48.文化祭―閉会式
「いやぁ……終わったー!」
俺はクラスメイトたちと一緒に教室の真ん中へ集まり、「お化け演劇焼きそば喫茶」の大成功を噛みしめていた。
振り返れば、焼きそば&紅茶の組み合わせという謎構成、さらには和風ホラー『お化け演劇』まで取り込んだ盛りだくさん企画。最初はどうなることかとハラハラしたが、結果的に行列ができる大人気出し物に成長してしまった。
「ねぇ、美玲ちゃん。みんなが『すごく面白かった!』って言ってたよ!」
結月がニコニコ顔で報告してくる。これには俺も内心安堵せざるを得ない。
「良かったよね。いろんな要素詰めすぎだったけど……」
そんな会話をしていると、お化け演劇班の連中が興奮気味に集まってきた。
「いやー、俺たち新しい演劇の形を生み出したと思ってたんだけど……」
演劇班の班長が腕組みしながら言う。
「実はこれ、『能』っていう日本伝統芸能にめっちゃ近いらしいぞ! さっき観に来た先生に言われて知ったんだ!」
「……今さら?」
思わず俺は内心で突っ込みつつ、顔には出さない。
(だって、あの般若の面も、悲しみを語る幽霊の設定も、まんま能だろ……)
班長は大興奮で続ける。
「能ってさ、幽霊が主人公だったり、和風の面をつけて舞う伝統芸能なんだって! 新しいと思ったのに、何百年前からあったんだなぁ……」
「すごいショックだけど、なんか勉強になったよな!」
他の演劇メンバーも「確かに……」と頷いている。その光景を見て俺は、変なツッコミは入れずに、今はそっとしておくことにした。
「でも大成功じゃん。お客さん泣いてたし……文化祭がきっかけで能に近い何かを再発見したんだから、いいんじゃない?」
軽くフォローすると、班長は「うん! まぁこれはこれで良い思い出だ!」と晴れやかに笑う。前向きな班長なのであった。
――――
やがて放送で「各クラスの出店終了時間になりました。参加者は後片付けを済ませ、閉会式へ……」とのアナウンスが流れる。校内が一斉に動き始め、俺たちも教室を片付けて体育館に移動する流れに。
体育館のステージではバンド部が「文化祭閉会式スペシャル」と銘打ってライブ演奏をやっているらしい。
「おぉ、何か盛り上がってる!」
結月がはしゃぎながら駆け込む。翔やクラスメイトたちもそこに集まってきて、みんなで最後の余韻を楽しむことにする。
バンド部の激しいギターリフが響き、ボーカルが力強く歌い上げる。周囲の生徒は拳を突き上げ、体育館が熱気に包まれていく。
そこに身を委ねながら、俺はこの数日の出来事を脳裏に思い浮かべていた。
「お化け演劇焼きそば喫茶」でヒヤヒヤしたのはもちろん、他クラスを回ってサーカスの虎に乗ったり、たい焼きを汗だくで焼いたり、VRの落下防止係をやったり……。
「いや、これが素敵な思い出なのかな……?」
いろんなことが頭をかすめるが、俺が思い描く「青春の文化祭」って、こういうんじゃないと思うんだよな……。
バンド部の熱演が終わると、ステージの端にいる教頭先生がマイクを取って言った。
「えー、皆さん、本日は素晴らしい文化祭となりました! 最後に校長先生の講評を……」
生徒の空気が一瞬で「ああ、またか……」みたいな雰囲気に変わる。そう、この間から校長が行方不明の常習犯だ。
「校長先生……? あれ、いないの?」
案の定、袖を見ても誰も出てこない。教頭が困り果てて一瞬黙り込む。
「えー、校長が見当たらないため……校長先生の講評は、中止といたします。皆さんお疲れさまでした!」
あっけなく終了が宣言され、「あーあ……」とざわめく声が体育館を包む。
(なんだ、また行方不明か……この前はカツラ騒動とかあったけど、今度は何なんだ……)
呆れつつも生徒たちは拍手喝采で文化祭の幕を下ろす。大成功だったクラスが多かっただけに、若干のモヤモヤ感はあるけれど、みんな満足そうに笑っている。
結果、「お疲れー!」の掛け声が上がり、一斉に解散となる。
――――
閉会式が終わり、俺たちの文化祭は無事に終了した。翌日、クラスメイトたちと後片付けに登校すると、「校長先生がまた見当たらなかった理由」について噂が飛び交っている。
「なんか、校長は闇鍋同好会に行ってたらしいよ。しかも狂ったように鍋を食べてたとか……」
「マジで? 怖いんだけど……」
そのワードを聞いた瞬間、俺はゾクッとする。あの闇鍋喫茶だ。俺もあそこで異様にうまい鍋を腹いっぱい食べたけれど、あまりの謎食材感に恐怖を感じた。
(あの激ウマだけど怪しい鍋を、校長が……狂ったように食べていた?)
なんとも言えない戦慄が走る。あの脳を直接喜ばせているような、強烈な美味を思い出す。体が勝手にあの鍋を欲しているのが分かる。多分校長もその魔力的な旨味に取り憑かれたのかもしれない――そう考えたら、俺は背中に冷たい汗が伝う思いだ。
昼過ぎに片付けも終わり、昇降口で靴を履き替えていると結月が「ねぇ、美玲ちゃん、文化祭どうだった? 楽しめた?」と無邪気に聞いてきた。
「楽しめた、かなぁ……」
結果的にはクラス出し物も成功してるし、不思議な達成感はある。
「でも……何もかも疲れた……この数日でありえない体験ばっかした気がする……」
そう正直に言うと、結月はポジティブの塊のような笑顔で答える。
「あはは、そうだよね。でもこういうのが青春っていうかさ、思い出になるんじゃない?」
俺の考えていた普通の青春ではないが、思い出と言えば思い出だった。
校庭を横切りながら、青空を見上げて「まぁ、終わったし良しとしよう」という気分になる。ヘトヘトだけど、こうしてクラス出し物がウケて、みんな笑顔ならそれでいいのかもしれない。




