46.文化祭―他の出店
文化祭の午前中はクラスの出し物でバタバタしていたが、ようやく少し余裕ができた時間だ。これからは他のクラスの出店を回って、秋祭り気分を存分に楽しめる……はず、だった。
最初に訪れたのは西園寺麗華のクラス。彼女はいつも優雅で高飛車なイメージだが、いったいどんな出し物をしているのか興味がある。
事前情報によると、「サーカスをやる」とか噂を聞いていたが、まさか本当に? と半信半疑で体育館に向かう。
体育館の入り口にデカデカと「麗華のサーカス団!」というパネルが飾られていて、そこに色とりどりの衣装を着たクラスメイトが出迎えている。
「へぇ、思ったより本気だな……」と内心思う。天井には装飾が吊られ、ステージの上ではピエロ役の生徒がジャグリングをしている。観客がそこそこ入っていて盛り上がっているみたいだ。
「美玲さん……いらしてくれたのね」
奥から麗華が涼しげな表情で現れる。胸元には派手なきらびやかな羽根飾りを付けていて、一瞬「サーカスの団長?」と思うほど華やかだ。
「私、西園寺さんのクラス出し物見に来たんだけど……これ、思った以上にガチだね」
「ふふ、そうでしょ。うちのクラスも負けてられないから、思い切ってサーカスにしたの。なかなか評判いいのよ」
そこへ突然、クラスメイトが慌てて駆け寄ってきて「麗華! 空中ブランコ担当がいなくなっちゃって……助けて!」と青ざめた顔で叫ぶ。
「え、嘘……? もうすぐ出番なのに! 誰がブランコ乗るの……?」
麗華が焦る。それで何故か俺に視線が集まる。
「え、ちょ、私……いや、なんで!?」
焦る俺に、麗華が困り顔で手を合わせて言う。
「ごめんなさい……クラスメイトはみんな役が詰まってるの。外部の友達ってあなただけで……頼むわ、美玲さん!」
「えー!! 嫌だよ、空中ブランコとか危険すぎない!?」
しかしもう押し付ける雰囲気満載。まわりの生徒たちが「頼む~!」「助けて~!」と拝み倒してくる。
結局俺はステージ袖でポンポン肩を叩かれながら「大丈夫、大丈夫」とけしかけられ、もう頭が真っ白なまま空中ブランコに乗る羽目になった。
「わ、私、ちょ……ちょっと待って! 怖い怖い怖い!!」
心の声が悲鳴を上げる。上空につるされたブランコが揺れ始めると、観客席から拍手や歓声が上がるが、俺はもう内心パニック状態。
「いやぁぁっ……助けてえぇ……!」
目に涙を浮かべながら、なんとかブランコにしがみつき、指示されるとおりに逆さになったり振り子を使って反対側のブランコに飛び移ったり。どうか落ちないでくれ……。
だが、これだけでは終わらない。地上へ降りたら降りたで、「次は虎に乗って火の輪くぐりお願いします!」とか言われる。
「嘘でしょ!?」
そこにはまぎれもなく本物の虎らしき動物がしっぽを動かしている。どうやらサーカスの演出でどこからか借りてきたっぽい。
(いや、文化祭で借りてきていいのかよ!? 問題にならない?)
とはいえ、「大丈夫だよ、俺たち安全対策万全だから!」と根拠不明なことを言われる。結局、俺は震える手で虎の背中に乗り、「火の輪っか」をくぐる芸をさせられることに。
「うぎゃあああああ!!」
泣きながら虎にまたがって輪っかを通過。ああ、炎の熱気が近い……怖い……。客席は大歓声で「きゃー! すごい!」と盛り上がるが、俺は完全に生きた心地がしない。
(助っ人にやらせることかな、これ……?)
