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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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92.過剰家庭教師

「お疲れ、美玲ちゃん。今日も図書室で勉強していこう?」


 翌日の放課後、俺は結月と翔に声をかけられ、学校の図書室へ足を運んだ。


「うん……行こっか。今日ももしかして来るのかな、オラウータン……」


 恐る恐る図書室の扉を開けると、机で勉強している生徒がちらほら。見たところ、毛むくじゃらの姿は見えないように思える。


「よし。いないっぽいし、今日は落ち着いて勉強できるかも?」


 俺が安堵の息をついた、その瞬間――奥の棚からひょいとオレンジ色の毛むくじゃらな手が見えた。ま、まさか。


「うわ……やっぱりいる!」


 結月が小声で叫ぶ。どう見ても昨日と同じオラウータンだ。しかも、その隣にはもう一匹がいるではないか。


「ちょ、ちょっと待て、増えてる……?」


 翔が眉をひそめる。俺も思わず顔を覆いたくなる。昨日ですらひとり(いや、一匹)で大騒ぎだったのに、今日は二匹セットでこちらを見つめている。


「これ、絶対やばいよ……また勉強監視されるのかな……」


 結月は呆然としたまま呟く。すると二匹のオラウータンは、まるで「勉強するなら早く席につけ」というように手をひらひら振り、俺たちをテーブルに誘導する。

 俺たちは仕方なく、図書室のすみのテーブルに腰を下ろした。昨日と同じくノートを広げる。隣にはオラウータンが二匹、こちらをガン見してスタンバイしている。


「うわあ……視線が痛い。二匹になると圧がすごいんだけど……」

「まぁ、昨日は間違いをちょいちょい訂正してくれたし、今回も助けてくれる……かもしれない?」


 結月が微妙にポジティブな意見を出すが、俺は複雑だ。こんな猿に勉強教わって、俺のプライドはどこへ行ってしまうんだろう……。


「じゃ、とりあえず昨日の復習からやるか」


 翔がそう言って問題集をめくる。俺は思い切って一問解いてみるが、案の定いくつか計算ミスをする。すると、


「トントン」


 二匹のオラウータンが同時に俺のノートを指さして、そこが違うぞとジェスチャー。いかにも「ダメダメ、ここはこうだろ?」と指導しているようだ。


「……こ、こう? え、ああ、これだと正しい。すごい」


 俺は思わず感心してしまうが、やっぱり複雑な気分である。

 二匹はさらに、横から「シーッ」とやるので、図書室で大声を出すなと言いたいようだ。オラウータンのくせに、片方が偉そうに頷いてるし……ちょっと腹立たしい。


 しばらく経って、俺が疲れてきてうとうとし始めたときのこと。


「ペチッ! ペチッ!」


 左右から二匹同時に頭をはたかれた。


「い、痛いっ……! ちょ、やめてよ、二重攻撃はひどくない?」


 思わず声が大きくなるが、オラウータンたちはやれやれというポーズ。


「オラウータンの家庭教師……一匹でも十分ですけど……」


 俺は涙目になりながら嘆いた。結月と翔は必死に笑いをこらえている。


「それにしても、なんで二匹になってんだろうね。昨日帰ったら増殖したとか……?」

「増殖……勘弁して……」


 俺が頭を抱えていると、結月が笑いを噛み殺しながら言う。


「でも、ある意味効率的だよ。間違えをダブルチェックしてくれるし、美玲ちゃんが眠そうならダブルアタック。効果は……抜群かも?」

「……なんとも複雑な気持ちだよ……」


 結局、図書室が閉まるまで俺たちは二匹のオラウータンに付きまとわれた。勉強の進み具合としては悪くないのがまた腹立たしい。


 夜になり、家路に着く。オラウータンは外では姿を見せなかった。


(ああ、今日は家で静かに勉強できるかも……と思いたいけど……)


 そんな不安を胸に玄関のドアを開ける。母親に「ただいま」と言って自室へ向かうと――


「……ぎゃああっ!」


 そこには、オラウータン二匹がすでに待機していた。ベッドのすぐ隣で座り込み、ニヤニヤとこっちを見つめている。信じられない隠れっぷりだ。


「な、なんで先回り……?どういうルートで来たの……!?」


 俺が叫びかけると、オラウータンたちは「シーッ」というポーズ。いや、無断で部屋に入り込んでることを謝罪してくれよ!


 とにかく夕飯の時間になったので、オラウータンを部屋に残して一旦リビングへ向かう。なるべく部屋に戻りたくない……。

 そして食事を終え、重い足取りで部屋に戻ってみると――


「……ん? え? いま何匹いる?」


 パッと見ただけでも三匹がウロウロしている。よく見ると、奥にもう一匹……合計四匹だ。昨日は一匹、今日は図書室に二匹、家に帰ったらさらに増えて四匹……どうなってるんだ。


「どこから湧いて出るんだよ、オラウータン……」


 と、そのとき、窓の外から「ガサガサッ」という音。ひょいとカーテンの隙間からさらに一匹が侵入してきた!


「うわああああっ!? 増えた、さらに増えた! 五匹目!? 勘弁して!!」


 思わず悲鳴を上げるが、オラウータンたちは人差し指を口に当てるジェスチャーで「静かに」と繰り返している。こんなのホラーだよ!

