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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
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穴 その2

 いや、パルセリフィン公の視点に立つと見える景色が変わる。「握りつぶせなくてもよい」のだ。トルトエン副伯に、「握りつぶしてやる」と信じ込ませるだけでいい。トルトエン副伯がウィンを攻め滅ぼしたら、グライス軍を動かしてラフェルス副伯領を奪還しつつトルトエン副伯を拘束し、処断する。後は何らかの手段でラフェルス副伯領を手に入れる。

 では、ウィンがラフェルス副伯になったのも計画の一環なのだろうか。この機会にウィンを滅ぼしてしまおうという悪意が働いたのか。

 その可能性は捨て切れないが、面識もないパルセリフィン公にそこまで憎まれるものだろうか。むしろ、パルセリフィン公たちにとっても不測の事態だったのではないか。帝都は魔窟だ。全く別の意思がウィンをラフェルス副伯にした。そしてパルセリフィン公らはウィンを攻め滅ぼさざるを得なくなった。この筋書きの方がしっくりくる。

 金が採れるとなれば帝国に報告する義務があるが、オインロフォムは報告していない。彼の意思かパルセリフィン公の指示かは分からないが、結果的に私物化しようとしていたことは間違いない。

 「……貴公の言う通りだ。あの辺りには大昔、川が流れていたらしい。そこで、私は川の跡を掘削してオールデン川の支流を作り直そうとした」

 オインロフォムは、あの低地も掘り下げて船着き場にする予定だった。そうすれば、オールデン川まで行かなくても水運を利用できるようになる。この工事の利便性のために、自身の城館と人夫の宿泊施設を建設した。これが穴を隠すために使われた城館の正体だ。

 「そして掘削を始めると、金らしきものが出た。詳しくは知らぬが、金鉱石とかいうものではなかったらしい。土砂と砂金が混ざったようなものだ」

 当然ながら、オインロフォムは驚いた。パルセリフィン公を通して帝国に報告しようとしたが、パルセリフィン公がそれを止めた。自分たちで内密に採掘しようというのだ。しかし、金を採掘するとなるとさすがに目立つ。ラフェルス副伯の目をごまかすのは不可能だ。

 そこで、ナンガイン宮内伯も仲間に引き入れてラフェルス副伯を罠にはめた。7年前の義援金事件だ。ナンガインが手を回して、ラフェルス副伯には皇帝の命令書を送らなかった。ラフェルス副伯は本当に正直に、事実を語っていたのだ。だが、「送られてこなかった」というごく単純な事実を証明することがラフェルス副伯にはできなかった。そんなことは誰にもできない。

 そして、十分な反論も許されず転封処分となった。トルトエン副伯となった前ラフェルス副伯は、失意の中で程なく死んだ。

 「貴公やパルセリフィン公、ナンガイン宮内伯の思い通りに事が進んだというわけか」

 「ところがそうでもないのさ。貴公も知っているだろう」

 パルセリフィン公の手にラフェルス副伯領は入らなかったのだ。ナンガインはタッカツァーカ派ではなかった。そのため、パルセリフィン公が持つソルブレー副伯領とラフェルス副伯領の交換は、タッカツァーカの妨害によって頓挫した。タッカツァーカは陰謀を察知して防いだわけではない。単純にナンガインへの嫌がらせ、当て付けとして帝国直轄領にしてしまったのだ。他派の邪魔をすることしか考えていない男によって、ラフェルス副伯領を手に入れるという計画は失敗した。

 オインロフォムもトルトエン副伯領に行くことになったため、城館を破却してその残骸で金を掘りかけた穴をふさいだ。

 「金を発見された以上、罪は隠せない。ならばパルセリフィン公とナンガイン宮内伯も道連れにせねばな」

 オインロフォムはそう言って笑った。

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