75.山菜摘み
春休みの最初の週末、あちこちで桜がちらほら咲き始める頃だ。とはいえ、暖かさはまだ安定せず、風が冷たい日もある。
そんなある日、俺は結月から電話を受けた。留守番のつもりだったから、ベッドに寝っ転がったまま「ん?」と不機嫌そうに出る。
「美玲ちゃん、明日暇? 山菜摘みに行こうよ!」
「え、山菜……? 何その渋い休日の過ごし方……」
正直、「女子学生といえばデートやショッピングじゃない?」と思ったが、結月はキラキラした声で言う。
「裏山に、いろんな山菜が出始めるんだよ! 私もちょっと詳しくないけど、面白そうじゃん!」
「まぁ……いいけど。裏山って……結月の家の裏山?」
「そうそう、ちょっと行くと山道があるから! 良かったら翔くんも誘ってみようか?」
最終的に「まぁ暇だし行くか……」と承諾し、結月がすぐに翔にも声をかけたらしく、「行く行く、なんか面白そう」とあっさりOKが出た。
俺は正直、「山菜採りなんてお年寄りの趣味じゃ?」と思いつつも、結月の強引さに負けて、翌日、裏山へ行くプランが決定した。
翌日、朝の9時ごろ。俺と翔は結月の家の前に集合し、裏山へ向かう。
裏山って言っても本格的な登山ほどではなく、ハイキングレベルの小山らしい。
「まぁ、運動になりそうだな……」
翔が退屈そうにあくびしながら言う。
「絶対楽しいよー、キノコとか山菜とか!」
結月はノリノリだ。俺は「キノコは怖いからやめとこ……」と思いつつ後ろをついていく。
ところが、家を出てすぐに一匹の野良犬が道路脇から現れて、結月を見つめている。
「わあ、かわいい!」
結月が手を振ると、犬はしっぽを振りながら近寄ってきて、一緒について歩く形になった。
「え、まさか裏山まで来るのか?」
翔が首をかしげるが、結月は「いいよ、連れて行こう!」と嬉々として答える。犬も特に飼い主らしい人がいないようだし、大人しくて賢そう。
そうして裏山の入り口に着いたとき、犬は自然に俺たちの先頭に立つように、まるで案内犬みたいに振る舞い始めるのだった。
「わあ、フキノトウ……かな?」
山道を軽く登っていくと、結月が道路脇にある雑草を引っこ抜いている。
「俺、別ルート行ってワラビとかタラの芽探すわ」
翔は一人で別行動を始める。俺と結月は「山菜採るのって本当に分からないね」と苦笑しつつ探し歩く。
すると、犬が俺たちのそばにぴったりいて、しきりに「ワン、ワン」と吠えながら土をかき始めた。
「え、なに、ここが何かあるの?」
結月が不思議がって近寄ると、犬は何度か「ワンワン」と吠え、土を掘ってみろという合図にしか見えない。
「ここ掘れワンワン……って本当にあるの、そんな状況……?」
そう言いながら結月がスコップで少し掘ってみたら、なんと出てきたのは黒い塊――トリュフらしきものだ!
「え、トリュフ!? 日本に自生してるの? しかも三月にとれるの??」
思わず叫ぶ俺と結月。でもどう見てもTVで見る高級食材の黒トリュフぽい。
「ええ……すごく良い香り……!」
結月が目を輝かせる。「本当に本物?」 と疑いながらも、独特の香りがあるし、ニセモノじゃなさそう。
「へぇ……この犬、トリュフ犬? そんなことある?」
俺たちは驚きつつも大喜びで、まさかの山菜じゃなくてトリュフという高級食材を収穫した。なんだこれ……!?
その後も犬は先頭に立って「ワンワン」と吠えてはある地点を示す行動を繰り返す。
「何かあるかもよ!」
結月が嬉々として掘っていくと、なんと小さな木箱が出土する。木箱の中には……小判がゴロゴロ入っていたのだ!
