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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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68.マラソン大会

「はぁ……やってきてしまったね、マラソン大会……」


 冬晴れの朝、俺は学校の校庭で深いため息をついた。結局「断固として反対する会」の抵抗もむなしく、マラソン大会は普通に開催されることになった。

 でもここまで来たらもう腹をくくるしかない。隣にいる結月が明るく声をかけてくる。


「美玲ちゃん、がんばろうね! 走り切ろうよ、完走を目指して!」


「う、うん……そうだね。 きついけど頑張ろう……!」


 半ば覚悟しながら周りを見回すと、生徒たちはみんな体操服にゼッケンをつけて集まっている。けれど、ひときわ違和感のある装いをしている奴がいた。

 体操服でもジャージでもなく、もっとガチなランニングウェアを着て入念なストレッチをしている。しかも頭にはバンダナ、腕にはリストバンド。まさしくマラソン仕様。


「あれ……萩原じゃん。 しかも一番張り切ってるのかな?」

 結月が首を傾げる。俺も目を丸くして萩原を見つめる。もともとクラスで「マラソン大会を断固として反対する会」とか言っていた本人だ。


(なんであいつが一番本気な格好してるんだよ?)


 萩原は周囲を気にせず、ラジオ体操以上の念入りなウォーミングアップを繰り返している。「あんなに嫌がってたのに? どういう心変わり?」と思わず笑ってしまうが、特に突っ込む時間もなく、体育の先生がマイクで集めてスタートラインへ向かわせる。


「今日は学年全員で走るぞー! 途中リタイアしないように注意してな!」

 体育の先生が号令をかける。コースは学校周辺の公道をぐるりと10キロほど回ってくるらしい。

「よーい……スタート!」


 一斉に生徒たちが駆け出す。結月は「美玲ちゃん、先に行くね!」と少し先行して走る。俺もマイペースで後ろのほうをトロトロとスタート。が、その瞬間、視界に信じがたい光景が映った。


「……萩原、速っ!!」

 萩原が誰よりも早く、恐ろしいスタートダッシュを切っている。もうすでにグイグイ先頭を引き離し、全力疾走の勢いであっという間に角を曲がって見えなくなってしまった。


(え、あれ持つわけないよ……いきなり飛ばしすぎだ……)


 周囲の生徒も口々に「え!? あいつが一番張り切ってんじゃん」「何だろ、寿命が縮むとか言ってたのに……」と驚愕している。


 俺は苦笑しつつ、「どうせ後半バテるよね……あのペースじゃもたない」なんて思いながらゆっくり走り続ける。マラソンなんてペース配分が大事だろうし。


 しばらくトコトコ走って、息が切れてきたころ、ふと街の曲がり角から馬が走ってくるではないか。いや、道路だよここ……馬なんているわけがない。

 周囲の生徒が「きゃあ! 馬だ!?」と悲鳴を上げて散り散りに避ける中、なぜか馬は俺のほうへ一直線に突進してくる。


「え、何、ちょっと待って、なんでこっち!?」

 逃げようとするが、馬は速度を落とさず俺のそばに並走し、俺の背中をドンと鼻先で押す形でそのまま背中に跨らされる感じで持ち上げられてしまう。


「ひえぇ、やめて……!」

 俺の声に耳を貸さずに馬は全速力で走り始める。


(こ、このパターン、まさかまた……?)


 思い出すのはスキー場でのトナカイやらシカやらに引かれたそり事件だが、さすがに馬に乗せられるのは初めてだ。周囲の生徒が「危ないぞ! 降りろ!」と怒鳴ってくるが、馬の背に振り落とされそうで必死にしがみつくしかない。


「おい、藤堂! それはさすがに反則だぞ! ずるいから降りろ!」

 その場にいた体育の先生が叫ぶ。

「いや、わざとじゃないですってばーー!」


 本当に「乗ってる」んじゃなくて「乗せられてる」状態なのに……でも先生からはどう見ても馬にまたがって悠々と移動してるように見えるかもしれない。

(これは完全に不可抗力だ。馬が勝手に走ってるんです……)


 ただ、正直、走らなくて済むのは楽なので、ちょっとだけ「まぁいいか」と思ってしまう自分が怖い。


 馬に乗せられたまま市街地を走る形になり、学校の近くの公道を激走する。すると、ちょうど交差点にパトカーが止まっていて警官が警備していた。馬の突進に「おいおい、危ないぞ!」と指示されるが、馬はお構いなしに通過。

 その瞬間、馬がなぜか「ブリッ」とフンをする。道路にボトッと落ちるその大きな量に、警官が怒りの声を上げる。


「おいそこの馬! 公道でフンなんてしやがって、迷惑防止条例違反だぞ! 待てー!」


「え、そこが警察のツッコミポイントなの……?」

 まるで不法投棄でもされたかのように、警官が慌てて車を出してパトカーで追いかけてくる形だ。危険走行とか、もっと別のことで怒られると思った。馬のフンで追尾されるなんて、冗談にも程がある。


「ちょ、ちょっと勘弁してよ……」

 俺は馬にしがみつきながら血の気が引く。


(馬は犬猫と同じで飼い主が後始末しろってことか……でも飼い馬じゃないんだが!)


