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居眠り卿と純白の花嫁  作者: 中里勇史
ラフェルス副伯領へ

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要求

 ウィンはフロンリオンには2泊しただけで、すぐラフェルスに戻った。忙しいことこの上ない。

 ドルトフェイムに着くと、困惑した顔のムトグラフらに迎えられた。

 「え、何?」

 「実は……」と、一同を代表してムトグラフが説明した。ウィンが不在の間にトルトエン副伯の使いと称する者が来て、所領の交換を要求してきたというのである。

 所領の交換というのはままあることなので、大して不思議なことではない。飛び地の解消、思い入れのある地である、原料の産地と加工する職人の街を一元的に支配したいなどだ。相互の条件や利害が一致したら、帝国に申告する。帝国が問題なしとすれば交換成立だ。もちろん無条件というわけではない。帝国がある諸侯を牽制するために配置した領地、帝都を守るための要害などは当人同士が希望しても交換できない。

 ウィンがラフェルスに封ぜられたことに大した意味はないはずだから、帝国が却下することはないだろうが……。

 「なんでトルトエン副伯はラフェルスが欲しいのさ」

 「トルトエン副伯は、前ラフェルス副伯の長子だそうで」

 「前ラフェルス副伯?」

 不祥事を起こした前ラフェルス副伯は、トルトエン副伯領に転封となった。前ラフェルス副伯は程なく死亡し、その長子ヴァル・ラフェルス・ダリオネイムがトルトエン副伯を継いだ。

 家名がラフェルスであることからも分かる通り、ラフェルス家の本領はラフェルス副伯領だった。旧帝国時代からの先祖伝来の地に帰還したいのだという。

 トルトエン副伯領は海に面しており、貿易で潤っている。ラフェルス副伯領よりも経済力が高く、ウィンに損はさせないと使者は力説したそうだ。たとえ税収が下がっても本領に戻りたい、というのも分からなくはない。


 市長のワイトが何か言いたげな顔をしている。

 「何?」

 「恐れながら……ラフェルス家の復帰は承服しかねます」

 帝国代官のティルカールが心配そうにワイトを見ている。ムトグラフはある程度事情を聴いているらしい。言いにくそうなワイトに代わって、ムトグラフが続けた。

 「どうも、ラフェルス家の統治は領民に良い印象を残していないようなのです。税も高く、その上に賦役も多かった。帝国が介入するほどの苛政ではなかった、言い換えると帝国に介入されるぎりぎりの線を突いていたようです」

 「ラフェルス家が追い出されて帝国代官様のご支配になり、税も下げられ治安も良くなりました。ティルカール卿にも大変よくしていただいた。ラフェルス家時代には戻りたくないのです」

 ウィンとしても、ラフェルス副伯領に思い入れは特にないが「いいよ」とは言えない。トルトエン副伯領がどこなのか知らないが、海に面しているということはかなり北だ。帝都から1000キメル以上は離れているし、カーリルン公領との行き来も困難になる。それに……。

 自分のことはともかく、ワイトの話を聴いてしまった後ではやはり承知しかねる。

 「交換に応じるつもりはないよ。まあ、私がラフェルス家以上の悪政を敷かないことを祈っててくれ」などと余計なことを付け加えたため、ワイトは安心すべきか不安がるべきか判断に迷って「はあ」と答えるのみだった。


 「後半を言わなければ頼もしい領主で終わったのに」と、ムトグラフは肩をすくめてため息をついた。

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