45.文化祭―当日の評判
「……ついに来たかぁ、文化祭当日……」
そう呟きつつ、俺は校門をくぐる。学校全体が熱気に包まれるこの行事。ワクワクよりも、正直ドキドキが勝っているのは、我がクラスの出し物が『お化け演劇焼きそば喫茶』なんて不可思議なものだからだ。
あまりにも要素盛りだくさんで、当日どうなるか想像がつかない。「本当に大丈夫かな……」と不安になりながらも、裏方担当として朝早くから登校している。
「おはよう、美玲ちゃん!」
隣のクラスで合流した結月が笑顔で駆け寄ってきた。今日も明るい声だが、どこか目が充血気味。多分、あまり眠れなかったんだろう。
「おはよう。さあ、いよいよだね……とりあえず教室行こう」
そう促し、二人で急いで教室へ向かう。廊下には他クラスの大掛かりな装飾が散らばり、いかにもお祭りムード。すれ違う生徒たちも荷物を抱え、楽しそうに談笑している。
胸の奥に拭えぬ不安が渦巻くが、俺は深呼吸して気合を入れた。
教室のドアを開けると、すでに『お化け演劇焼きそば喫茶』の準備が完了していた。机と椅子で簡易的な客席が作られ、左隅には鉄板、右隅には紅茶サーバーやティーセットが並べられている。その後ろには演劇用の舞台……といっても教室内に組み立てた小さなステージだ。
一瞬見ただけで「なんだこれ!?」と叫びそうになる。中央には薄暗い照明、かと思えば焼きそばを焼く鉄板親父の姿があり、隣にティーインストラクターが優雅に紅茶を用意している。
更にステージ上には般若の面をつけた数名が、能っぽい衣装で座っているじゃないか……。
(こ、こんなのが同時進行するの……? 大丈夫……?)
――――
「お客さん、どうぞこちらへ! 焼きそば食べながら、紅茶もいかがですか?」
というクラスメイトの歓迎の声が響く。午前中のオープン早々、何人かが興味本位で入ってきたようだ。
「え、焼きそばと……紅茶? あ、演劇もあるんだ……?」
客たちは戸惑いながら席についている。
俺は裏方としてカウンター裏でお皿やコップを準備しながら、そっと客たちの様子を見守る。すると、鉄板親父が威勢よく麺を炒め始めた。
「いいか、麺が呼吸してるのを感じろ……ソースはここで投入するんだよ!」
彼の熱血指導のもと、焼きそば班の生徒たちが麺をジュージューと音を立てて炒め、すさまじく良い香りが漂う。
同時に喫茶コーナーではティーインストラクターが「紅茶の深みは温度と抽出時間……お客様の味覚に合わせて調整を……」などと指南し、クラスメイトが感動しながら上質な紅茶を淹れている。
客のテーブルに運ばれた焼きそば+紅茶の組み合わせに、みんな最初は「え……合うのか?」と半信半疑。しかし食べ始めると「うまい……なんか変だけど合う!」みたいな驚きの声が漏れる。
さらにステージの方では、『能もどき』が始まったらしい。般若の面をつけた演者が謎の哀愁漂うセリフを語り、全員で静かに動く。俺が見ても正直よく分からないのだが、客の中には「なんか涙が……」「生前の悲しみをこんなふうに表現するなんて……」と号泣している人までいる。
(え、嘘でしょ……何これ意外と好評……?)
