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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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86.1年生の競技と騎馬戦

 開会式では動物が百獣の王ごっこをして大混乱になったが、先生の強引な進行でなんとか宣誓は終わった。ようやく肩の荷が下りた状態で、午前中の競技を眺めている。

 クラスの仲間はそれぞれ準備や応援に忙しく、俺は小休憩がてら1年生の100m走を観客席でぼーっと見ることにした。シューズの音が軽快に地面を蹴り、若々しいスピード感……。


(こういう平和な光景はいいな……)


 ところが、スタートラインに並ぶ走者の中に、異様に大柄な身長が目に入る。2mを超える巨体がやたら目立つ。鬼塚君だ。


「そうだ、鬼塚君も走るんだ……大丈夫かな……」


「位置について……よーい……」という係員の声が響いた瞬間、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 鬼塚君がすさまじい咆哮を上げた。

 その衝撃波に近い咆哮を聞き、スタートラインに並んだ他の1年生たちが「え!?」「こ、こわ……」と腰を抜かしてしまう。まさにゴリラのドラミングのような威圧感。鬼塚君は気合入れてるだけなのかもしれないが、周りからは威嚇にしか見えない……


 ピストルのパァン!という音と同時にスタートが切られるが、他の走者は足がすくんだまま動けず、結果的に鬼塚君だけがヨロヨロと走り出す形になってしまった。


 見ていると鬼塚君の走りはまるでノロノロとした怪獣がトコトコ踏み出すような感じ。


(意外と足は遅いんだ……)


 ただ、他の走者がビビッて出遅れている間に、鬼塚君は10m、20m……ジリジリ前進し、そのまま誰も追いかけられずゴールテープを切る。


「いいのか、それ……」

「なんというか……微妙に反則っぽい気もするけど……」

 結月が苦笑し、俺も額に手を当てて呆れる。他の1年生はやっと腰を立ち上げて遅れてスタートするが、もう鬼塚君がゴールしている。「うおお、俺、一着だあ!」と雄叫び。以前から友達になったらしい犬顔・猿顔・雉顔に抱きついて喜んでいる。


(他の子はスタートしてないんだよ……)


 周囲の観客も「おいおい……」「完全に空気で勝っただけじゃん」とあきれてる。


「仲良いな、あの4人…… でも、その勝ち方でいいのか……」

 俺は思わず、つぶやいたのだった。


 ポカポカした陽気のもと、1年生の競技が一通り終わったあと、司会の先生がスピーカーで「次は3年生の騎馬戦を行います!」とアナウンス。


(来た、出番だ……!)


 うちのクラスは女子メンバーでチームを作っていて、俺も騎手として上に乗ることが決まっている。


「大丈夫大丈夫! 美玲ちゃん、私たちがしっかり支えるから!」

「絶対勝とうね!」

 身体を支えてくれる彼女たちに声をかけ、「がんばろう!」と意気込む。


(何も起こらないで……頼む……)


 グラウンド中央に移動し、全騎馬が整列。周りを見渡すと、他クラスの女子騎馬がいる。みんな気合いが入ってる。


「それでは騎馬戦、用意……」

 審判がホイッスルを口に当てた瞬間、俺は身構える。いざ、勝負!

 ピィイイーーッ! という笛と同時に、各騎馬がワーッと動き出す――はずだったのだが、何か視界の端に黒い毛むくじゃらの大きな塊を見た気がして、ギョッとする。


「うわあ、クマ!? なんで!?」


(え、馬でも鹿でもなく、クマ!? )


「きゃあああ、美玲ちゃん、後ろ!」

 同じチームの女子が叫ぶが時すでに遅し。クマはまるでロデオの馬のような動きをしながら、俺の騎馬の背中側へ突進。どさっと衝撃が走り、気づいたら俺は自分の騎馬メンバーから弾き飛ばされる形で、クマの背中に移乗してしまった。


「い、いぎゃあああああ!!」

 周囲からも「美玲ちゃんがクマに連れ去られた!!」という絶叫が上がる。


(なんでこうなる!? 馬ですらないの!? クマ……)


 クマはそのままズンッズンッとグラウンド中央へ向かう。バランスを崩しそうな俺は必死で毛皮を掴むしかない。ひいいいい、殺される……


「おい、美玲! なんだそれは!!」

 体育の先生がマイクで怒鳴ってくる。

「いくらなんでもそれは反則だ! 騎馬戦って馬でもダメなのに、なんでさらに凶暴そうなクマを選ぶんだよ!」


(選んでないし! 乗りたくなかったし!)


