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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
ラフェルス副伯領へ

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魔都

 カーリルン公の重臣の1人であるレオテミルは帝都に居た。ラフェルス副伯領の窮状を帝国に直接訴えて事態の打開を図るのが目的である。

 とはいえ、皇帝に直訴するわけにはいかない。物事には手順というものがある。こうした場合は、貴族の申し立てを受け付ける取次を通すことになっている。ガリトレイム・グライスに属する貴族については、ヴァル・トウデイゼン・キャンドキンという宮内伯が取次を担当している。

 皇帝宮殿の外廷に赴き、トウデイゼンの詰め所に行くとトウデイゼンは離席中だった。大事な用向きがあるので今日は会えないという。翌日も、その翌日も会えなかった。4日目にしてようやく会うことができた。

 トウデイゼンはレオテミルの話を聞くと大いに驚き、早急に善処すると請け負った。レオテミルはトウデイゼンの真摯な態度に安心し、「取次が善処を確約」としたためた書簡をアルリフィーアに送った。


 その夜、トウデイゼンはタッカツァーカの屋敷を訪れた。宮内伯たちは派閥を作っていがみ合い、権力闘争に明け暮れている。トウデイゼンは、大派閥の一つであるタッカツァーカ派に属していた。

 トウデイゼンは、カーリルン公の家臣から聞いた話をタッカツァーカに披露した。

 「ほう、ラフェルス副伯領はそんなことになっているのか」。ガラスの杯に満たしたぶどう酒をちびちびとなめながら、タッカツァーカは笑った。

 「想像以上の展開になりましたな」と、タッカツァーカの被官のレルトリエバが追従する。

 「して、カーリルン公からの訴えの件、いかが致しましょうや」とトウデイゼンはタッカツァーカに聞いた。

 タッカツァーカはにやにやと笑うと、トウデイゼンに教えを垂れた。

 「もちろん、取次として善処せねばならぬ。ただし、帝国にも都合というものがある。そう……ドルトフェイムの陥落には間に合わなかった、ということも大いにあろう」

 「実は私も、間に合わぬのではと思うておりました。むろん急ぎますが」

 「急いでも間に合わなかったのであれば仕方があるまい。気の毒なラフェルス副伯を弔うためにも、トルトエン副伯には重い処分を下さねばな」

 3人は、美酒に最適な肴を得て大いに笑った。


 一方、ムトグラフはマーティダを頼ることにした。兄である侍従長トシーイエではなく、弟のディーイエの方である。カーリルン公領問題でも助力を得た関係もあり、マーティダであれば話が早いと考えたのだ。

 マーティダにはすぐに会えた。彼も旧ラフェルス副伯の件は覚えていた。「ラフェルス副伯だけ義援金を出さないのはいかなることぞ」と憤る宮内伯も多かったという。だがいつのまにか処分が下されてうやむやに終わった。この幕引きには彼も不信感を抱いた。

 5年前の帝国代官刺殺事件については、マーティダも知らなかった。だが、帝国司法院に記録が残っていないのはやはりおかしいという。帝国代官に関する事件である。となればグライスではなく帝国で処分を下すべき案件だった。

 ティルカールはその事件後に派遣された代官であり、ティルカールを派遣しなければならない事態になったことは帝国も認識しているのだ。だが、ティルカールを派遣するに到った刺殺事件については帝国に記録がない。

 「ムトグラフ卿が不審に思うことは分かった。こちらでも調べてみよう」

 マーティダの協力も得たことで、今日の首尾は上々だった。ムトグラフは久しぶりになじみの店に飲みに行くことにした。バンクレールフを残してきたことだし、ラフェルス副伯領の事務処理については心配しなくてもいいだろう。


 ムトグラフと擦れ違うように、フォロブロンが外廷にやって来たが、彼らは互いの存在に気付かなかった。

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