 内心叫ぶも状況は変わらない。

 馬はパトカーを見て逆に興奮したのか、さらに速度を上げて逃走を図る。警察 vs 馬 の構図になり、俺はその背中で叫び声を上げるはめに。


 パトカーがサイレンを鳴らしながら「そこの馬、止まりなさい!」と拡声器で叫び続ける。馬はジグザグの道を駆け抜け、何度かパトカーの追い付きを振り切る形で逃げ続ける。俺はひたすら「ごめんなさい!」と謝るしかない状態。

 しばらくの激走の後、馬はなぜか急にブレーキをかけるように停止し、俺を地面へスッと降ろす。俺は地面にドサッと尻餅をつきそうになりつつも、何とか着地。


「え……まさか終わり?」

 馬は一瞬だけ俺を見下ろしたあと、荒い息を吐きながらサッと踵を返して走り去ってしまう。次の瞬間には姿が見えなくなっていた。


(えーと、何がなんだか分からないけど、助かった?)


思う一方で、後ろからパトカーが追い付いてくる音が聞こえ、警官が降りてきてこちらに寄ってくる。


「おい、さっきの馬はどこ行った? あんたの馬か? 糞が道路に落ちてるぞ、後始末ちゃんとしろよ!」

 そう詰め寄られ、俺は愕然とする。

「い、いえ、私の馬じゃないんです……勝手に連れ去られて……」

「でも乗ってたでしょ! じゃあ責任取れ!」

 とんでもない理不尽。だが警官は公道の糞は飼い主か管理者が処理すべきという条例を持ち出して譲らない。


(管理者じゃないけど……こっちが被害者なのに……)


 結局、ビニール袋やスコップを警官から渡され、俺が馬糞をすくって袋に詰める作業をするハメに。周囲の人のさすがに手伝ってはくれない。


(なんでこうなるんだ……マラソン大会でなんで俺は馬糞の処理をしているんだ……)


 虚しさがこみ上げる。馬はとっくに消え失せたのに、俺だけ置き去り。


(そもそもマラソン大会のコースを走ってないし……今どこにいるんだろう……?)


 糞を処理し終え、苦い思いで警官に頭を下げ、袋を抱えて学校へ戻る。周りの生徒たちはとっくにゴールしているらしい。校庭を見ると、みんながゴール後の体操をしていて、体育の先生が着順発表を行っている最中だ。


「はい、男子の一位は……萩原ーー!」

 先生がマイクを通して叫ぶと、クラスメイトが「おおぉ!」と沸き立つ。萩原本人はあまり驚かず、「あ、はい……」と軽く手を挙げる程度。

「この記録、なんとインターハイレベルだぞ! お前は陸上部に入るべきだ!」

 体育の先生は興奮気味に勧誘し、周りの生徒も「すごいじゃん!」と盛り上がる。


「いえ……寿命が縮むので……」

 ところが萩原は興味ないように断っていた。相変わらずの矛盾発言だ。


(散々マラソン大会反対とか言いながら、この結果か……何だったんだ)


 汗だくの体操服姿で戻ってきた俺を見つけた体育の先生が驚いた顔で駆け寄ってくる。


「おい藤堂、今頃戻ったのか! ……それは何だ、馬の糞? なんでそんなもの抱えてるんだ?」

「いや、私が聞きたいですよ! そもそも私の馬じゃないし……」


 こっちはもうぐったりしている。「馬に連れ去られました……」と言おうものなら、先生からは「なんだその言い訳は!?」と睨まれる始末。釈明する気力もないし、あまりの荒唐無稽さに説明しても信じないだろう。


(結局またこんなオチだ……)


 周囲の生徒が「なんで糞持ってるの?」とゲラゲラ笑いながら寄ってきて、俺は恥ずかしさで赤面する。汗と涙と馬糞まみれ(?)のマラソン大会なんて、もう二度と走りたくない……。


 こうして、冬のマラソン大会は幕を下ろした。ちなみに結月は結局そこそこいい順位だったようだ。


「美玲ちゃん、どうしたの?」

「なんか馬に乗せられて……いろいろ大変だったっていうか……」

「……え? どういうこと??」

「もう説明する気力ない……」


(はあ、普通にマラソン走るのと比べて、どっちがマシだったんだろうか……)


 そんな自問を抱えつつ、俺は馬糞の袋を廃棄する場所を求めてトボトボ歩くのだった。

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