なんとか危険技をこなして脱出した俺は、床に崩れ落ちるように尻もちをついて、「もう無理……」と呟く。
「いやぁ、助かったわ、美玲さん!」麗華が拍手する。
(よく言うよ、欠員はこの役が嫌で逃げたに違いないって……)
と俺は内心で泣いている。
――――
ヘトヘトになりながらサーカスを脱出し、廊下をぐったり歩いていると、ポスターが目に入った。「全自動たい焼き工場【ごっこ】」と書かれている。
「工場ごっこ……? ちょっと面白そう……」と、ミーハー心がくすぐられ、教室へ入ってみることに。
中は大掛かりな装飾で、ベルトコンベヤーのようなフェイク装置が設置されている。看板には「たい焼きがベルトを流れてくる!」と謳ってるけど、実際のところはホットプレートや家庭用たい焼き器で生徒が焼いているらしい。
「へえ、これはこれで面白いアイデアじゃん……」と感心していたら、急にそこの班長らしき人が「人手足りない! ヘルプお願い!」と飛んできた。
「えっ、なんで私……他クラスなんだけど……」
「ちょうど休憩スタッフが多くてさ……5人一気にいなくなっちゃって。今たい焼きが間に合わないんだ……!」
また強制的に助っ人モードへ。
言われるがまま、俺はホットプレートの前に立ち、生地を流し込んであんこを入れ、ひっくり返して……という単純作業を延々と繰り返す。全自動の看板は飾りで、実際は人力フル稼働。
「ねぇ、工場って……全自動って言ってるけど、めちゃくちゃ人手いるじゃん……」とボソッと呟くと、隣の子が苦笑して「まぁ、工場【ごっこ】だからね……」と言い訳めいたことを言う。
結局、俺は30分ほど汗だくになりながらたい焼きを焼き続け、一部お客さんに手渡しまで担当させられた。客から「美味しい!」と言われるのは嬉しいが、「なんでこんな働かされるの?」と頭が混乱する。
「助かったよ、美玲ちゃん、ありがとう!」
最後に班長が爽やかに礼を述べるので、俺はもう「何しに来たんだ……」と暗い気持ちを隠しきれずにニコリ。
――――
ようやくそこを脱出して廊下を歩く。「次こそ普通に楽しむぞ」と強く決意して周囲を見回す。すると、あるクラスの前に大きな看板があって、「VR喫茶~異世界体験をどうぞ」と書いてあるではないか。
(VR喫茶? 面白そう……!)
俺はワクワクしながら中へ入る。すると、中は暗く区切られたブースがあり、VRゴーグルを装着したお客さんがまるで異世界にいるような動きをしている。
「おお、これはなかなか……。つまりVRゲームができるってこと?」
受け付けの生徒が説明してくれて、「異世界を歩きながらお茶できる」というコンセプトらしい。なんだかすごい時代だよな……と感心しながら着席しようとしたとき、また「すみません! ヘルプお願い!」と呼ばれてしまう。
「え、なんで?」
「客がVRの世界に没頭しすぎて、教室の窓から転落しそうになったりするんですよ……だから転落防止係が必要で」
「はぁ!? なんでそんな危険な……」
仕方なく、俺は「転落防止係」として立ち上がる。お客さんがVRゴーグルをつけてフラフラ歩き回るのを後ろから抑えたり、窓や扉に突っ込まないよう導いたりする。時々「うわ、もう落ちる……」と息が詰まるシーンもあって、まるで幼児を見守る保育士のようだ。
「今日の私、ずっと何かのヘルプしてる……」
内心で呆れながらも、転落を未然に防ぎ、何度か「ありがとう! 助かった!」とVR中の客に礼を言われる。
――――
ようやく落ち着いて喫茶スペースに座る頃にはクタクタ。VR体験どころか雑用しかしていない。ドリンクをすすりながら、「はぁ、結局また働かされた……」とため息をつく。
(文化祭って俺が客として楽しむ場だと思っていたんだけど……。というか、なんでみんな俺をヘルプに呼ぶんだ?)
軽く周囲を見回すと、他クラスでも奇妙な出し物や演出をやってるらしい。「普通の展示」とか「普通の喫茶店」は無いのか、と思うほどあちこちが斬新か過激な企画で盛り上がっている。
「もう……私ちょっと疲れたよ……普通に回りたいのに……」
声に出して嘆いてしまう。すると隣の客が「ん? どうかした?」と怪訝そうな顔をする。「あ、いえいえ、何でもないです……」と誤魔化して席を立つ。
(このままじゃ文化祭が無駄に終わっちゃう……)
ヘルプばかりで、少しお腹が空いた。せめて腹を満たすべく、俺は引き続き出店を回るのだった。




