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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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61.不可解な大晦日

「えっ、おつかい……?」


 冬休みに入ってからというもの、家でゴロゴロしていた俺は、母親から「年越しそばを買ってきて!」というミッションを受け取った。今日は大晦日、皆があわただしく年の瀬を迎えているタイミングだ。

「はぁ……わかったよ、行ってくる……」

 不承不承ながらコートを羽織り、財布をポケットに入れて家を出る。空気は冷たいが、夕暮れ前の街には独特の活気が感じられる。


(まぁ、年越しにはそばを食べるしね……)


 そう思いつつ「今年もいろいろあったなぁ……」と心が自然に振り返るモードに入る。


 家の近所の道を歩きながら、つい回想が始まる。サーカスに巻き込まれた文化祭や修学旅行、サルや黒猫に囲まれる日常……正直、波乱万丈の一年だった。俺としては「もう少し静かに過ごしたいのに」と思わなくもないが、結月や翔、西園寺や神崎とともに経験した様々な事件は、良くも悪くも思い出深い。


「年越しのときって、普通にそばを食べるだけよね……今日はどうか平和でありますように」


 ぼそりと呟きながら、ぼんやり前を見ずに歩いている。車に気をつけながら歩道を進み、雑貨屋やコンビニを通り過ぎ、頭の中は今年の行事を思い出す雑念でいっぱいだ。


(動物事件ばっかだったなぁ……あー、でもそば買わなきゃ)


 急に現実を思い出す。ちょうど大通りの角にあるお蕎麦専門店へ向かおうと足を速める。


「そういえば、おそば……」

 ぽつりと声に出した瞬間――その一言が、まさかこの後の大惨事につながるとは、まったく予想していなかった。


「お嬢さん、ありがとう!」


 まるで映像が切り替わるかのように、前方から走り寄ってきた見知らぬおじさんが、礼を言いながら袋に入った蕎麦を差し出してくる。


「え、ええっ!?」


 すると横からも「ありがとう! お礼にこれどうぞ!」と別のOL風の女性が蕎麦のパックを押し付けてくる。さらには大学生っぽい若い人からも「まじ助かったっす!」と言われて大袋の蕎麦を渡される。


「ちょ、ちょっと待って! いったい何……?」

 手がふさがるほど蕎麦が積み重なり、あっという間に30人前くらいありそうな量を抱える羽目に。周りの人々が「ありがとう、ありがとう」と繰り返しながら去っていく。


「な、なにこれ……おそば……? 私こんなの受け取る覚えないんですけど?」


 呆然と立ちすくむ俺。腕がプルプルして、袋やパックがガサガサ音を立てる。


(なんでこんな大量のそば……俺が買いに来たのはせいぜい家族分2~3食くらいなのに……)


 顔を白黒させていると、さらに数人が「お嬢さん、ありがとうね! 僕もこれ差し上げる!」とそばを手渡していく。「え、えぇ……何がどうなってるの……?」としか言えない。


「いったい何があったの!? わけわかんない……」

 あまりの状況にパニックになりかけたところで、ふと周囲の視線が自分に集まっていることに気づく。人々が敬服の眼差しを向け、「ありがとう……魔女様」とか「奇跡の猫使いだ……」なんてヒソヒソ声が聞こえるじゃないか。


「え、なに、今、魔女? とか言った……?」


 何が起こったのかまったく分からないまま、俺は腕いっぱいの蕎麦パックと袋を抱え、凍りついた笑みを浮かべるしかないのだった――。


――――


 ここからは、とある通行人の視点で語られる大晦日の町の光景……


「大晦日だし、年越しの準備しなきゃな。そばも買ったし、帰ろう……」

 そう思って駅前の通りを歩いていた私は、目の端に黒猫の群れがドッと押し寄せる姿を捉える。


「え、何あれ……猫……?」

よく見ると、先頭に一人の美少女が歩いていて、その周囲を黒猫が20匹ほど取り囲んでいるのだ。さらに上空にはカラスが数十羽舞っている!


「す、すごい……」


 街は夕方の混雑時で、人が多いのに、その少女は心ここにあらずのようでぼんやり前を見ずに歩いている。にもかかわらず猫たちは器用に周りの人の邪魔にならない程度で付いていき、カラスは彼女の頭上を旋回している。通行人たちが「わぁ、すごい……」「魔女?」「猫使い?」と好奇心で見守る。彼女は薄いコートを着ていて、一見普通の女子高生ぽいが、その周りが異様すぎる。


 しばらく少女の後をついていくと、目の前で「ひゃあ! 財布盗まれた!」とおばあさんが悲鳴を上げる。走り去ろうとするひったくり犯が、なんと少女の周りにいた黒猫に次々飛びかかられて転倒!

