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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
ラフェルス副伯領へ

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奇襲 その1

 トルトエン副伯軍は、約2000の兵を4つに分けて東西南北4つの門を封鎖している。ドルトフェイムから逃げ出すのは不可能だった。

 女性と子供だけでも城外に出したいと何度か交渉したが、拒否された。食料の枯渇を早めるためだろう。

 前日の激しい攻防の疲れからか、両軍は寝静まっていた。攻囲側にとっても時間がないはずだ。翌日も強襲を仕掛けるつもりで英気を養っているのかもしれない。


 その夜は新月だった。

 その闇夜に紛れて駆け抜ける影があった。1つ2つではない。300はいる。

 縄を使って城壁から降りてきたラフェルス副伯軍だった。カーリルン公領統一戦争時に、ザロントム籠城軍が使った手だ。籠城側が使える数少ない積極策の一つで、これ自体は目新しいものではない。使う時期と対象の見極めの問題だ。

 2000対300では勝ち目がない。だが、攻囲側は2000の兵を4つに分けている。城壁の上から観察を続けて、南門を押さえている部隊に本陣があるらしいことが分かった。この本陣を300の兵で突くのである。トルトエン副伯を人質にできれば最高だ。

 敵は、強襲時の手応えから籠城側が弱っていると感じたはずだ。実際、兵糧不足で弱っているのだ。負傷や飢餓によって、奇襲に参加できた兵力は300人に過ぎない。落城は時間の問題だと思っているだろう。それが油断につながれば勝機はある。そして、奇襲に最適な新月。一度限りの奇襲の機会は今夜しかなかった。

 ディランソルに200人を預け、ラゲルスは100人を率いることにした。ディランソル隊が仕掛けて混乱させたところで、ラゲルス隊が一気に本陣を蹂躙する。

 この作戦が失敗したらもう後がない。ラゲルスらはドルトフェイムに戻ることもできず、トルトエン副伯軍に袋だたきにあって全滅するだろう。ラゲルスらを失ったドルトフェイムは防衛機能が著しく低下し、トルトエン副伯軍の強襲に耐えるのは不可能になる。


 叫び声が上がった。ディランソル隊による奇襲が始まったらしい。トルトエン副伯軍本陣は混乱しつつもディランソル隊への反撃に転じようとしている。

 「てめぇら、いくぞ」

 ラゲルス隊がトルトエン副伯軍の背後を強襲した。トルトエン副伯軍の混乱に拍車が掛かる。

 「大将は生け捕りにしろ! 殺すなよ!」

 とはいえ、月明かりもない暗闇である。かがり火のわずかな光だけが頼りだった。同士打ちを避けることすら難しいというありさまだ。

 初めは優勢だったが、徐々に押し返され始めた。やはり兵糧不足が効いている。そもそも相手の方が数が多い。しかも、てこずっていると他の陣から援軍が来てしまう。

 空が白み始めた。徐々に周りが見えるようになってきた。

 「!」

 ラゲルスの左太股に槍が突き刺さっていた。ラゲルスはその槍をつかんで相手の動きを封じると、自分の槍で相手の喉を突いた。

 「不覚を取ったぜ」

 周りの傭兵が駆け寄ろうとするが、ラゲルスはそれを制して戦いを続けさせた。足に力が入らない。左膝をつくと、それを見た敵兵がかさにかかって責め立ててくる。落ちていた槍を投げ付ける。敵兵の足に絡まって、敵兵の1人が転倒した。その間にもう1人がラゲルスに迫る。その敵兵を自分の槍で突いて倒すと、槍を杖にして強引に立ち上がった。

 左右から、他の門を押さえていたトルトエン副伯軍が迫ってくるのが見えた。

 「失敗しちまったか。悪ぃな、旦那」

 こうなったら、力尽きるまでに1人でも敵兵を減らしておくか。いいかげん、腹も減ったしな。ろくな死に方はしないと思っていたが、想像よりも悪くない終わり方ができそうだ。

 ラゲルスはドルトフェイムの城壁に向かってニヤッと笑うと、敵に向き合った。なぜか、とても満足していた。

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