奇襲 その2
「ラゲルス!」
背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、騎兵たちが突っ込んできた。
「あ!?」
「ラゲルス! 無事か!?」
ニレロティスの声だ。ニレロティスらはラゲルスの横を駆け抜けつつ敵兵を粉砕すると、方向転換して西門から迫る敵兵に正面から突撃した。トルトエン副伯軍は、突然現れた援軍に明らかに動揺している。その動揺が勝敗を分けた。西門の部隊を敗走させると、ニレロティスらはラゲルスのところに戻ってきた。
「負傷しているのか」
「太い血管は無事だ。痛ぇだけだ」
東門の部隊は、新手の出現を警戒して前進を停止し、様子を窺っている。
「ラフェルス副伯はご無事か?」
「城壁に居るはずだ。餓死してなきゃな」
お互い、聞きたいことは山ほどあったが戦いは終わっていない。ラフェルス副伯軍の奇襲部隊は250人程度に減っていた。ニレロティスらが連れてきた騎兵は約300騎。東門の部隊と大差がない。しかも、ラフェルス副伯軍は飢えかけている上に負傷者ばかりだった。
だがグズグズしている場合ではない。北門を押さえていた部隊まで来たら勝ち目がなくなる。不利を承知で東門の部隊に攻め込むか。
「ラ~ゲ~ル~ス~、う~し~ろ~」
城壁の上から間抜けな声が聞こえた。振り向くと、ウィンが西の方を指さしている。言いたいことは分かった。
「北門にいた敵兵が来ちまったらしいな」
「後は我々が引き受ける。怪我人は下がっていろ」
「祭りはこれからだぜニレロティス卿。仲間はずれはないぜ」
北門の部隊が西側から現れた。それを見た東門の部隊は挟撃を狙って前進を開始した。勝利を確信して、活気づいている。
「やつら、急に元気になりやがった」
その東門の部隊が、突然混乱し始めた。左右に逃げ散っている。
「やつら、どうしたのだ」
馬に乗っている分、ラゲルスよりも遠くが見えるニレロティスが困惑した。
「どうかしましたかね」
「敵軍が敗走している」
「敗走? 戦う前に?」
「いや……背後を突かれたようだ」とポロウェスが言う。
そして、新たな騎兵部隊が出現して東門の部隊を駆逐しつつ近づいてきた。
「皇帝軍である! トルトエン副伯の軍は直ちに降伏せよ!」
フォロブロンが率いる皇帝軍が戦場に到着した。皇帝軍であることを示す軍旗がはためき、戦場を圧倒した。
ラゲルスらの背後に迫っていた北門の部隊は、その軍旗を見て降伏した。




