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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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47.文化祭―闇鍋会

「とにかく何か食べたい……」

 空腹を抱えて文化祭の出店リストを眺めていたところ、妙なブース名を発見した。


「闇鍋同好会……? 闇鍋喫茶……?」

 何じゃそりゃ、と眉をひそめるが、俺は鍋が大好物。どこかひかれるものがある。考えられないような怪しい出店が多いし、だとしても「鍋」が食えるなら勝ちかもしれない。

「もう何でもいいから、ちゃんと食事したい……闇鍋だろうが構わん!」

 勢いでその教室――闇鍋同好会の出店がある部屋へ向かうことにした。


 指定の教室前に行くと、「闇鍋喫茶」 と書かれた不気味な看板が目に入る。ドアを開けると、内部はほとんど光がない暗闇。なんかゴシックホラーっぽい雰囲気だ。

「いらっしゃいませ。どうぞ、こちらへ」

 薄暗い中、同好会のメンバーらしき人が案内してくれる。テーブルには鍋が置かれていて、そこから香りだけがほんのり感じられる。でも具材の姿はまったく見えない。


「え、照明とかないんですか?」

「はい、闇鍋ですから……何を食べているのか分からないようにするのが醍醐味でして」

 そりゃそうだろうが、ここまで暗いなんて……若干不安になりつつ着席。

「鍋大好きだし……まぁいいか」と割り切るしかない。


 案内の人が、「ではスプーンと箸はこちらです。存分に召し上がってくださいね」と囁いて立ち去る。俺はゴクンと唾を飲み込むと、闇鍋に手を伸ばした。


「どんな味なんだろ……」

 内心ドキドキしながらレンゲを突っ込むと、何か柔らかい塊をすくった。口に含んでみると――予想外に「むちゃくちゃ美味い!!」と衝撃が走る。


(う、うわっ……何これ……濃厚で甘辛い……いや、辛くないのか? なんだか複雑に絡み合う旨味がヤバい……!)


 思わず身体がびくっと震え、涙が出そうになる。食感はとろけるのに、噛むと旨味が爆発。野菜か肉かも分からないが、とにかく絶品。

「あ……美味しすぎて……やばっ……」

 俺はうっかり声に出してしまう。まるで天国に行きそうな陶酔感だ。


 そしてスープもすくってみると、これまた複雑な出汁がきいていて脳が痺れそうだ。「この世のものとは思えない味」とはまさにこれを言うのか。

「なんだこれ……本当に鍋なの?」

 そう思いつつ箸が止まらない。具材をどんどん拾い、スープも何杯も飲み干す。気づけば汗をかいてるのか涙なのか判別不能な状態になり、「う……うまい……」を連呼。


 満腹感が得られるまで時間はかからなかった。鍋をほぼ空っぽにして、「ふぅ……」と大きく息をつく。「この味……危険すぎる……」と心の中で呟くが、ここまで美味しいと怖いものがある。


 そのまま退店しようと明るい廊下へ出るが、精算をしないといけない。同好会メンバーに「お会計はいくらですか?」と尋ねると、


「はい、30円です」

「……え、30円……??」

 耳を疑った。


「安すぎないですか? 材料費とかどうなってるの??」としつこく聞くと、同好会メンバーはさらっと「材料原価はもっと安いんです。うちは闇鍋同好会なので……ふふ」と不気味に笑うばかり。


(こ、こわ……何の材料使ったんだよ……)


 ヤバい予感に背筋がゾクッとなる。

「ま、まぁでも……甘じょっぱくておいしかったですよ」

と確認すると、同好会メンバーは小首を傾げてこう言った。


「甘じょっぱい物なんて入れていませんが……?」

 その瞬間、俺の心が凍りつく。「え……? 入ってない……? ……じゃあ何の味……?」

 気づけば手が震え、「あ、ありがとうごさいました……!」と大声で感謝してその場を逃げるように離れた。


(くっ……気絶しそう……何があの味だったんだ……)


 恐怖と疑問に苛まれながら廊下を駆け抜ける。口の中にはまだあの謎の旨味が残っているが、どうにも得体が知れない感じが不安を掻き立てる。

「口直ししたい、何か普通の味を……」と脳が叫ぶ。そこで思い出した。俺のクラスではティーインストラクター直伝紅茶を出していたではないか。


「よし、喫茶班の紅茶でこの闇鍋の後味を消そう……」

 そう思い立ち、教室へ駆け戻る。入ってみると、少しだけ客足が落ち着いたようで、クラスメイトが優雅に紅茶を淹れていた。


「す、すみません、口直しに紅茶ください!」

 目の前のカップに注がれた熱い紅茶がきらめき、香りがふわっと鼻をくすぐる。その瞬間、ホッと安堵の感情が湧き上がる。

 一口飲むと、なんとも落ち着く渋みと優しい味わいが広がる。ああ、やっぱりこれが『正常な世界』の味……と思わず心の声が出る。


 そこへ結月がやってきて、にこやかな顔で声をかけてくる。

「おかえり! 色々回ってきたんでしょ? どう、楽しめた?」


 俺は湯気の立つ紅茶をまた一口すするが、闇鍋の衝撃が脳裏に焼きついていて、正直反応しづらい。あの怪しさ、味の正体不明っぷり、30円で済む謎……。しかも、その前にはサーカスに駆り出されるし、どこに行っても助っ人をさせられるし、散々だった。


「まぁ……何もかも疲れたよ……」

 やっとのことでそう応じた。結月は「えー、なんで?」みたいなキョトン顔。


――――


 こうして俺は、この日の文化祭で「闇鍋喫茶」なる怪しげな店に潜入し、正体不明なのに絶品すぎる鍋を腹いっぱい食べるという得体の知れない体験をした。

 この学校の文化祭は、俺一人では刺激が強すぎる…… それ以降はおとなしくクラスの出し物の手伝いをすることになったのだった。

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