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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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66.始業式・書初め式

「冬休みもあっという間だったなぁ……」


 そんな呟きをこぼしながら、新しい年の教室へ足を踏み入れた。正月早々いろいろあったけれど、どうにかこうにか無事に新学期を迎えてしまった。


 ホームルームが始まる前、クラスメイトたちがわいわいと「明けましておめでとう」だの「今年もよろしく」だの言い合っている。そんな雰囲気に飲まれる形で、俺もニコニコと「あ、おめでとう」なんて挨拶を交わしていると、隣の席の結月が笑顔で話しかけてきた。


「美玲ちゃん、おはよう! 冬休みどうだった?」


 俺は軽くため息つきつつぼやく。


「いろいろスゴかったよ……まさかスキー場から学校近くまでそりで運ばれるとは……」

「ごめんね~、あれからレンタル屋さんもびっくりしてたよ」


 結月が謝る必要はないが、過ぎたことだし仕方ない。何とか大きなケガはなかったし……前向きにいこう。


「今年もまたよろしくね、結月。楽しくやろう……とか言って、色々トラブルに巻き込まれるんだろうけどさ」

「何言ってるの、美玲ちゃんだって今年こそはきっと平和に過ごせるよ!」


 結月がにこやかにそう言ってくれるのが、ちょっと嬉しくもあり、不安でもある。まぁ、元旦から散々な目に遭ったけど、ここから挽回できる……と信じたい。


 チャイムが鳴り、担任の小早川先生が教室に入ってきた。新年の挨拶をそこそこに切り上げ、顔を上げてこう言う。


「よし、みんな、あけましておめでとう。さて、うちの学校は毎年恒例で、始業式のあと『書初め式』をやることになってる。知ってるよな?」


 この学校、独自の変わった行事が多いが、年始の始業式もその一例らしい。新年の目標や抱負をみんなで半紙に書くという習慣があるのだ。俺は去年転校してきたばかりで知らなかったが、クラスメイトたちが「ああ、そういうのあったね~」とうなずいている。


「では、体育館に移動して、各自書初めを行う。使う半紙や墨汁のセットはすでに準備してるから、私の指示に従ってね。自分の想いを一文字や二文字で表してくれればいい。自由な言葉でいいぞー」


 先生がそう言い終えると、クラスが「は~、めんどくさそう」「でもお正月っぽい」とざわつく。


「何書こうかな~」

 結月はすでに笑顔だ。俺はちょっと戸惑いつつも、今年こそは穏やかに生活したいという強い願いがあるから、何かそれに関連する字を書こうかなとぼんやり考える。


 体育館へ全校生徒が集まり、壇上では校長と教頭が例の如く長い話をしている。正直こっちはほとんど耳に入らないが、その後すぐに各クラスに割り当てられたスペースで書初めを始める段取りになる。

 クラスごとにシートを敷き、墨汁や筆を広げて「よーし!」とやる気を出す生徒もいれば、「手元が黒くなるから嫌だなー」などと言ってる生徒もいる。結月は「私は『飛翔』とか書こうかな!」なんて張り切っている。


 一方、俺も半紙を前にどんな言葉を書こうか悩む。「今年こそは平和に過ごす」とずっと願ってるし、じゃあ「平和」と書くか……あんまり子どもっぽいかな……と少し考えたが、まぁいいやと思う。


(短いし、二文字だし、力強く書けるかも)


 周りを見ると、「挑戦」「飛躍」「努力」「進化」など、いかにも抱負っぽい字が並んでいる。その中で「平和」は地味かもしれないが……まぁ「安全」とか「普通」って書くのも変だから、「平和」でいいやと決め、軽く筆をとぐ。


(慎重に書くか……)


 小学生以来あまり書初めなんてしてないが、真剣に筆を動かす。緊張で肩がこわばるが、なんとか「平和」の二文字を書き上げた。


(……うん、ちょっと歪んでるけど、これでいいや。「平和」……これぞ俺の今年の願いなんだし)


 そう満足してにっこりする。


 ちょうどそのタイミングで、小早川先生がクラスを巡回していて、俺の書初めを覗き込んできた。そして「平和」の字を見た瞬間、先生の目に涙がじわりと浮かんだのだ。

「……藤堂さん……君はなんて大きな志を……!!」


「え? あの、どういう……」

 戸惑う俺に、先生は感激した表情で指差す。

「「平和」……これはつまり、世界の戦争をなくすために生涯を尽くすという決意の表明だろう!? 君の人生観がここに凝縮されてるんだね!」


「え、い、いや、違――」と否定しようとするものの、先生は感極まってどんどん盛り上がる。


「藤堂さん……なんと崇高な目標なんだ。教師として誇りに思うよ! こんなに深い志を持つ生徒がいるなんて、私も教師人生をかけて応援したい!」


 思わず俺は「ちょ、ちょっと先生、違うんですって」と言いかけるが、先生はもう完全に聞く耳を持たずである。


「これほど熱い平和への願い……素晴らしすぎる!」

 そう言いながら感涙している。クラスメイトが「なんだなんだ?」と集まってきて、妙に感動の渦が広がる。


(やばい、そんな大層なものじゃなくて、ただ「今年は普通に過ごしたい」程度の「平和」だよ……)


