決断 その1
謁見の間から客室に連行もとい案内されたウィンは、3カ月前まで使っていた部屋に居た。が、懐かしがっている場合ではない。
扉を開けて廊下をのぞくと、扉の横に衛兵が立っていた。ウィンが扉を開けたことに気付いて、横目でウィンの動きを見ている。
「……いや、逃げないから」
扉を閉めた。
しばらくしてもう一度廊下をのぞくと、衛兵はまだ立っていた。横目でウィンの動きを見ている。
「逃げないってば」
アルリフィーアが怒る気持ちは分かるのだが、ウィンにはどうすることもできないのだ。ならばせめてアルリフィーアの目の前から早急に立ち去るべきである。こうしてフロンリオンにとどめ置かれても、互いに得るものはない。
「本当にどうすることもできないとお思いですか、ウィン様」
アデンがまたウィンの痛い所を衝いてくる。
「できないだろ?」
「本当に?」
「何が言いたいのさ」
「あのお方を頼ったら、どうにかできるのでは?」
「そんなことは……できない」
「ウィン様、あなたは逃げているだけだ」
「……」
「あのお方は何もしてくれないかもしれません。でも、可能性を試しもしないで全てを諦めるのですか?」
「……」
「それではアルリフィーア様がおかわいそうです」
「リフィが……」
「あらゆる可能性を試して、それでもだめだったのであれば仕方ないと言えるでしょう。でもウィン様は最善を尽くしていない。いつもそうだ。ナルファストのときのように」
「……」
「アルリフィーア様よりもあの方へのわだかまりの方が重要ですか?」
「比べるようなことじゃ……」
「要は覚悟の問題です。優先順位を付けて、優先すべきものに全力で向き合ったかどうか。先ほどのアルリフィーア様のお顔を見なかったのですか? あんな顔をさせて平気なのですか?」
もちろん見た。泣いていた。涙は出ていなかったが、泣いていた。もちろん、平気なわけがない。あの木漏れ日のような笑顔でいてほしかった。二度と会うことはないと覚悟して帝都に戻った後も、笑っていてほしいと願った。
「分かったよ。私が間違っていた」




