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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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93.今年の花火は…… 前編

「ねえ、美玲ちゃん! 今年も夏祭り行こうよっ!」


 ある日、放課後の教室で。爽やかな夏の日差しが窓際から射し込むなか、結月が目を輝かせながら声をかけてきた。

 そのキラキラとした顔に、俺は少したじろぎつつも、昨年の苦い記憶が脳裏をよぎる。


「夏祭りねぇ……」


 俺は椅子に座ったまま、去年の悪夢を思い出していた。


「去年はひどかったよね? 屋台をちょっと覗いてたら、『これも食べて!』って山ほどサービスされてさ……」


「うん、確かにね。あのときは、イカ焼きとかたこ焼きとか、両手いっぱいに抱えて歩いてたもんね」

 結月は笑顔で相槌を打つ。


 さらに思い出すだけでも眩暈がするのは、なぜか巫女に間違えられて神輿に乗せられたことだ。あれは確か、神輿の担ぎ手たちが急に俺を捕まえ、そのまま神輿の上に強制的に鎮座させられたのだ。


「もうほんと、あのときは勘弁してほしかったよ……神輿の上は高かったし、怖かった……」


 俺はぐったりと机に突っ伏す。さらに思い出す、花火師の弟子と間違われた時のこと。あれも散々だった。


「『あんた、弟子だろ?急いでこっち来て!』なんて呼び止められるし……。しかも、打ち上げ花火の真下に連れて行かれるし、爆音が頭の上で鳴り響くし、怖いし……」

「私も巻き込まれたもんね。爆音が近すぎて死ぬかと思ったんだから」


 結月が苦笑いして肩をすくめる。そう、去年の夏祭りは俺たち二人、何度もとんでもない目に遭わされたのだ。


「……それでも行くの?」


 結月は悪びれもなくニコッと笑って言った。


「もちろん! あれはあれで面白かったし……今年こそはちゃんと夏祭りを楽しみたいんだもん。ね、行こうよ!」


 クラスメイトたちも夏祭りに行くらしいし、家に引きこもっていてもどうせ落ち着かない。


「……分かったよ、今年も行くけど……絶対に普通に楽しむからね? 正面から花火だって見てやるんだから。去年みたいに下からとか無しだよ!」


「それは美玲ちゃんには難しいかもねー」


 結月がくすくす笑ってからかってくる。


「なっ、なんでそんなこと言うの!」

「いやだって、いつもそうじゃん。美玲ちゃんがいるところには、何かしら波乱が起こるって相場が決まってるんだもん」

「……認めたくないけど、そう言われると否定できない……」

 結月は笑顔を崩さない。……この呪縛からいつ解放されるのか。


「でも今年こそは! 今年こそは普通に! 普通に屋台を巡って、普通に花火見て、普通に帰るんだから!」


 そう宣言する俺の手を、結月はパシッと叩いてくる。


「うん、そうしよ! 普通に楽しもう!」


 こうして俺たちは、今年も懲りずに夏祭りへ向かうことになった。


――――


 そして迎えた夏祭り当日。夕刻の空気がじわりと熱気を孕みつつ、待ち合わせ場所の駅前は人通りが多い。浴衣姿の人々が行き交い、にぎやかさに胸が高まる……いや、俺はどちらかといえば警戒心が強まっている。


「……絶対にバレたらまた食べ物大量に押し付けられるんだから……」


 そこで俺が用意した作戦がサングラスである。浴衣はまあ夏祭りに普通に着る服装だが、それにサングラスはちょっと変かもしれない。けど、これで美玲オーラ(?)をできる限り遮断して、去年のように屋台から特別サービスを受けないようにしたいのだ。


「顔を隠すにはマスクとかでもいいかもしれないけど……夏のマスクは暑いし……まあサングラスでいいや」


 そうつぶやきつつ、駅前の時計台を探す。そこが待ち合わせ場所だ。周囲には浴衣姿の学生が何人か集まっているが、その中に、首から巨大な一眼レフカメラをぶら下げた結月の姿を発見。


「……何、あのバカでかいカメラ……パパラッチみたいじゃん」


 内心ちょっと嫌な予感がしながら近づくと、結月が目ざとく気づいて手を振った。


「やっほー、美玲ちゃん! こっちこっちー!」


 その声を受け、俺は周りの視線を警戒しつつ、足早に近づく。すると結月は俺の姿をじろじろ眺めて、しばし沈黙したあと、吹き出した。


「ぷはっ、なにそのサングラス! 美玲ちゃんがせっかく可愛い浴衣着てるのに、台無しじゃん!」


「う、うるさいな。仕方ないでしょ、これでも昨年の教訓を生かして、変装してるの!」


「教訓……いや、確かに去年は目立ちすぎて大変だったけど、でも、そのサングラスはさすがに笑える。せっかくの美人度が5割減くらいに落ちてるよ?」


 結月はケラケラ笑いながら、さっそく一眼レフのレンズをこちらに向けた。


「ねえ、そんな姿も珍しいから、記念にパシャッと撮っちゃう!」

「いらないって! やめてよ、恥ずかしいんだから!」

「いやいや、面白いじゃん。サングラス浴衣姿の美玲ちゃんとか、なかなかレアだよー!」


 カシャッというシャッター音が何度も響く。俺は慌ててサングラスを押さえながら、結月を制止しようとするが、彼女は楽しそうに写真を撮りまくっている。


「ちょ、写真を撮るのはまだいいけど、後でそれ売ったりしないでよ? 肖像権とかあるからね?」


「うぐっ……いや、う、う、う、売るわけないじゃん。そんなのしたら怒られそうだし……まあ、検討は……うそうそ、しないしない!」


 結月はニヤニヤしながらレンズを下ろし、むくれた顔でこちらを向く。


 ひとしきり言い合いをしたあと、落ち着いて時計を見上げると、もうそろそろ夏祭り会場へ行く時間だ。駅前には浴衣姿の人が増え始め、空気はすでに祭りムード。


「じゃあ、早速行こう。今年こそは普通に屋台回って、花火は安全な場所で見よう!」


 俺が宣言すると、結月は「うん、そうしよう!」と元気よく笑う。


「でも……美玲ちゃんのサングラスがどこまで役に立つのかな。むしろ余計目立ちそうだけど」

「それは……でもきっと、去年みたいに顔を見られるよりはマシだと思うんだけどな……」


 そう言いながらも不安がぬぐえない俺。結月に笑われたけど、これくらい警戒しないと平穏な夏祭りは迎えられない。もはや普通に花火を見たいという小さな願いすら贅沢に思えてくる。


「……今年こそは何も起こらず、真正面からキレイな花火を拝めますように……」


 そんな祈りを心の中で繰り返しながら、俺は結月と並んで歩き出す。


「じゃ、美玲ちゃん、行こ行こ! 屋台でクレープ食べたいし、わたあめも食べたいし、あとかき氷も……」

「そんなに食べたら、去年の二の舞にならない? サービス爆発しちゃうかもよ?」

「大丈夫大丈夫。甘いものは別腹なんだから!」

「去年はそれで食べきれなかったじゃん、もう……」


 結月は軽快に笑いながら歩調を早める。その後ろ姿を追いかけながら、俺は再度サングラスを押し上げて、浴衣の裾を直した。


(今年こそ、まともな夏祭りライフを送れますように……!)


 しかし、その願いは叶うのかどうか。俺の胸中には既に一抹の不安が芽生えていたのだった。

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