63.正月のとある一日
「はぁ、ようやくお正月らしい休みが来た……」
年末からのバタバタや初詣の出来事などを終え、俺は大好きなこたつをリビングに出して、今日は一日ゴロゴロするつもり満々だ。
こたつのスイッチを入れ、厚い布団をめくって中に潜り込む。「あぁ、このぬくぬく感……」と思わず体がとろけそうになる。真冬のこたつって最高だよね、これが正月の醍醐味だとつくづく感じる。
「お母さん、おじいちゃんおばあちゃんの家行くの?」
母から朝にそう告げられたけど、俺は「今年はお留守番でいい」と断った。
(今日はただ何もしないでこたつに入ってたいんだ!)
母も「まぁ、美玲がそうしたいなら仕方ないわね。家の戸締まりよろしくね」と言って出かけた。
(よし、これで完全フリー!)
こたつに潜り、手元にはみかんの山。テレビをつけると正月特番をやっていて、大御所芸能人が笑いと涙を誘う企画をしているのが映る。「あー、いいね、この雰囲気……」と本能的にテンションが上がる。
「あぁ、最高……正月サイコー……」
そんな独り言を漏らしながら、みかんの皮をむいて口に放り込む。甘酸っぱくて美味しい。「こたつ×みかん×正月番組=最強トリオ」なんて悦に浸りながら、朝からずっとテレビの前に貼り付いている。
「はぁ……久々に何も起きないでほしい……」
こんな風に何もせずダラダラ過ごすのは実に平和だし、俺の理想の正月像。何回も大騒動のトラブルを経験してきた身としては、ここが安全地帯なのだ……たぶん。
テレビを見続けていると、ちょうどドキュメンタリー風の感動特番が始まる。家族愛だの逆境を乗り越えた人の話だの、正月にありがちなシリアス企画だ。普段ならあまり興味ないんだけど、こたつでぬくぬくしているせいか気分がほっこりしており、思わずチャンネルを変えずに見入ってしまう。
「わぁ……この人すごい……」
いつの間にか俺は目頭が熱くなって、ジワッと涙がこぼれそうに。ちょっと鼻水まで出てきた感じ。「や、やばい……」と慌てるが、今すごくいいシーンだし、こたつから出たくない……。
ちょうどティッシュが机の上に置いてあるのだが、こたつから腕を伸ばしてギリギリ届くか届かないかぐらいの距離だ。どうしよう、俺はものすごく面倒くさがりモードで「こたつから出たくない!」という執念を発揮する。
「あともうちょっと……もうちょっと……」
そう呟きながら机の上のティッシュを指先でつかもうとする。「もうちょい腕が伸びたら……」と思いつつ、こたつ布団の奥でゴソゴソ脚を動かして体勢をずらす。
頑張って手を伸ばした拍子に、どかっと脇の湯飲みに肘が当たった。「あっ……」と思った時には遅く、湯飲みのお茶が床にザバッとこぼれてしまう。しかもこたつのコンセントが抜けかけていたようで、そこへお茶が流れ込む形になった。
「やばっ! 大丈夫かな……?」
焦る俺がこたつ布団をめくると、「ピシュン!」みたいな火花が散って「バチバチッ」という嫌な音が聞こえる。「うわあ!」と飛び退くと、プツンと家全体が停電。
「ひっ……ウソでしょ!?」
あたりが真っ暗……時計やテレビも消えて、正月特番の音声が途絶えた。「まじか……コンセントに水が……」と青ざめつつ、背筋に冷や汗が流れる。
停電の暗がりの中、「何か焦げ臭い!?」と嫌な予感がする。コンセント付近を見れば、小さな火がカーペットに移りかけているじゃないか。
(まじで火事になる!?)
「やばいやばい!」と叫びながら俺はバタバタ走り、台所でバケツに水を汲む。そして慌てて戻り、ザーッと注ぎかける形でどうにか火を消すことに成功。
「ふぅ……死ぬかと思った……」 と胸をなでおろすが、勢いよく水をまいたせいか、床の水流でテレビ台までずらりと濡れ、テレビ本体が揺れて「ガタン!」と倒れる。
「ちょ、ちょっと待って!……あーっ!」
地面に落ちたテレビは「バキッ」という音とともに画面が割れてしまう。粉々というほどでもないが、液晶は割れて終わり。
「あ、あぁ……嘘でしょ……テレビ……正月特番……」
絶望の声を上げる俺。こんなに短時間でここまでの惨事になるなんて、信じられない。
その時、タイミング悪く帰ってきた母が駆けつけてくる。
「な、なに!? なんで停電してるの?」
何事かと思いリビングに駆けつけた母が目にしたのは、停電した暗がりのリビングにカーペットの焦げ跡、こたつから湯気と焦げ臭い匂い、床に水たまり、倒れたテレビの無残な姿――という大惨事。
「きゃあああああ!? 美玲、何やってんのーーー!!」
母が絶叫。まるで家が火事半壊したかのようなテンションで怒鳴り散らしながら、電気ブレーカーを確認しに走る。
涙目で「ごめんなさい、ごめんなさい……」と繰り返すしかない。ダラダラしてるだけでここまで大事件が起きるなんて思わなかった……。
母はブレーカーを上げて停電は復旧するが、テレビの液晶は完全アウト。カーペットもこげ跡が生々しいし、こたつもコンセント付近がショートして使い物にならないかもしれない。
テレビが消えたリビングで、水浸し&焦げ臭い空気を嗅ぎながら、母に「もう! 正月早々……!」と激怒する。俺は平身低頭して深く落ち込む。
(ホントは一日こたつでゆっくりして、正月番組見て、みかん食べて過ごすつもりだっただけなのに……)
心の中で泣きそう。やろうとしたのはティッシュを取るだけ……それがこんな結果になるとは。
(何もしてないのに、何か起こる……まさか動物騒動なしでも大惨事になるとは……俺の体質ヤバすぎ……)
「とりあえず掃除機と雑巾でここを片付けて! テレビはもう買い換えるしかないわ……あぁ年明けそうそう余計な出費が……」
母は嘆きオーラ全開で言う。俺は必死に片付けを手伝う。
夕方にはどうにか最低限の片付けが終わり、火災まではいかなかったものの、こたつは使えない、テレビは壊れた、カーペットも一部焦げ、と散々な状態。
「ごめん、お母さん……」
罪悪感100%で謝るが、母も拗ね気味で言い放つ。
「もういいわ、アンタ外に出といて!」
(さっきまで俺、こたつの中で幸せだったんだけど……わずか数分で地獄に落とされた感じ……)
そう思いながら、自室に引きこもる。窓の外は綺麗な冬の夕焼けが見えるけど、全然気持ちが和まない。
「まさかダラダラしてるだけでこんなトラブルが起こるなんて……」
俺は布団に突っ伏して呟く。普通にしてれば怪我や災害はないと信じていたのに、全く何かが起こってしまう。「もう今年も平和は無理かな……」としょんぼり。
――――
結局この日は俺がただこたつでゴロゴロしてみかんを食べ、正月特番に感動して……というごく普通のだらけた一日のはずだったのに、停電に火事未遂にテレビ破壊という大災難を引き起こした形になった。
母の怒りは収まらず、翌日からこたつが没収されている。
「こんな危険なもの、アンタには使わせられない!」
俺はテンションガタ落ちだが、仕方ない。
外からは凧揚げの歓声が聞こえ、世間は正月ムードを満喫している。
(今年もこんな調子になりそうだな……)
そう思い、再度大きく息をついたのだった。