客たちは口々に「新しい世界観……異世界に来たみたい……」とか言い始め、真剣に観賞しているし、焼きそばも「絶品すぎる!」という感想ばかり。紅茶も「焼きそばの味を引き立てる!」と意外な組み合わせに感動している。
俺は裏方担当として、合間にお客さんへ声をかけて感想を聞く役目も担っていた。いくつか声を拾ってみると――
「焼きそばが絶品! ソースのコクが最高!」
「焼きそばと紅茶、意外と合うんですね……ビックリしました!」
「お化け演劇……あの般若の面の演者が語る哀愁に涙が止まらなかった。まるで昔の日本の情景が浮かんだようで……」
「舞台が暗くて、同時にソースのいい匂いが漂ってきて……不思議な癒しがあった! まるで異世界!」
「あと焼きそばが絶品!」
などなど、ほとんどが大好評。中にはしきりに「焼きそばもう一皿!」とおかわりを求める人まで多数。俺は思わずペンを走らせながら「なんだこれ、めちゃくちゃなのにウケてる……」と驚かされた。
(さすがにすべてが混在するなんて破天荒すぎると思ったが……世の中わからないもんだな)
しばらくして、昼前には既に行列ができるほどの人気ぶり。鉄板親父は大忙しで麺を炒め、焼きそば班の生徒も汗だく。そんな中、親父は急に「おまえら、もう俺が教えることはねぇ……」と涙ぐみながら呟き始めた。
「この短期間で、ここまで麺と対話できるようになるとは……ソース焼きそばが泣いてるぜ、おまえらの情熱に……!」
その言葉に焼きそば班は「親父さん……!」と号泣。思わずガシッと互いの手を握り合うシーンになり、まるでスポ根ドラマの最終回みたいになっている。
その光景を横目に見る俺は、「なんだこれ……?」と頭を抱える。
(麺の気持ち……ソースが泣く……何言ってんだ……でも感動してるし、焼きそばの出来も……)
焼きそば班は最高の麺を仕上げ続け、客が絶えないんだからすごい。親父は最終的に「達者でな……」と去っていったが、どこへ行くのかは謎。クラスの面々が号泣で見送るというドラマチックさに俺はついていけない。
一方、ティーインストラクターの方も紅茶コーナーで「皆様を優雅におもてなしするのです……それが一流の紅茶道!」などと力説。喫茶班の子たちは「はい!」と気合い十分。
結月もその一人で、カップを抱えながら「先生、紅茶の世界って素敵ですね!」とキラキラした目を向けている。
(そこまで紅茶に入れ込んでるとは……結月、洗脳されるの早すぎない……?)
そして、おばけ演劇班が演じる『能もどき』も驚くほどの人気を集めていた。暗転したステージで面をつけた演者が低い声で哀愁たっぷりに台詞を吟じ、そこへ悲しげな三味線のようなBGMが流れる。
客席からは「しんみり泣ける……」「本当に亡霊が出てきたみたいだ……」という声すら聞こえる。まさかの大成功だ。
焼きそばと紅茶を飲み食いしながら、その演劇を見るという構図が成立しているのも謎すぎるけれど、ここにいるお客さんは全員楽しそう。少なくとも結果は大成功だ。
これだけ要素が詰め込まれて、混乱しないのかと思っていたけど、蓋を開けてみれば「なんかスゴイ」「クセになる」と大評判。怪我人や大事故も起きていないし、俺は安堵の息をつくのだった。
――――
午前中が終わるころ、すでにうちのクラスの出し物は行列必至の大人気になっていた。焼きそば班・喫茶班・おばけ演劇班それぞれが充実の笑顔。
問題なく回っており、俺の裏方としての仕事はほぼ終わり。雑用も片付いた。
続々とクラスメイトが「ありがとう、美玲ちゃん!」と声をかけてくる。「このステージ設営も助かったよ!」なんて言われると少し照れる。
こうして、「お化け演劇焼きそば喫茶」という謎企画は予想を裏切って大成功を収め、午後にはさらにお客さんが増えそうな勢いだ。
それを見届けた俺は、ようやく肩の荷が下りた気分で大きく伸びをする。「結果オーライだったな……」と胸を撫で下ろした。
「裏方としてやることはもうないし、午後は他のクラスを巡って楽しもう!」
午前中の活気に包まれる教室を後にしながら、俺は他の出し物を覗いてみようと廊下を歩き出した。