「あうっ、な、なんだ、離せ!」と犯人が怒鳴るが、数匹の猫がしっかりしがみついて逃がさない。通行人が割って入り、犯人を取り押さえる形に。


「す、すごい……あの娘、動物を操ってるの……?」

 思わず呟く私。だって少女自身は全く気づいてない様子で、前方をぼんやり見ているだけなのに、猫が勝手に活躍してる。


 おばあさんは涙目で財布を取り戻し、「ありがとう、あなたのおかげよ!」と少女にお礼を言おうとするが、本人は「……そば……買わないと……」とボソッと呟いている。なんだか全然会話が噛み合ってないが、おばあさんは感激のあまり「そば? わたしも今から買いに行くんだけど……ありがとうね!」とか独り言のように言っている。


 歩き進める少女の周辺には、まだまだ珍事件が起きる。


 ある男の子が大事な風船を手から放してしまい、ふわふわ上空に飛びそうになると、カラスがサッと飛んで風船をキャッチ、少年の手に戻す。少年は「ありがとう、お姉ちゃん!」と涙を浮かべるが、少女は「……ん?」と気づいてすらいない。

 ある会社員はスリに遭うが、犯人がすぐに黒猫に絡まれて転び、そこへカラスが「カァカァ!」と威嚇で牽制。犯人は逃げられず確保される。会社員が感謝しようと少女に近づくが、やはり彼女は何も分かっていない風で「……そば……」と呟いているだけ。

 幼児が赤信号の横断歩道に飛び出そうとしたところ、猫とカラスがタッグで進路を阻み、子供は九死に一生を得る。周囲の大人たちが安堵で泣き崩れ、「あの娘…神の使い?」と疑問の声まで上がる。

 そんな奇跡の連続を目撃した人々が、「あの娘が動物を使役してるんだ!」「ありがたい!」「助かった!」と喜び、中には拝みかける人までいる。


 人々は口々に「ありがとう! お礼したい!」と少女を囲む。が、少女は初めてそっちを見やり、ぽそっとつぶやく。


「……そういえば、おそば……」


 たまたま大晦日でそばを買って帰る人が多く、みんな「じゃあお嬢さんに渡そう!」と大騒ぎに。手持ちのそばパックや袋を次々手渡ししてしまう。

「お嬢さん、ありがとう!」

「これで年越しを楽しんで……!」

「動物使いの魔女さん、ぜひ受け取って!」

 ……など、感謝と興奮の声が飛び交う中、少女は目を白黒させながらそれらを受け取るしかない。腕いっぱいに蕎麦の袋を抱えて「え、あの、なんでこんな……」と戸惑う様子を見せている。


 最終的に周りの通行人は「ありがとう、黒猫やカラスに助けられた!」と少女を伝説の魔女のように扱い始め、「さすが年末に現れた奇跡の娘だ……」と勝手に盛り上がる。

 誰かが小声で「黒猫やカラスを従えるって、あれ絶対魔女だよ」「間違いない……」と囁き合う。だが、少女自身は完全にキョトン顔。「謎の蕎麦30人前」を抱えたまま「なんでこんなことに……」と立ち尽くす姿が、なんともシュールだ。


 そこまで確認した私は、「やばい、これ以上関わると巻き込まれそうだ……」と身を引き、遠巻きにその光景を後にする。年末の街にはこんなドラマもあるのか、と感慨深い思いを抱きながら。

(あの娘、一体なんなんだろう……)

 苦笑を浮かべ、私はささやかに自分の帰路を急ぐのだった――。


――――


「い、意味分からん……大量のそば……困る……」


 結局、俺は腕いっぱいに抱えきれないそばを持ち帰る羽目になった。帰宅して玄関を開けると、母が「え、こんなにいっぱい……? うちはそんなに人数いないわよ!」と驚きつつ大爆笑。


「何かしら理由があったんだろうけど、とにかくありがとう。年越しどころか年明け数日分も賄えそうね」

母は呆れ半分に笑いをこらえる。


「ま、まぁいらない分はご近所さんに配ってもいいしね……でも重かった……」


 今年最後の大晦日、おそばを買ってくるだけの簡単おつかいでさえ、この有様。

「本当にこの体はどうなってるんだ……」

 心底思うが、年越しそばを食べる時間だけは邪魔されずに済めそうなので、まぁよかったかな。

 来年こそは、もう少し普通に過ごせるといいけど……と願いながら、俺はカレンダーを見つめ、苦笑いを浮かべる。


「とりあえずこんなにそばがあるなら、何日か連続で食べるしかないのかな……」

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