィンは、「最小の伯爵領か。私らしいね」と言って笑いながら頭をかいた。

 ナンガインは宮内伯の地位を剥奪された上で斬首と決まった。


 皇帝の執務室では、タッカツァーカが皇帝の前に立っていた。

 「こたびのこと、不手際だったな」

 「ラフェルス副伯領にあのような問題があったとは、私も驚愕致しました」

 「この始末、何とする」

 「既に責任を取らせ申した」

 「何?」

 「今回の叙位に際してラフェルス副伯領を推した我が被官、レルトリエバを処断致しました」

 皇帝は怒気をはらんだ目でタッカツァーカを睨み付けた。タッカツァーカはそれをあえて無視して続けた。

 「レルトリエバめはラフェルスを私に執拗に推薦しておりました。やつはセレイス卿もといラフェルス伯に何やらふくむところがあったようで」

 「レルトリエバとやらの主として、貴公にも責任があると愚考するが?」

 「私も責任を痛感しております。かくなる上はしばらく謹慎致します」

 「ほう、謹慎。殊勝なことだと言いたいところだが、いささか軽過ぎるように思えるがな」

 タッカツァーカは皇帝の皮肉を受け流し、恭しく礼を取ると静かに退室した。

 タッカツァーカに明白な罪はない。単に、帝国直轄領だった副伯領を提示したに過ぎない。それを容れたのは皇帝であり、副伯領を巡る兵乱にタッカツァーカは一切関わっていなかった。

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