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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
ラフェルス副伯領へ

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再会

 帝都に来たフォロブロンは多忙であった。前年から隣の某伯爵と水利権を巡って揉めており、その処分が有利になるように宮内伯たちに根回しをしているのである。本来は帝都に常駐させている家臣の仕事である。だが、「ここぞ」というところは副伯自ら出向いた方が心証がいい。

 フォロブロンにとっては苦手な仕事だった。領主などになるのではなかったと思う。その点セレイス卿は気楽でうらやましい。

 某伯爵との係争発生時から、帝都詰めの家臣に何かと助言してくれているというコーンウェにも挨拶しておく必要がある。コーンウェの詰め所を訪ねて挨拶と助言に対する礼を述べて辞去しようとすると、コーンウェに呼び止められた。

 「そういえば、今ムトグラフ卿が帝都に来ているそうです。文書庫に詰めているそうだから顔を出してみてはいかがか」

 ムトグラフが帝都に「来ている」? 彼はコーンウェの被官ではなかっただろうか。コーンウェの表現に引っ掛かりつつ、外廷の文書庫に行ってみることにした。ムトグラフは簡単に見つかった。

 「おやアレス副伯(フォロブロン)、久しいですね」

 「先ほどコーンウェ宮内伯のところにいたところだ。貴公は今何を?」

 「ああ、まだご存じなかったのすね。私は今セレイス卿(ウィン)、もといラフェルス副伯の家臣になったのですよ」

 「待て、ちょっと待て。情報量が多過ぎる。セレイス卿の家臣になったって? ラフェルス副伯?」

 「ええ。セレイス卿がラフェルス副伯に叙位されたのです」

 ウィンが爵位を得たというのも驚きだが、他にも気になる単語がある。

 「ラフェルス、ラフェルス……ラフェルス副伯! ムトグラフ卿、こんなところで記録をめくっている場合なのか? ドルトフェイムが大変なときに」

 「ドルトフェイムがどうかしたのですか?」

 「知らないのか。ドルトフェイムが前ラフェルス副伯に攻囲されている。この目でしかと見た」

 「前ラフェルス副伯? ラフェルス家が? 一体いつ?」

 フォロブロンとムトグラフの間に知識と情報の齟齬があり、なかなかかみ合わない。だが、話しているうちに互いの欠落が擦り合わされていった。

 つまり、前ラフェルス副伯であるラフェルス家が領地の交換をウィンに持ち掛けたが、ウィンはそれを拒絶した。するとラフェルス家がドルトフェイムを攻囲して実力行使で旧領を取り戻そうとしている、ということになる。フォロブロンが見たのは10日以上前のことだ。今頃は陥落しているかもしれない。

 「いや、こうしてはいられない。ドルトフェイムの兵は今500もいないんですよ。2000もの大軍に攻められたら守り切れない」

 「待て。グライス軍が動いているはずだ」

 とはいえ、ラフェルス家がドルトフェイムを囲んでいるのを目撃して、それが可能な状況に不審を抱いたのはフォロブロン自身ではなかったか。

 2人が外廷で立ち話をしていると、レオテミルに行き会った。フォロブロンは面識がないが、ムトグラフはカーリルン公領で何度も顔を合わせている。レオテミルはムトグラフを見ると、慌てて駆け寄ってきた。

 「ムトグラフ卿、今ドルトフェイムが!」

 「私も先ほど知ったところです。レオテミル卿はなぜ帝都へ?」

 レオテミルは、ガリトレイム・グライスを通じてパルセリフィン・グライスを動かすべく、トウデイゼンにかけあっているのだと語った。善処するという返答はもらったものの一向にパルセリフィン・グライスが動く気配がなく、毎日のようにトウデイゼンの詰め所に通っているのだという。

 「つまりグライス軍は動いていないのか?」

 フォロブロンは驚いた。やはりラフェルス副伯領は放置されているということになる。

 「マーティダ宮内伯から陛下に奏上していただきましょう」とムトグラフが提案した。取次が機能していない以上、それしかあるまい。


 フォロブロン、ムトグラフ、レオテミルの話を聞いたマーティダは激怒した。帝国としてあり得べからざる状態である。「早速奏上するからここで待て」と言い残してマーティダは内廷に向かった。

 マーティダは、太陽が15度ほど移動した頃に戻ってきた。

 「勅令!」とマーティダが叫んだ。

 フォロブロン、ムトグラフ、レオテミルは跪いて、勅令を拝聴する姿勢を取った。これからマーティダが発する言葉は皇帝の言葉である。

 「アレス副伯は、帝都に駐屯している近衛兵200騎を伴って、ラフェルス副伯領を侵略するトルトエン副伯軍を討伐すべし。途上にある皇帝領の貴族にも20分の1の軍役を課す」

 「勅命、しかと承りました」

 フォロブロンは立ち上がると、マーティダに一礼して走り去った。それを見送ってから、マーティダは続けた。

 「ムトグラフ卿は帝都に残って関係者の対応について調査すべし。レオテミル卿は、皇帝陛下のお耳にも入ったことをまずはカーリルン公(アルリフィーア)にお伝えせよ」

 「マーティダ宮内伯、ご助力に感謝致します」

 「当然のこと。それよりも、このままでは済まさぬ。安全保障体制が機能しないなど、帝国の威信に関わる」

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