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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
ナルファスト公国へ
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婚礼

 ナルファスト公レーネットと大公女アトラミエの婚礼が挙行された。

 日焼けしているレーネットの隣に立つと、アトラミエの白さが際立った。純白の装束が彼女をさらに引き立てた。「まさにモルステット山脈の万年雪の如し」と形容され、新たに「雪の女王」という美称が奉られることになった。

 2人は多くの大貴族や顕官が居並ぶ中、出席者を証人として契約の神ドルゲゾンに互いに裏切らないことを誓う。繁栄と豊穣の女神ストラミゼトラに2人の名を宣して子孫の繁栄を願う。それぞれの守護神に相手の守護を求めて、式は終了した。


 そのまま隣の広間に移動して、立席の酒宴となった。

 皇帝の名代としては、ロレンフスに代わって次男でアトラミエの弟の大公ムルラウが出席していた。ロレンフスは領地の事態収拾に忙殺されており、出席することがかなわなかった。

 美男の家系であるティーレントゥム家の例に漏れず、ムルラウは出自のみならず見た目においても目を引く存在だった。だが、今回はやや分が悪かった。

 枢機侯であるニークリット公ソルドマイエ2世も出席していたのだ。ソルドマイエ2世は万能の天才と噂されている。何をやっても一流の技量を発揮し、人に後れを取ったことがないという。さらに、類いまれなる美貌で既婚未婚を問わず多くの女性の目を釘付けにしていた。妙なる美女のようでもありながら、男性的な力強さと猛々しさを兼ね備えている。その絶妙な均衡が女性にはたまらなく魅力的に映るらしい。

 ワルヴァソン公、マーセン公、ナインバッフ公の3枢機侯は皇帝と同様名代の派遣にとどめたため、この場に居る枢機侯はレーネットとソルドマイエ2世の2人ということになる。2人とはいえ、枢機侯が帝都以外で顔を合わせるのは珍しいことだった。


 ウィンらは隅で目立たないようにしていたが、フォロブロンに気付いたソルドマイエ2世が近づいてきた。こうなっては仕方がない。ベルウェンとラゲルスは跪き、ウィン、フォロブロン、ムトグラフは右手を左胸に当てて30度ほど腰を曲げて会釈した。

 「アレス副伯(フォルブロン)ではないか。久しいな」

 「ご無沙汰しております。ニークリット公」

 行きがかり上、フォロブロンはウィンらを紹介した。ウィンはこの場を離れる機会を窺っていたのだが、これでは離脱できない。

 「ほう、ナルファスト問題を収めたというあの監察使殿か。アレス副伯もその件に関わっていたとは知らなかった。今日のナルファストがあるのは貴公らのおかげだな」

 かなり噂に尾ひれが付いているようだ。ナルファスト継承戦争は、「なるようになった」だけだとウィンは思っている。ウィンなど居なくても、レーネットが継承する以外の道がなかったのだから。

 そこにアトラミエを伴ったレーネットがやって来た。「ニークリット公がおっしゃる通り。セレイス卿なくしてナルファストなしだ」と言ってレーネットが肯定してしまったため、過大評価された噂は今後さらに助長されてしまうだろう。

 「いろいろと不幸もあったことには同情を禁じ得ない。だが、帝都一の華を手に入れたことには羨望の念を禁じ得ない」

 ソルドマイエ2世はそう言うと、アトラミエに向かって杯を掲げた。アトラミエは軽く会釈してその世辞に答えると、レーネットと顔を見合わせてクスッと笑った。

 ソルドマイエ2世はそんな2人を見て愉快そうに笑った後、急に表情を消した。「ナルファスト公、いやレーネット。こたびの件は本当に残念だった。お前の心中、察するに有り余る。この非才の身では大したことはできぬが、私にできることがあったら遠慮なく頼れ」

 一転、涼やかな表情に戻ると「麗しの君に振られてしまった道化はそろそろ退散するとしよう。お2人が永く共にあることを心から祈って!」と言って、ソルドマイエ2世は去っていた。

 「相変わらずだな」とレーネットがつぶやいた。ソルドマイエ2世はレーネットよりも2つ年上で、この年23歳。ソルドマイエ2世とレーネットは共に公位継承者として年少時から会う機会が多かった。幼なじみと言ってもいい関係である。だが単に気心が知れている、親しい、という感じではないようだ。ソルドマイエ2世を見るレーネットの顔は複雑だった。

 「何やら危ういところも変わっていない。何ごとも起こさねばよいのだがな」

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