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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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69.鍋パーティー(闇)

 ある放課後。クラスで雑談していると、隣の席の結月が急に顔を輝かせて言い出した。


「美玲ちゃん! 鍋パーティーしたくない? 寒いし、みんなでワイワイ鍋囲んだら絶対楽しいよ!」


 思わず心がときめく。俺は、鍋料理という響きに弱い。温かいスープに野菜や肉がどっさり入り、冬場にはうってつけだ。結月も同じ気持ちらしく、目をキラキラさせている。


「いいね、鍋パーティー…… 場所どうするの?」


「うちとか美玲ちゃんちでもいいけど、実はね……今回の鍋パーティーは闇鍋会の人が来てくれるんだって! すっごい美味しい鍋になるらしいよ。どう?」


(や、闇鍋……!)


 一瞬背筋がゾッとするが、同時にあの禁断の味覚を思い出す……あまりにも魅力的な旨味が口に広がり、体が震えた記憶。思い返すだけで唾液が出てくる自分が怖い。


(やばい……またあの怪しい鍋に惹かれている……)


 結局、好奇心には勝てず俺は「い、いいよ……参加する……」と返事をした。ちょっと恐ろしいけど、普通の鍋じゃ味わえない魔力があることを知っているから。


「よかった! じゃあ翔と……神崎くんとか、みんなでやろう!」


 結月が無邪気に笑い、俺も心の中で複雑な思いを抱きつつ、次の日程を楽しみにするのだった。


(大丈夫だろうか……闇鍋会は本当に闇深い気がするけど……)


 鍋パーティー当日。メンバーは俺、結月、それに翔、神崎、そして西園寺の5人という組み合わせだ。場所は結月が用意してくれた「闇鍋会」メンバーの家らしく、正直初めて行く場所。俺が玄関で靴を脱ぐと、中は意外と普通の民家っぽい雰囲気で拍子抜けした。


「闇鍋なんて……品がありませんわね。一体何が入っているのか想像もつきませんけど……」

 西園寺は相変わらずの高飛車モードで眉をひそめている。


「こちらが私の友達です!」

 結月は笑顔で闇鍋会のメンバーに挨拶し、メンバーを紹介してくれる。


(やばい、この人たち、前にあの強烈な鍋を作った人かな……)


 俺は心拍数が上がり、内心ヒヤヒヤしている。

 けれど、見た目はごく普通のお兄さんお姉さんが多い印象で、にこやかに「どうもー」「今日はよろしくねー」と挨拶してくれる。


 リビングに通されると、そこには大きな鍋がドーンと置かれ、さらにさまざまな具材が段ボールいっぱいに詰まって積まれている。


「すげぇ量……これ、全部使うの?」

 翔は目を丸くしながら驚く。


「いえ、これは一部です。一度に全部だと破裂しちゃうので……」

 闇鍋会のリーダー格らしき人がニコニコしつつと意味深な笑みを浮かべる。


(破裂……? 何を入れる気なんだろう……)


 俺は不安になりつつも、同時に高まる期待感を抑えきれない。あの絶妙な味付けはどうやって生み出すのか……。


「ねえ、本当に大丈夫なのかしら? 何が入っているのか見せなさいよ」

 西園寺はそわそわと立ち上がり、と少し偉そうに要求する。


「大丈夫ですよ、きっと気に入っていただけます」

 リーダーが柔らかく答え、具体的な中身はスルーだ。


「ふん……まぁいいけれど。私が嫌いなものだけは入れないでちょうだい?」

 西園寺が釘を刺すが、返答は「お気になさらず……」とまた謎の微笑。


「ちょっと暗くしてから調理しますね……」

 闇鍋会メンバーが鍋をキッチンへ運び込み、なぜかリビングの照明を落としてと怪しい雰囲気を醸し出す。


「なんで真っ暗に?」

 翔が疑問を呈するが、リーダーは「これが我々の流儀で……。味覚や嗅覚を研ぎ澄ますためなんです」と言う。嘘かホントか分からないが、とにかく闇鍋では暗さが重要らしい。


「ちょっと危なくない? 調理時に手を切ったりしないのか?」

 神崎は心配そうだが、メンバーたちは手慣れた様子でコンロをセットし、具材を投入している気配がする。パチパチという音や湯気の匂いが漂い始め、闇の中で俺たちの期待感が煽られる。


 数十分後、「できましたよ……」という静かな声が響く。照明が薄暗く点灯し、リビングのテーブルに大鍋が置かれた。ふわっと鼻をくすぐる香りが異様にいい匂い。何か怪しさ満点だけど、凄い旨味を予感させる匂いだ……。


(き、来た……あの美味の再来……)


 俺はすでに口の中が唾液であふれそうだし、心拍数が上がっている。


「ちょ、何この匂い……すごい……」

 隣を見ると西園寺が赤らめている。

「めっちゃいい匂いだな、おい」

 翔も悶える。皆がゴクリと唾を飲む音が聞こえるようだ。


 いよいよ鍋を器によそって口に運ぶ――すると、衝撃的な旨味が五臓六腑を駆け巡る。


「お……おいぴぃぃぃいいい……!!」

 先に口をつけた神崎が高い声を出し、まるで貴公子イメージが崩壊するかのように奇怪な言葉遣いになっている。そっと見やると瞳がうるうるして頬が紅潮、妙に艶っぽい……


(何だこの光景……)


