帰参
市庁舎の討議室で、アルリフィーアの前にニレロティス、バルエイン、ポロウェスが跪いていた。アルリフィーアの後ろには、遅れて到着したゾルトアエルが控えている。ベルロントは留守居役としてフロンリオンに居る。
「ニレロティス卿、バルエイン卿、ポロウェス卿、久しぶりじゃな」
「カーリルン公もお変わりなく……」
「ドルトフェイム解放に大功があったと聞く。ワシからも礼を申す」
「我ら、遍歴騎士として勝手にやったこと。カーリルン公には一切関わりございません」
「貴公らを遍歴騎士にして、ワシだけ無傷でおれと申すか」
ニレロティスらは、あくまでもアルリフィーアとは無関係という態度を貫いた。アルリフィーアの意を酌んだ行動であってはならない。それでは帝国法に背くことになる。誰にも仕官していない遍歴騎士たちによる独自の行動でなければならないのだ。
ニレロティスらはウィンに借りがあった。ウィンがいなければカーリルン公領の窮状を打開することはできなかっただろう。そして、アルリフィーアの願いをかなえるには、カーリルン公の家臣という身分が邪魔だった。これらを解決するには、出奔するしかなかった。ニレロティスらに後悔はない。
「改めて貴公らに頼む。帰参してくれぬか。今は仕えるに値しない君主かもしれぬが、貴公らの主たるよう努力致す」
「もったいないお言葉なれど、我らを召し抱えては帝国の不興を買いましょう」
「……ならば、貴公らの領地は一時的にワシが預かる。他の者には与えぬ」
お互い、今はこれが妥協点だった。それぞれ多くのしがらみに絡め取られており、自分の意志だけではかなわぬことだらけだった。本音を語ることもできなかった。
「レンテレテス卿には、無理を言って同心を諦めてもらいました。彼ならば必ずや公爵の支えとなるでしょう」
ニレロティスはそう言うと、ポロウェスらと共に退室しようとした。
「そこで提案なのだが」
ウィンと共に部屋の隅に居たフォロブロンがニレロティスらを制した。
「貴公らは皇帝軍として参戦した、ということにすれば全て丸く収まろう」
「ほとぼりが冷めるまでラフェルス副伯領で預かるという手もあるけど、アレス副伯の提案に乗る方が手っ取り早いだろうね」
「そんなことでよいのか!?」
アルリフィーアもニレロティスらも、帝国中枢の話はまだ知らない。今回は通常の事態とは違うのだということを。
「『帝国法が機能していたのであれば』、ニレロティス卿には一時カーリルン公領を離れていただく必要もあろう。だが今回はグライスが機能していなかった。グライスが機能していれば、グライス軍によってトルトエン副伯軍は鎮圧され、ニレロティス卿が出奔する必要もなかった。問われるべきなのはグライスが機能しなかったことなのだ」
マーティダの憤り方から見て、皇帝とも認識を共有している可能性が高い。処分の対象になるのはカーリルン公ではなくパルセリフィン公だ。そしてフォロブロンは貴族に軍役を課す勅命を受けている。勅命に基づいてカーリルン公に軍役を求めたとすることは十分可能だった。
フォロブロンの発言を受けて、ウィンがまとめた。「ニレロティス卿らがカーリルン公を見限ったのであれば仕方がないけど。どうする?」
ニレロティス、バルエイン、ポロウェスはアルリフィーアの前に改めて跪いた。
「カーリルン公にお仕えすることをお許しいただきたい」
「貴公らを我が家臣と致す! 存分に働くがよい!」




