56.修学旅行―2日目夕方
「ふぁぁ……めっちゃ疲れた……」
修学旅行2日目の夕方。俺たちは敦賀まで飛んだりと、波乱の観光を済ませた後、宿舎へ戻ってきた。
まずは夕食が待っている。昨晩はお子様ランチを与えられたという惨事があったので、今日は普通に旅館の和食を味わいたいところだ。
「まぁ、今日は大丈夫、普通にみんなと同じ夕飯が来るよ……」
自分に言い聞かせつつ、大広間の食堂へ向かう。クラスメイトたちが「今日はどんなメニューかな! 昨日は美玲ちゃんだけ違ったね」などと軽口を叩くが、俺は苦笑しながら「さすがに2日連続はないでしょ……」と答える。
ところが、その期待は一瞬にして覆されることになる。
大広間には、みんなそれぞれの和食膳が用意されていた。豪華な刺身や煮物が並び、海鮮鍋をセットしているテーブルもある。クラスメイトたちは「今日もすごいね!」と大喜びだ。
俺も席に着き、うきうきと言う。
「やった、今日は普通の旅館メシだ……」
が、配膳係がうちのテーブルを回ってきた際、「あっ……すみません!」という叫び声が。
「ど、どうしました?」
係の人が慌てて腕を振り回した際、汁物や小鉢をひっくり返してしまう。そのせいで俺の前の膳がびしゃびしゃに……。
「ひゃあぁぁ!」と俺が悲鳴を上げるころには取り返しがつかない。結月や周りの席はまったく被害なしという謎のピンポイント災難だ。
しかも追い打ちをかけるように係員が申し訳なさそうに頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! 予備の食材がもうなくて……えっと、また別メニューで対応するしか……」
(うそ、またかよ……昨日はお子様ランチで、今日はどうなるんだ……)
再び何か別メニューを提案された俺。
「まさかもうお子様ランチとかじゃ……」と思っていたが、出てきたのは「オムライス」だった。しかも洋食チックなトマトソースがかかり、ケチャップライスが包まれた完全な洋風。
「お、おかしい……。旅館でオムライスってどういうこと……?」
涙目になりながら呟くと、クラスメイトたちが「なんかうまそうじゃん、いいな」とか言い出す。
(いや、私は和食を食べたかったんだよ……!)
とにかく腹が減っているし、しょうがないのでスプーンでオムライスをすくい、一口。
「おいしい……」
やっぱりお子様ランチに続き、洋食もうまいのはうまい。だけども涙が出るのはなぜだろうか。
「どうして私だけ和食を食べられないんだ……」
そんな想いを飲み込みながら、クラスメイトは豪華刺身や鍋を楽しみ、俺はオムライスを黙々と食す……今夜も悲壮感漂う。だが周りは面白がっているのか、「なんか似合うよ」と茶化してくるのだった。
――――
「今日は大浴場一緒に行こうよ!」
食後、部屋に戻ると、結月が元気に言ってくる。けれども、俺は前世が男だったこともあって抵抗感がまだまだ強い。
「ごめん、やっぱり一人で部屋風呂入るわ……」
結月は「えぇ、また?」と不満そう。でも強制はしないようで、
「しょうがないなぁ……。じゃあ大浴場に行ってくるね!」
こうして俺は部屋風呂に行くことに。鍵をかけて、入念にチェックしてから服を脱ぐ。
「さすがに今日は大丈夫だろう……」
お湯を張り、ほっとしながら湯舟につかる。
「ふぅ……さすがに猿が連日来ることはないよね……」
しかし数分後、まさかの「カサッ……コツコツ……」という足音がドアの外から聞こえた気がして、「まさか……」と思った瞬間にガラッと開く。
見るとニホンザルの一団がまたタオルを持ってのこのこ入ってくる。
「ええええっ! またか……」
俺は悲鳴を噛み殺す。なんで鍵が……もしかして壊れてる? 何にせよ猿たちは全く臆せず入浴モード。
夕方の光が差す浴室で、猿たちは勝手にお湯を覗き込み、「キーキー」と鳴く。俺がビビって湯舟の奥へ避けると、一匹が隣にスポッと入り込み、背中を洗う仕草を始めるし……もう混沌としていた。
そこへ、いつもの元気な声が廊下から聞こえてきた!
「美玲ちゃん、開いてる? 今日こそは一緒に入るよ!」
「え、ちょ、待って……結月!?」
俺は焦るが時すでに遅し、ガラッとドアが開いて結月が半裸の状態で入ってくる。
瞬間、結月の目はこの異様な光景をとらえ絶叫。
「な、なんで、猿……こんなに!? きゃああ!」
動揺して後ずさる結月に、1匹の猿がハッと反応して飛びかかる形に。おそらく敵意はないが、興奮してしまったのかもしれない。
「きゃーー!」
結月が悲鳴を上げ、バランスを崩して尻もちをつき、バタッと気絶してしまう。
「うそでしょ!」
俺は湯舟から飛び出そうとしたが、全裸だし猿も足元をバタバタ横切るので転びかけながら必死にタオルを探す。
なんとかタオルを巻き、気絶した結月に近づく。
「結月、しっかり……」
頬をペチペチ叩いてみる。すると一匹の猿が「キー?」と鳴きながら、結月の腕を優しく撫で始めたではないか。
「え、優しい……?」
まるで介抱するかのように、猿が小さな手で結月の肩をトントンする。俺は唖然とするしかない。
しばらくすると、結月が「う、うう……」と目を覚ます。視界に猿の顔があり、思い切りビクッとして再度叫ぶかと思いきや、猿がチョイチョイと頭を撫でるような動きをしていて、結月は「は……?」と困惑顔。
「サル……? い、痛くしないで……」
震える結月。猿はまた「キーキー」と短く鳴いて、まるで「大丈夫だよ!」と言ってるかのように首を傾げる。
(なんだこの光景……)
やがて満足したのか、サルたちは勝手にタオルを持って部屋風呂を去っていく。まったくもって謎の習慣だ。とにかく大事にならずよかった。
結月は腰を抜かしたまま「あ……あ……」と口をパクパクしているが、どうにか息を整えて抱きついてくる。
「あ、ありがとう、美玲ちゃん……猿こわかった……」
「い、いや、私だってバカバカしい状況だよ……」
タオル巻きで半裸同士、猿に囲まれるとか修学旅行にしてはカオスすぎる。
「はぁ……。ごめん、結月……ちゃんと説明できなくて。実は昨日もサルと入って……」
正直にカミングアウトすると、結月は驚愕の表情で言う。
「はぁ? 何それ……2日連続!?」
半ば混乱しているが、「もう信じられない……」というリアクション。
さすがに風呂を続ける気力もなく、結月と一緒に大急ぎで体を洗い流してから上がる。部屋に戻りながら、「何なんだろう、この宿は……。どうして猿が毎日来るんだろう……」と二人で頭を抱える。
クラスメイトたちが大浴場で楽しく入浴してると思うと、なんか悔しいけど、もう精神的に疲れ果てた俺。結月もまだトラウマ顔だ。
「もう……私、死ぬかと思ったよ……猿が飛びかかってくるとか……」
結月が涙を浮かべて言っていた。
「でも最後、介抱してくれたね」
「ほんと、最初はビビったけど……何あれ、サル界の親切心?」
まだ混乱が抜けない結月だった。