「おいしい! おいしいよぅ……!!」

 結月は一口食べた瞬間、涙をぽろぽろ流しながら皿を抱えるようにしてがっついている。まるで空腹の子犬が出会った美食に飛びつくような勢いだ。


「み、みんな大丈夫……?」

 西園寺が恐る恐る口をつけて、「う、うま……あぁ……」と声を出してから、突然ガクンと気絶。

「西園寺さん!?」

 俺が声をかけても反応なし。でもまたすぐ目を覚まして「はっ……お、美味しい……」と更に食べる。何度も気絶を繰り返す様子がカオスすぎる。


 周囲の大騒ぎを横目に、俺も意を決してレンゲで一口含んでみる――すると脳が一瞬「ブツン」と音を立てるほどの衝撃が走り、体中が泡立つような感覚に襲われる。


(え、なにこれ、前回にも増して……!)


 そのあまりの複雑かつ濃密な味わいに、全身の筋肉がビクビクと痙攣し、寒気と熱気が同時に込み上げる。瞳が震え、しばらく何も考えられなくなる。やばい、これ魔性の美味すぎだろ……。


(うそ……また中毒になりそう……これほんとに食べ続けて大丈夫?)


 恐怖すら感じるほどだけど、食べたい気持ちが止まらない。二口、三口と口に運ぶほど深みにハマり、体が勝手に震えるのが見える。完全にヤバいラインを突破してる。


「おいひぃ……」としか言えなくなるし、指先がじんじんしてくる。神崎や結月も似た状態で、もはや会話になっていない。ただ無心で鍋をすくっては胃に収める感じだ。そんな狂宴を眺めている闇鍋会のメンバーが薄く微笑んでいるのが印象的。


 驚くべき速さで鍋は空っぽに。あれだけの具材があったのに、みんなでがっついた結果、残り物は一切なくなった。


「も……もっと……」

 翔が鍋の底をゴリゴリと爪で引っかく。

「鍋……なべ……もっと食わしてくれぇ!」

 翔が叫んで外に飛び出してしまう。


「翔!? どうしたの!?」

 結月や神崎が追いかけようと立ち上がるが、翔は既に外の闇に駆け去っていく。まるで中毒症状が出てるかのよう……実際そんな雰囲気だ。俺も意識が朦朧としながら思う。


(あれ……これヤバい鍋じゃ……)


「たまにああなる人がいるんですよねぇ……」

 闇鍋会のリーダーが嘆息混じりに言う。

「中には取り憑かれたように鍋を求める人がいるんですが……あはは、また会えたらいいですね」

 なんて他人事のように微笑む。


(やっぱりここ闇鍋会、恐ろしい……なんだその説明)


「そ、その……今回の鍋、何が入ってたんですか?」

 恐る恐る俺は聞いてしまう。会のメンバーが薄い微笑で首を横に振る。

「企業秘密です。それこそが闇鍋の神髄……」

 やはり。前回同様、答えてもらえないまま謎が深まる。あの凶暴な美味を引き出す成分は一体何なのか……。


「じゃ、じゃあ翔のあの状態は……?」

「まあ、時間が経てば落ち着くと思いますよ。たいていの方は2~3日で禁断症状が和らぐんで」

「禁断症状!? ちょ……怖いんだけど!!」


 神崎が顔をこわばらせ、結月も西園寺も言葉を失ってる。俺も内心パニックだが、確かに凄い味覚体験だったし、こういう事態になっても不思議じゃないかも……と思い始める。


――――


 鍋パーティーは結局そのまま解散し、俺たちはクラクラしながら帰宅。翌朝になって翔は学校に来ず、連絡を取ると「鍋が……鍋が……」とか呟いてるという情報。どうやら本当に鍋ロスの症状に苦しんでいるようだ。


(あの鍋……恐ろしい……)


「美玲ちゃんは大丈夫? 禁断症状ない?」

 結月が心配するが、俺は割と平気。やっぱり俺は鍋体質が強いのか、そこまで依存せずに済んでいる。「あれは確かにすごかったが、理性で我慢できてるよ」

 神崎も言う。

 西園寺は何度か夢見が悪かったとか、ふと鍋を思い出して気絶しそうになるとか、小さな後遺症を感じてるらしいが、翔ほどではないらしい。


 結局、翔は3日間学校を休んだ。周りは「インフルかな?」と噂してたが、内情を知る俺たちは息をのんでいた。4日目にようやく登校してきたが、顔色は悪く、胸を押さえて時々「鍋……」と漏らし、はぁはぁと呼吸が荒くなる。


(そこまで……)


 クラスメイトは不審がるが、理由を言えないのか翔は黙っている。俺や結月も何と説明したらいいか分からず、ただ「お大事に……」としか言えない。


 こうして、俺たちの「鍋パーティー」計画は、闇鍋会の異次元の旨味に翻弄され、翔が3日欠席・復帰後も1週間程度禁断症状に苦しむという恐ろしい展開で幕を閉じた。

 一方、神崎や西園寺がどうやって乗り越えているか詳しくは不明だが、少なくとも神崎は一度「おいぴぃ……」と寝言で言ったらしいし、西園寺は週明けまで夢うつつだったとか。俺も心の奥底で「あの味をもう一度……」という誘惑と戦っているのが怖い。


 あの奇跡のような味を思い出すたび、唾液が出る自分にぞっとするのだった。

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