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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
ラフェルス副伯領へ

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ドルトフェイム解放

 薄氷を踏むような勝利だった。

 フォロブロンが率いてきた皇帝軍もまた、十分に戦える状態ではなかったのだ。ドルトフェイムに到着することを最優先にして駆け続けたため、馬たちの疲労は限界寸前だった。トルトエン副伯軍が降伏せずに徹底抗戦していたら皇帝軍は勝てなかったかもしれない。

 ドルトフェイムは城門を開き、ラゲルス、ニレロティス、フォロブロンらの軍は歓呼をもって迎えられた。フォロブロンが途中で手配していたため、食料などの物資も程なく運ばれてきた。ドルトフェイムは、なんとか餓死者を出すことなく解放されたのである。

 「やあみんな、助かったよ」

 ウィンは城壁の上でへたり込んでいた。

 「ラゲルス、傷の具合は?」

 「ちょいと刺された程度ですよ。もう血も止まってまさぁ」

 「ニレロティス卿、バルエイン卿、ポロウェス卿は一体……」

 「カーリルン公領から出奔して参った。カーリルン公とは無関係と宣言してきたゆえ、カーリルン公にとがが及ぶことはあるまい」

 出奔と聞いて、ウィンもラゲルスもフォロブロンも驚いた。

 「気にすることはない。我ら、領地もない根無し草になったが後悔はしていない。ラフェルス副伯には借りがあるからな」

 「良い機会だ。遍歴騎士として諸国を旅するのも悪くない」と言って、ポロウェスが笑った。バルエインもどこかさっぱりしたという顔をしている。


 ニレロティスらは志願者だけを連れて出奔した後、ドルトフェイムに向かった。しかし、300騎では2000の攻囲軍に太刀打ちできない。ドルトフェイム近郊の森に潜んで様子をうかがったが、付け入る隙がない。

 「ニレロティス卿、どうする?」と言うポロウェスに、ニレロティスは答えた。

 「機会は必ずある。それまでここで待機だ」

 アルリフィーアのためであればウィンを救出するために討ち死にすることも辞さない覚悟ではあるが、犬死にするつもりはない。あの小ざかしい監察使は、必ず何か仕掛ける。それに乗じて参戦するしか可能性はない。

 ニレロティスの話を聞いていたバルエインが顎をさすりつつ空を見上げた。「もうすぐ新月か……。そこだな」

 当然、敵も新月の夜は特に警戒するだろう。だがニレロティスらの存在までは知られていない。ドルトフェイムからの反撃に注意が向けば、必ず隙が生まれる。


 「アレス副伯は?」

 「私は帝都でムトグラフ卿と会って、貴公の危機を知った。知ってしまったからには放ってはおけん。まあ、間に合って何よりであった」

 フォロブロンはそう言って、珍しく声を上げて笑った。

 フォロブロンは当初、ドルトフェイムの手前で馬を休ませ、態勢を整えてから改めて進軍して攻囲を解くように説得するつもりだった。だが、先行させた斥候から「ドルトフェイムの城壁外で戦闘が行われている」と聞き、強襲に切り替えたのだ。穏便に説得していたら、餓死者が出ていたかもしれない。


 「それより、爵位と領地を持った気分はどうだ? ラフェルス副伯」

 「こりごりだよ。だから嫌だったんだ」

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