39.秋のスイーツ巡り「こだわりモンブラン」
「……やっぱり秋といえば、栗でしょ!」
そんな一言を、結月が嬉々として口にした。どうやら彼女は「スイーツ巡り」の第2弾に完全に火がついているらしい。
そして、前回の「リンゴタルト」に続いて、今度は「こだわりのモンブラン」が評判の店があると言うのだ。なんでも、地元の栗を使った激ウマスイーツを食べられるらしく、雑誌やSNSでも人気だという。
俺はと言えば、もちろん異議はない。甘いものは大好物だし、前回、あれだけのリンゴタルトを平らげても元気に過ごせたし、今回も存分に楽しむつもりだ。
「私、昨日からモンブランの写真見まくってテンション爆上げなんだよね! 美玲ちゃんはどう?」
結月が電話で問いかけてきたとき、俺は即答した。
「私も楽しみだよ。今度はどんな味なのか、いっぱい食べたい……」
(……そして、今回も道中のトラブルを華麗に回避してやる!)
内心、俺はそう決意していた。
――――
土曜日の朝、結月と駅前で待ち合わせした。秋独特の涼しさが心地いい。
「やっほー! 美玲ちゃん、昨日からテンション上がりすぎて寝不足だよー!」
結月が元気に手を振る。俺は心の中で(だいぶ体調管理に慣れてきたからバッチリだ!)と呟きながら手を振り返した。
「おはよう。私も早起きしたけど、もうモンブランのことばっかり考えてた……」
「わかる~! じゃ、さっそく行こっか。店は商店街だよね。バスでもいいし歩いてもいいけど……」
そこで、結月がガイドブックを取り出し、店までのルートを再確認。すると、俺は悩んだ末に「たまには徒歩もいいんじゃない?」と思った。運動も兼ねて、途中の景色を楽しみたい。何か事件が起きても対処しやすいはず。
そんなわけで、二人で商店街まで徒歩移動という計画がスタートしたのだが……
駅前から少し歩き出したあたりで、いきなり幼児が「ママー! どこー!」と大泣きしている現場に遭遇。
「またかよ……」と内心思う。だが、前回のサバイバルで自信をつけた俺は動じない。結月と協力して交番に連れて行くと、すぐに母親が現れ、無事に解決。
……しかし、そこからが本番だった。次々と迷子が現れるのだ。1人、2人、3人……数を数える暇もなく、最終的にはなんと30人もの迷子に遭遇する。
「どんだけ親御さんたち油断しすぎなの……」
結月がやや呆れ顔をしながらも、俺たちは手慣れたもので、一瞬で親や保護者を探し出したり交番に誘導したりしてサクサクと対応していく。
わずか1時間で30人全員を無事に保護&対処という、以前なら考えられない神業を成し遂げる。だいぶ上達したもんだ……自分で言うのもなんだけど。
結月は苦笑まじりに「ね、こんな短時間で30人って逆に奇跡だよね?」と呟く。
俺は汗を拭いながら「うん、もう何か慣れちゃったよ……」と返す。
(こんな慣れいらないんだけど……まぁいい)
迷子救出劇を経て、やっと目的地のパティスリー「ラ・マロン」に辿り着いた。外観は木とレンガの落ち着いた感じで、大きな栗のオブジェが目印になっている。
中に入るとふわっと甘い香りが漂い、ショーケースにはマロンクリームを使ったケーキがズラリ。
「きゃー、すごく可愛い! わぁ、このモンブラン見て……!」
結月が興奮のあまり両手を合わせて飛び跳ねる。俺も思わず息を呑む。クリームが渦巻き状に絞られ、上に渋皮栗が乗った美しいモンブランの数々。ここは天国か。
早速テーブル席に案内され、店員さんが注文を聞いてくれる。
「えっと、モンブラン……1個?」と結月が問うと、俺は首を横に振った。
「私、30人分の迷子対応で余計にお腹空いた。だから、30個……」
結月は「えぇ!?」と声を詰まらせ、店員も思わず目を丸くする。
「あ、あの……30個……全部同じ味でよろしいでしょうか……?」
「はい、すべてモンブランでお願いします。あ、クリームが違うやつを10個ずつお願いします。」
思わず店員の声が震えるが、俺は笑顔で頷く。せっかく来たんだし、いくらでも食べられる気がする。
結月は苦笑交じりに「うわぁ、また大量に……」と呆れている。
注文を終え、モンブランが運ばれてくるまでの間、結月はふと話始める。
「そういえば、私、この夏休みそこそこ日焼けしたんだけど……」
確かに彼女の腕や頬はうっすらと小麦色。海やバーベキュー、色々アウトドアを満喫した成果かな。
「私も同じくらい一緒に動いてたと思うけど……あんまり焼けてないかも?」
そう言いつつ自分の腕を見るが、ほとんど日焼けした感じがしない。肌が白いままだ。
「うん、なんか美玲ちゃんって全然肌が焼けないよね。正直、羨ましいなあ……。ホントに妖精みたいだよね!」
結月が感嘆の声を漏らす。
「妖精は勘弁してよ……。私、ただの人間だし……」
と口で言いつつ、内心思う。
(でも確かに、海や川、色んなとこ行ったのに、この肌の白さは不思議かも。まぁ今さら気にしても仕方ないか……)
そんな会話をしているうちに、店員が大きなお盆を複数回に分けて運んでくる。モンブラン30個がテーブルにずらりと並べられる光景は壮観だ。
周りのお客さんも少し驚いた感じで見ているが、俺の食欲はもう最高潮。
「いっただきまーす!」と声を合わせてフォークを手に取る。
一口食べてみると、マロンクリームが濃厚で、口の中に秋の香りが広がる。土台のサクサク生地もたまらない。
「ん~っ、何これ……めっちゃ美味しい……!」
思わず笑みがこぼれる。結月も「おいしー!」と頬を膨らませて幸せそう。
「でも30個って……大丈夫かな、私ちょっとしか食べられないから……」
結月が申し訳なさそうに言うので、俺は「大丈夫、任せて!」と胸を叩く。そこからノンストップでフォークを進めていく。
5個、10個……もう甘さに慣れてきた頃、ふと笑いが止まらなくなる。こんなに甘い幸せがあるのかと感じるほどだ。
20個を超えたあたりで、2~3個食べた結月は完全にお腹いっぱいのようで、「もう無理……私、あと紅茶しか入らない……」とリタイア。
だが俺のペースは落ちることなく、最終的に30個完食へ。店員さんが信じられない表情で「え、全部……?」と呟く。大満足だ。
「はぁぁ……美味しかった……」
至福の境地に到達し、思わず溜息が出る。
「やっぱスイーツ最高だね……しかも今日も道中で何の被害もなくたどり着けたし、普通に食べられた気がする!」
俺はドヤ顔で胸を張る。
しかし、結月は苦笑まじりに首を振る。
「うーん……確かに大きなトラブルにはならなかったけど、30人も迷子がいたって時点で普通じゃないよね……。あと、30個のモンブラン完食も相当すごいし……」
「え、そ、そう……? 私は割と普通だと思ったけど……」
頭をかしげる俺に、結月が呆れ顔で微笑む。
「まぁ、いいや。美玲ちゃんが満足なら、何よりかな……」
こうして、秋のスイーツ巡り第2弾は、見事に30個のモンブランを完食して終了。俺的には普通に楽しめた……はずだ。




