88.綱引き対決
体育祭の昼休みが終わり、教員がマイクで「午後の部を開始しまーす!」と告げる。グラウンドには再び全学年が勢ぞろいし、競技の準備に取りかかっていた。
午前中は騎馬戦でクマに連れ去られたが、いまはクラスメイトと一緒に綱引きのスタンバイをしている。
「午後の競技で目玉は綱引きだよね!」
「うちのクラスは男子も女子も一致団結して勝つぞ!」
周りがテンション上がっているのを感じつつ、俺は相変わらず「動物乱入しないで……」と内心で祈っていた。もう勘弁してほしい。
「綱引きにはさすがに動物は入ってこないでしょ!」
隣にいる結月が妙なフラグを立ててくる。やめてよ、そういうフラグ……
アナウンスが響き、各クラスごとのラインに並ぶ。俺たち3年B組は20人くらいで列を作り、太い綱を握りしめている。相手は同じ3年のC組。互いに「負けないぞ!」という気合が伝わる。
「よし、がんばろう、結月!」
「うん、美玲ちゃん、一緒にガッツリ引こう!」
「それでは準備OKですね? 両クラス、しっかりロープを握って……」
審判の先生が確認し終わると、ピィイイーッという笛が鳴り、「よーい始め!」の声がグラウンドに響く。
クラスメイトたちが「うおおおお!」と気合いの雄叫びをあげ、縄を引っ張る。相手クラスの面々も「ふんぬー!」と気合い十分。
(やっぱり最終学年のクラス対抗は盛り上がるな)
ところが、5秒もしないうちに何か大きな影が視界を横切った。何だと思って振り向くと、馬が背後に急接近しているではないか。
「え、また馬!? それに鹿まで……」
なんと数頭の鹿が一緒に現れ、彼らは俺たちの持つ縄の端を咥えて引っ張り始めたのだ。
「ちょ、ちょっと待って! それ人間用の綱引きだから!」
周囲のクラスメイトも「うわ、馬が縄を引いてるぞ……」「え、鹿も??」と大騒ぎ。さらに小さなリスまで現れ、縄にしがみつく形でチョロチョロ動いている。何をしたいんだリス……
周囲の人間が「ずるいぞー!」と叫んでいるが、俺たちは制御不能。さらに馬がフッと鼻息を鳴らし、俺を咥えて背に乗せてしまった。
「うわ、なんで乗せられるんだよおおお!?」
「おいおい、美玲ちゃん、馬は使っちゃ駄目だろ……」
周囲からツッコミが飛ぶ。先生が拡声器で「藤堂、降りろ、それは反則だ!」と怒鳴るけど、どうやって降りればいいんだ……馬が走り回ったらどうしようもないじゃないか。
もともと拮抗していた力関係が、馬&鹿の参戦で一気に俺たちのチームが優勢になる。綱がズルズル自陣地へ動く。
相手チームは「人間の尊厳を守るんだ! 負けるもんか!」と熱血キャラまで湧き出し、ますますヒートアップ。結果、全員が火事場の馬鹿力を発揮してロープを引きまくる。
「うおおお! 人類の底力、見せてやる!」
「動物なんかに屈するかーー!!」
相手チームリーダーらしき男子が力強く指示を飛ばし、仲間たちが一丸となってロープを引き返す。彼らは「うおおお、オレたちだって負けんぞ!」と強い意志で団結し始める。すごい熱血だ……
と、ここで、俺のクラスから一人「わあ、なんか向こうのチームの根性に感激した!」などと叫び始める。
「こんなに懸命に動物相手に戦うなんて……あいつら輝いてるじゃん……」
「わ、私も手伝わなくちゃ!」
謎の同期によって、うちのクラスの数名が「人類サイドに味方したい!」と言い出し、どんどん綱を離れて相手チームのほうへ回っていく。
「ごめん、美玲ちゃん……私はやっぱり人類側で戦いたい……!」
結月まで寝返った。
「え、ちょっと待って! 人類側って……私も人類なんだけど……」
訴えてみるが、みんな涙を流しながら相手側の綱を握りに行く。
ロープを見ると、そこには動物だけが握っている状態。
一方、相手側には2クラス合同と言わんばかりに、うちのクラスの人間も混ざって、ものすごい人数になっている。先生が遠目に呆然と「ちょ、なんでこんな構図に……?」と首を傾げてるし、他の観客生徒は「何この綱引き……!」と大爆笑。
「やるぞおおおお! 人間が負けるわけない!」
「馬なんぼのもんじゃ! 鹿なんてビビるかよ!」
相手側が一丸となって綱を引き戻しにかかる。馬も負けじと綱を噛んでヒヒーンと嘶き、鹿が角を引っかけてロープをギリギリと引っ張る。俺は呆然としながら馬の背で、ただロープの動きに振り回されている。
最初は馬&鹿の動物パワーで進んでいた綱が、時間が経つにつれ相手側の人間大量勢力にじわじわ引き戻されていく。
「動物でも人間の数には勝てないか……」
馬が鼻息を荒らげ、鹿たちが必死に引いても、相手陣営は2クラス分がかりで力を合わせ、ズンズン綱を自分たちの側へ引き寄せる。
数分の激戦の末、ついに綱が相手側の勝敗ラインを超えた。
「勝者、人類チーム!」
先生は大声で宣言。
馬がブヒヒーンと悲鳴のような嘶きをあげ、鹿も肩を落とすように頭を下げる。俺はその動きでバランスを崩し、地面に落ちた。
勝った人類チームは「やったああああ!」と大歓声を上げ、勝ち誇った様子でみんな抱き合ったり、「やっぱ人間が一番だ!」とか叫んでいる。馬と鹿に勝ったという謎の達成感で、感動の涙を流す子もいる。
「馬がなんぼのもんじゃ!」
「俺たちの力を見たか!」
もう皆テンションマックスだ。
(なんだこの団結ムード……)
動物チームは馬がくたびれたようにフンと鼻を鳴らし、鹿たちが肩(首?)を落としてションボリしている。俺は一応「お疲れ様……」と動物たちを眺める。なんだこれ?
ひとしきり盛り上がったあと、馬がとぼとぼと鹿たちとともにグラウンド外へ歩き去っていく。
一方、クラスメイトたちは、動物の行方はそっちのけでみんなで手を取り合って感動している。
「なんだこの競技……私、いつの間にか人類敵サイドみたいになってるし……」
騒ぎのあと、クラスメイトが「やったな!」「動物に勝ったぞ!」と喜んでるのを見て、俺は複雑な心境。
(そもそも動物の助けなんか俺が望んだわけじゃないのに……)
「美玲ちゃん、すごかったね! あの馬、ほんとに頑張ってたけど、最後は人間が勝ったんだね!」
結月は笑顔で言ってくる。
「……私、人間だよね? なのに完全に馬側についた扱いになってたのが納得いかないんだけど……」
「まあまあ、いいじゃん。動物チームが負けて、人類が勝ったって話で! おもしろかったよ!」
「面白いって……」
結月は大笑いしながら去っていくし、みんな「人類最高!」とハイタッチしてるし。その言い方じゃあ、俺だけ完全に人外扱いだ。
またわけの分からない疲労感を抱える競技となった。