「きゃあああ!? すごい! お宝だ! 小判!!」
興奮しすぎて、結月の目が¥マークに輝き出すのが分かる。
(現代にこんな展開ある?童話じゃないんだから……)
冷や汗をかく俺だけど、「歴史的価値もあるかも……」と言う結月の目には、さらなる強欲な輝きが浮かんでいる。
「すごいすごい、トリュフに小判って……山菜どころじゃないじゃん」
「うわー……この犬の嗅覚ヤバいね……なんでも探し出しちゃうの?」
もう山菜採りという目的を完全に忘れている。俺たちのリュックにはトリュフと小判の箱がずしりと詰め込まれている状況だ。「大丈夫かこれ、警察に届けたほうがいいんじゃ……」と思いつつも、結月の夢中な顔を見て口にできなかった。
さらに犬が「ワンッ!」と吠える。
「もう一箇所あるの!? 何が出るの、ダイヤモンドとか? お金持ちになっちゃう!?」
結月は浮足立って穴を掘り始める。「次は何が出るのかな!?」と興奮がマックスに達している。
「いや、結月、ちょっと落ち着いて……なんか嫌な予感……」
俺が言うが、彼女はスコップを休めない。
しばらく掘ると、ゴツンという触感とともに白いものが見える。
「なにこれ、何か固い……」
結月が引っ張ると、骸骨の頭蓋骨のような形がドンッと転がってきた。
「ぎゃあああああ!!?」
結月が悲鳴を上げる。俺も「うわあああ!! 人骨じゃん!!」と青ざめる。犬が「ワン……」と鳴くが、もう何の救いにもならない。
「ちょ、ちょっと待って無理無理、これは事件性あるでしょ……不気味すぎる……」
「駄目駄目、帰ろう!!」
二人で尻餅をつきそうになりながら後ずさりし、スコップも放り出して逃げる。
「なんなのよ、トリュフに小判で釣っておいて、最後は人骨って……!」
結月は顔を真っ青にしてパニック。
犬は追いかけてこず、その場で首をかしげてる感じだが、もう怖くて近寄れない。
息を切らして山道を下っていると、途中で別行動していた翔と遭遇。
「お、お前らすごい顔してんじゃん、どうした?」
俺と結月は緊張を解いて一気にしゃべり出す。
「トリュフ見つかったんだよ! あと小判も! でも最後に人骨らしきものまで……!」
「はぁ!? 何言ってんだ……?? 山菜採りだろ。なんでそんなヤバいもんばっか収穫するんだよ」
翔は苦笑する。
それでも結月は目を輝かせてリュックを開け、トリュフの塊や小判の小箱を見せびらかす。翔は呆れながら言う。
「笑うしかねえ……山菜じゃねえけどな……」
「俺はちゃんとワラビ採ってきたぞ!」
ビニール袋を誇らしげに見せる翔。
「こっちは正真正銘、立派な山菜だからな!」
「おお、よかった、そっちも成果あったんだね」
俺が言いかけたら、袋の中がなんだかゴソゴソ動いている。
「え? 中で動いてない?」
翔が「ん?」と袋を開けると、中からワラビーが「ぷるっ……」と飛び出してくる。
「駄洒落かよ!! なんでワラビじゃなくてワラビーが入ってんだよ!!」
「きゃー、ワラビー!?」
ワラビーはひょこひょこ跳ねて、森のほうへ走り去っていった。
「つーか、ワラビーって日本にいるのか!?」
翔は頭を抱える。俺と結月は苦笑するしかない。
「はぁ……ほんと、何なんだよこの展開。私たち何しに来たの……?」
「……でもトリュフは本当にラッキーだよね?」
「そんなん売るのか? 食うのか?」
「小判も歴史的価値……役所に届けた方がいいのかな……」
「あと、人骨はどうすれば……通報?」
皆で話し合いをするが、頭が痛いばかりだ。結局「今日は疲れたから無理……帰ろう」という結論に。
「ほんと、山菜摘みじゃなかったね……」
「でもまぁ、また何か面白い体験はしたけどさ……」
みんなでしんみり笑いあい、じゃあ解散ね、と別れる。
(はぁ……案の定、普通の山菜摘みにはならなかったな……)
そう思いながら、俺は真っ赤に染まる夕焼けを見上げつつ、無事に家へと帰ったのだった。




