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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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閑話 西園寺と神崎の二人三脚

 わたくし、西園寺麗華は、運動会や体育祭といった行事には積極的ではない。それなのに、今年はどうしても、二人三脚という競技に出なければならなくなってしまった。

 昼休みの塩騒動で、何人かが急性塩中毒になり、種目に欠員が出たというではないか。まったく、塩分もほどほどにすればよいものをと思うが、そうも言っていられない。


「西園寺さん、二人三脚のメンバーが足りないの! 急だけど出てくれない?」

昼休み後、クラス委員がわたくしにすがるような目でお願いしてくる。どうやら、わたくしに断る余地はなさそうだ。

「仕方ないわね……わたくしが代役を引き受けてあげるわ。大事な行事が中止になるのも面白くないもの」

そう答えたものの、まさかペア相手が神崎になるなどとは考えてもいなかった。


――――


午後のプログラムが進行しているグラウンドの片隅で、わたくしは神崎と腕を組んで結び紐を調整している。神崎は意外と細身であるが、やはり「王子様」と呼ばれるだけあって顔立ちも整っている。わたくしも多少は容姿に自信があるので、周囲の視線がやけに痛い。


「西園寺さん、すまないね。急に誘われたけれど……大丈夫?」


神崎が爽やかに笑う。その笑みに心が少しだけどきりとする自分がいて、わたくしはどうにか平静を装う。


「別にかまわないわ。学級行事がスムーズに進むなら問題ないもの。……それに、あなたが本気を出すならわたくしもそれなりに合わせるだけよ」


 そう言いながらも、どうにも落ち着かない。神崎は軽く微笑んで、「それならよかった。走り方の打ち合わせだけしておこうか。まず右足を合わせて……」などと、手際よく説明を始める。わたくしより慣れている風なのが、何とも気に入らないような、それでいて頼もしいような……微妙な気分だ。


「……わたくしに合わせる気はあるのかしら?」

「もちろんあるさ。君を倒しちゃいけないからね」

「へえ、ならば問題ないようね」


 口ではそっけなく返しているが、胸の高鳴りが収まらない。


(何を浮ついているの、わたくし……!)


 二人三脚のスタートラインに整列した。周囲から「西園寺さんと神崎くんだ!」などと囁く声が聞こえる。わたくしは不機嫌なふりをしつつ、やはり少し顔が熱くなってしまう。

 神崎はクールに笑みを浮かべる。


「さて、腕をこうやって組もうか」

 自然にわたくしたちの腕を絡ませる。

(近い……こんなに距離が……)


 審判が「よーい……」と言うと、わたくしたちは足首を紐で括り、息を合わせて「右足から……」などと確認した。パァン!というピストルの音でレースが始まる。


 初めの一歩でわたくしがバランスを崩し、「きゃっ……!」と倒れかけたその瞬間、神崎が素早く腕を回して支えてくれた。


「大丈夫かい? けがはない?」

「べ、別に……ありがとう……」

「転びそうになったら腕を掴んでいいよ」

「べ、別に転ばないわよ。わたくしは器用なんだから」


 そう答えながら、少し頬が熱いのを感じる。わたくしは顔を伏せて、再び足を合わせようとするが、神崎の腕の温もりが消えない。


(こんなの、落ち着け、わたくし……)


 二人三脚は見た目以上に難しいが、神崎との歩幅は意外に合いやすい。ゆっくりペースを上げていくと、隣で「大丈夫? 苦しくない?」と神崎が優しい声をかけてきて、わたくしはまた心臓がドキリとする。


「べ、別に苦しくはないわ。……もっとスピードを上げてもいいのよ」

「ふふ、じゃあ合わせよう。せーの……」


(何なのよ、この気持ち……わたくしはただ走ってるだけなのに……)


 神崎が時折向ける爽やかな笑顔に釣られて、わたくしも穏やかな気分になるのを否定できない。

 レース後半になり、他のペアがかなり先を走っている。でもわたくしたちも遅れを取り戻そうと頑張る。神崎が「最後にスパートかけようか?」と声をかけ、わたくしは頷く。


「いいわ、やりましょう。……せーの!」

「せーの!」


 足を揃えてトントントンとリズミカルに走る。息が上がるが、神崎の腕の支えや声かけが心強い。


(こんなに誰かを頼りにしてる競技、初めてかも……)


 結局、前のほうのペアには追いつけず、5位くらいでゴールした。悔しいというより、なんだか楽しかったという気持ちが大きい。ゴールラインを越えた瞬間、神崎もわたくしも膝に手をついてゼーゼーと呼吸を整え、顔を見合わせる。


「意外と悪くなかったね」

「ま、まぁ、そうですわね……。もう少し練習すれば、もっといけたと思うけど……」

「来年は……いや、もう来年はないか。俺たち3年生だから」

「……そ、そうね。これで終わりね……」


 少し寂しさがこみ上げるが、今は言葉にしないまま、紐を外す。周りが「お疲れー!」と拍手しながら「二人ともお似合いだったよ!」と茶化すから、わたくしは「そ、そんなことないわ」とつれなく返す。だが、顔の赤みは消せない。


「ありがとう。君のおかげで楽しかったよ」

 人だかりが解散しかけた頃、神崎が小さな声で言ってくる。


「な……なに言ってるの。別にわたくしはあなたのために走ったわけじゃないわ」

「うん、わかってる。……でも嬉しかったんだ」


 すると他の生徒が「おーい、神崎くんと西園寺さん、ほんと仲良いねー!」などと囃し立てるのが聞こえ、わたくしは慌てて背を向ける。


「……うるさいわね! わたくしは戻るわよ! もう競技終わったんだから!」

「はいはい、じゃあまたね、西園寺さん」


 神崎はクールに手を振る。わたくしは失言をしないよう、そそくさと別方向へ歩き出すが、心の中ではさっきの感触や距離感がぐるぐる回っている。


(ちょっと、どういうことなの……)


 後でクラスメイトに「神崎くんとどうだった?」と問われ、わたくしは「あ、あんなの普通よ。別に特別でもなんでもないわ!」と斜めを向いて答えた。

 でも実際はあの一瞬だけ、二人の呼吸や鼓動が一体となる感じがあったような気がしてならない。


(馬鹿馬鹿しい……こんなことで浮かれるなんて、わたくしらしくないのに……)


「なんだか、変な日だったわ……」と心でため息をつきつつ、競技終了後はまた普通にクラスメイトと合流して笑い合う。神崎とはもう話さなかったが、あの一体感を心に残したまま、わたくしは体育祭の最後まで優雅なフリをして過ごした。


(あれは単なる二人三脚。競技にすぎないわ。 でも……少しだけ、悪くなかった。今は、そう思っておこう)

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