 焦る俺に先生は叫ぶように言う。


「みんな、聞いてくれ! 藤堂さんがこんな熱い書初めをした! これを見てくれ! この『平和』の二文字……世界の争いをなくそうという願いが伝わってくるんだ!」


 クラスが「おお……」「すごい……」と一斉に拍手モードに入り、俺はもう恥ずかしくて頭を抱える。どうやって弁解したらいいか分からない。一応口を開くけど、「違うんです」の言葉は興奮する人々の拍手にかき消されてしまう。


 担任がさらにアドレナリンが出たのか、マイクをどこかで借りてきて、「全学年、ちょっと注目!」と体育館中央に大声でアピールし始めるではないか。


「こちらの藤堂さんが書いた『平和』! みんな見てくれ! 世界から争いをなくす決意が、この書初めに詰まっているぞ!」


 すると他クラスの先生たちや生徒たちも「ほほう」と興味を示し、ざわざわと寄ってきては「すごい!」「まさか藤堂さんがこんな壮大な思いを……」などと呟き始める。もう勘弁して……。


「み、美玲ちゃん……そんな高潔な思想を持ってたなんて……」

 結月まで目を潤ませてる。俺は「違うのに!」と心の中で絶叫しているが、もはや言い出しづらくなってきた。


(これ、一体どうなっちゃうの……)


 そう思っているうちに、他のクラスも書初めを中断し始め、何だか俺が書いた「平和」の紙を取り囲んで「ああ、この筆使いから熱い思いが伝わる……」「世界平和か……すごい……」などなど語り合っている。もう地獄絵図。


 担任がさらなる追い打ちをかける。


「せっかくだから、藤堂さんに『世界平和への思い』という題で一言スピーチしてもらおうか」

「えええええ!?」


 反射的に悲鳴が漏れるが、もう先生はノリノリ。


「ほら、藤堂さん、こっちへ。壇上で喋ってくれ!」

 強引に体育館ステージに引っ張っていく。


「ちょ、あの、本当に私……」と必死に否定しようとするが、「謙遜しなくていい!」と言われ、マイクを渡されてしまう。気づけば全校生徒が体育館で俺を見上げる形に。


(マジか……一人で?)


 校長も「そんな立派な子がいたとは!」と身を乗り出し、みんなが拍手や「頑張れー!」の声。俺は顔が真っ赤になりながら、マイクを握って視線を泳がせる。


(ぜんっぜん平和じゃない……恥ずかしすぎる……)


 仕方なく俺は「え、えっと……」と喋り始めた。


「『世界平和への思い』……とか言われまして、あの、正直いうと、その……今年は、まぁ、平和に過ごしたいというか……」


 しかし生徒たちは「おお……!」と食い入るように聞いている。若干噛みながらも、周りが期待するからにはそれらしい言葉をつなぐしかない。


「……えー、まぁ……世界から争いがなくなるように、えーと、人々が……仲良く……それが、平和っていうか……はい、とにかくよろしくお願いします……」


 支離滅裂すぎるスピーチだが、先生は「素晴らしい!」と涙を浮かべ、会場の生徒も謎の感動ムードで拍手喝采。まさに恥ずかしさMAX。


(もういやだ……ぜんぜん普通じゃないじゃん……)


 心の中で泣きそうになりながらスピーチを終えて壇上を下りると、結月が「すごいよ、美玲ちゃん……そんな志があったなんて……」と本気で感動している顔を向けてくる。


(違うよ……ただ平和に暮らしたかっただけなんだ……)


 一連の騒動が終わり、クラスごと教室に戻る道すがら、クラスメイトがわけわからんことを聞いてくる。


「藤堂さん、今度は国連とか目指すの?」

「私、何か手伝えることあったら言ってね!」

 まるでNGO活動みたいに勘違いした連中が話しかけてきたりする。俺は愛想笑いでごまかすしかない。


「……はぁ、なんでこうなるかな……」

「でも、かっこよかったよ?」

 結月が隣で言う。俺は頭を抱えながら、また変な行事をやらかしてしまったな、とため息をつく。


「どこが平和なんだよ……」と内心で毒づく。書いた文字が「平和」なだけに余計に皮肉だ。


(むしろ大騒ぎになってるし……こんなんじゃ今年も普通に生きられそうにない)


「藤堂さんの文字は特別賞ね! 世界平和への決意を示した書として、校内の廊下に貼り出そう!」

「いいじゃん! 藤堂さんスゴい!」

 先生とクラスメイトは張り切っている。しかし俺にとってはひたすら「違う!」と言いたいのに、雰囲気的に言い出せず終わってしまった。


(世界平和なんて、そんな高尚な思い……ただ平凡な一年を送りたかっただけなんだけど……)


 そんな苦い思いを飲み込みつつ、始業式と書初め式が終了。周りは「美玲ちゃん偉い!」と手を振って感涙している。


「全然平和じゃない……」と、書いた字を恨みたくなるほど脱力しているのだった。

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