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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
ラフェルス副伯領へ

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飢え

 ドルトフェイムの食料不足が深刻になってきた。もともと籠城に備えて食料を備蓄していたわけではない。最近まで帝国直轄領だった街だけに、他者に攻められるという危機感もなかった。籠城した時点では、10~15日程度でグライス軍が来ると考えていたので食料はもつと想定していたが、今のところ助けは来ない。

 市内にいたわずかな家畜や愛玩動物も食肉になった。籠城戦では使い道のない軍馬も食用化した。軍馬など食ってもうまくはないが、土や石と違って食うことは可能だ。馬を養う余裕がないという面もある。つまり口減らしだ。

 「仕方がない。ロレルだけ特別扱いというわけにはいかない」と言って、ウィンは愛馬ロレルを連れてきた。涙をポロポロこぼして、エウエウと声を上げて泣いている。副伯とは思えない大層見苦しい顔に、首脳陣は絶句した。

 「ウィン様、みっともないですよ」

 「あー、皇帝からもらった馬をツブすのはマズでしょうや。いいから、鼻水拭けって」

 ラゲルスは、ウィンの顔をゴシゴシと拭いつつ追い返した。あんな顔を見せられてロレルをツブせる訳がない。

 いずれにせよ、ドルトフェイムはそう長くはもたない。ロレルを食肉化したところで大勢は変わらない。


 トルトエン副伯派と見なされた市民が襲撃されるといった事件が何度か発生しているが、今のところ組織的な「トルトエン副伯派狩り」のような動きはない。軋轢と疑心暗鬼が蔓延しているが、ぎりぎりの線で小康状態を保っている。

 ウィンは用があるとき以外は城壁の上にいて、市民と同じ物を食べている。常に姿をさらすことで「副伯だけ贅沢をしている」といった不満は生じていないようだった。だが、完全に食料が尽きたとき、市民の怒りは副伯に向かうだろう。

 「そろそろ、開城することも考えないとね」とウィンが言い出した。

 「開城って言ったってなぁ……」

 「万策尽きた。小知恵でどうこうなるものでもない」

 「しかし、開城するとなると……」とワイトが不安を表明した。いずれ帝国がトルトエン副伯を討伐するにしても、その間ラフェルス副伯領がどうなるのか。ドルトフェイムがどうなるのか。「ウィンの首と引き換えに市民の安全を」といっても、トルトエン副伯がそれを守る保証はない。開城した途端、なだれ込んできたトルトエン副伯兵がドルトフェイムでどのような蛮行に及ぶのか。ドルトフェイムにとっては、ウィンの首を差し出せば済むという問題ではないのだ。

 「ドルトフェイムには大人の男だけでも1000人近くいます。開城するくらいなら、いっそのこと打って出てはいかがでしょう」とワイトは提案した。覚悟を決めたらしい。

 傭兵たちと合わせて約1500で2000のトルトエン副伯と戦う。数字だけ見れば、勝ち目はないにしても包囲を突破できる可能性はある。だが、実戦経験もなければろくな防具もない、老人まで含めた市民では完全武装の軍隊には歯が立たない。皆殺しにされるだけのことである。


 この日もわずかな食料を消費しただけで、打開策は見つからなかった。

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