 俺は心底ビビりつつ絶望感に包まれる。でもテスト勉強しなきゃならないし……。


「うう……とにかく静かにしてくれるなら、そこにいていいから……暴れないで……」


 半ば諦めながら机に向かうと、オラウータンたちは「さあ勉強始めろ」という顔で整列し始めた。五匹の毛むくじゃらが並ぶ姿は、さながら独特の軍隊か何かのようだ。


 勉強を始めると、ちょっとでも計算を間違えれば、五匹揃って俺のノートを「トントン!」と叩いて指摘。俺が「あ、マイナス抜けてた」と気づけば、五匹がいっせいに「やれやれ」と頭を振る。何その統率力……。


「うわあ……なんかすごい嫌だ。しかも当たってるのが腹立つ……」


 さらに問題を解き進め、さあ次は英作文……というところでまた誤答。「ズレてますよ」と言わんばかりに全員が指でバッテンをする。


「こんなに間違いを指摘されると、心が折れるんだけど……」


 泣きそうになる俺を尻目に、オラウータンたちはまったく気にしない。むしろ「真面目にやれ」とでも言いたげだ。


 やがて夜も更け、眠気が最高潮に達してきたとき――


「ペチペチペチペチペチッ!」


 五匹から同時に頭を叩かれる。


「い、痛い痛い痛い! ちょっと……さすがにやめてってば……」


 さっきまでは二匹に叩かれていただけでも痛かったのに、今回は五匹同時。かなりの衝撃で、これ寝るどころか脳が揺れるレベルじゃないのか……!


「うう……こんなん家庭教師じゃないよ、体罰じゃん……」


 涙目で抗議するが、むしろ「何甘えてんの」とばかりに首を振っている。ホント容赦ない。


 結局、夜遅くまで俺は五匹にしばかれながら勉強を続ける羽目に。限界を感じたのでようやくベッドへ向かい、電気を消した。


「……はぁ……疲れた……眠い……明日また学校だ……」


 半分泣きそうになりつつ布団に入る。すると、部屋のあちこちに気配がするので、恐る恐る目を開いて確認してみた。


 まずベッドの下をのぞくと、二匹のオラウータンがしっかり潜り込んでいる。クローゼットの隙間に二匹がピッタリとはまってる。そして、カーテンの裏には一匹のシルエットが浮かんでいる……。


「き、気持ち悪い、こんなの……」


 涙がうっすら出てきそうになる。勉強してる間はともかく、寝るときくらい出て行ってくれないか?


「……はぁ……いやだぁ……」


 消灯した部屋の暗闇で、目だけキラリと光るオラウータンたち。遠目に見ると完全に怪奇現象だ。俺は枕を抱きしめ、必死で気にしないように眠りに就く。


――――


 そんな地獄のような『過剰家庭教師』生活は、その後もテスト終了まで続いた。常にオラウータンに見張られている状態だ。

 勉強効率は爆上がりである。眠ければ叩かれるし、誤答すれば即指摘される。

 そして、テスト結果が返却される日。クラス中が答案を見て一喜一憂する中、俺はガタガタ震えながら受け取った。数学、英語、どれも危ないラインだが、赤点ではない。


「やった……赤点回避した……!」


 安堵のあまり、小さくガッツポーズをとった。すると隣から翔の声。

「お、良かったじゃん、美玲。間に合ったな」


「うん……でも、もうヘトヘト……結局毎日叩かれながら勉強したから、頭より体が痛い……」


「さすがにオラウータン5匹は異常すぎるよね……よく耐えたよ、美玲ちゃん」

 結月が同情の表情で声をかけてくれる。


「いやもう、家庭教師は1匹どころか0でいいよ……。普通に自力で勉強したかった……」


 なんとも言えない複雑な気持ちで答えていると、教室の前方でざわめきが起こる。どうやら今回の学年トップはまたしても西園寺麗華だったらしい。


「はぁ……やっぱり西園寺はすごいな。」


 翔が賞賛混じりに呟く。結月は苦笑い。


「美玲ちゃん、西園寺さんの鬼合宿とオラウータン5匹家庭教師、どっちがマシかな?」

「うーん……正直どっちも嫌……。西園寺の勉強指導も確かに厳しいけど、オラウータンは物理的に叩いてくるし……どっちも地獄なんじゃ……」


 三人で顔を見合わせ、なぜか妙に納得してしまう。


「でも、これでもう叩かれないで済むなら、めでたしめでたしだよ!」

 結月が笑顔でまとめる。


「ほんと……頼むから、もう部屋に来ないでほしい。普通の生活に戻りたい……」


 こうして俺は心底から解放感に浸りつつ、ぐったりと机に伏せて肩の力を抜いた。赤点を免れた達成感はあるが、それと引き換えに大事な何かを失った気がする。家で毛むくじゃらの家庭教師団に監視される生活なんて、もうこれっきりで十分だ……。


(普通の勉強会……普通の家庭教師……普通の学園生活……にはならないよね……)


 そんな切ない思いを胸に、俺の期末テスト期間は幕を閉じたのだった。

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