「私は……ちが……ぎゃぁあああああ!」

 クマが小さくグォォと唸るたびに背筋が凍る。俺のクラスメイトたちが立ち尽くして「どうすれば……」と戸惑い中。先生が「落ち着け、誰かクマを追い払え!」と指示を出しているが、誰も近寄れない。


 普通なら騎馬戦は相手の騎手のハチマキを奪う競技だけど、相手がクマを連れてる(連れられてる?)状況で、誰も近づかない。当たり前だ。


「あ、あんなの正面から行ったら危険すぎる……」

「無理、死にたくない……」

 隣のクラスの騎馬がサッと解体し、みんなが一斉に後退。まるで映画の一場面のように、グラウンド中央では俺とクマだけだ。


「がんばれ美玲ちゃん! って、これはどうしようもないね……」

  結月の声がどこかで聞こえる。


(そりゃそうだよ、こんなの怖いよ!)


 騎馬戦の競技係らしい生徒がマイクを持ち、挙動不審につぶやく。


「あ、あの……しょ、勝者、美玲さんと熊ペア……っていいのかな……?」


 会場が「うわあ……そりゃそうだろ……」とどよめき。

 なんとも脱力感漂う空気のなか、クマは二足で立ち上がり、前脚を挙げてガッツポーズして「グオオオオオ!」と吼える。


(なんで勝ち誇ってんだよ……)


「まって……ちょ、下ろしてよおおお!!」

 俺はまだ背中にしがみついてたけど、そこから振り落とされる形でズルッと地面に尻餅をつく。


 クマはすごい勢いでダダダッとグラウンドの端まで走り、フェンスを軽々と乗り越え、外の道路へ消えていく。


(乗ったままじゃなくなったのは良かったが、なんて展開だよ……)


 気がつけば、騎馬戦は強制終了となり、先生が「えーっと……今のは仕方ないから……優勝は美玲さん……」と発表。拍手もまばらで、みんな戸惑い気味。

 俺は地面に尻をついたまま、呆然と空を見上げる。


「なんなんだよ……これ……もう嫌……」


 クラスメイト女子が駆け寄って「美玲ちゃん、大丈夫!? 怪我ない!?」と心配そう。別のクラスの人まで「すげぇ……馬じゃなくクマとは……」と呟いている。


「ちょっと、私は選んでないし……クマが勝手に……」

 自分でもよく分からない弁明をしてるうちに、結月もやってきた。

「美玲ちゃん無事でよかった! でもすごい絵面だったね……」

 満面の笑みで言う。楽しそうだな、結月は。


 騎馬戦の次の種目は中距離走だったが、俺はさすがにダメージを負っていたので、少し休憩を取ることに。クマが走り去ってからは会場も混乱しつつも再開し、他クラスは普通にレースをしている。


(皆のメンタル強いな……)


「はぁ……午前の競技だけでもこの有様か……」


 結月がケタケタ笑いながら言う。

「美玲ちゃん、また伝説作ったね! クマ騎馬って……」

 俺はもう返す言葉もない。


 周りの先生や生徒が「美玲、怪我は大丈夫か?」「クマが来るなんて珍しいな……」とか言ってくる。「珍しいとかじゃないだろ……」と心の中で突っ込む。

 午前中の競技は終了に近づき、昼休みに入る。俺は弁当を食べる気力もあまり湧かず、ただただ動物運の悪さに泣きたい気分だった。

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