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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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38.秋のスイーツ巡り「絶品リンゴタルト」

「秋のスイーツ巡りしようよ! わたし奢るよ!」


 夏休み中、俺のトラブル写真をSNSにアップロードしてちょっとした騒ぎを巻き起こした黒幕、結月。彼女はその埋め合わせとして「甘いものを好きなだけ食べよう会」をしようと言うわけだ。


「ほんとに? それ……私、食べ放題でもいいのかな?」

 甘いものは嫌いじゃない――いや、むしろこの身体になってから甘い物の美味しさに目覚めてしまった。


「もちろん、なんでも大丈夫! 有名なパティスリーとか巡ろうと思って、リストアップしてるんだ。今日はその第一弾、駅前の洋菓子店に行こう!」


 結月が得意気にチラシ見せてくる。そこには「リンゴタルトが絶品」「期間限定の秋リンゴを使ったスイーツが話題」など、惹かれる情報が並んでいる。


(リンゴタルト……なんかそそる……。それに最近、甘いものがやけに美味しく感じるしな……)


「よし、私、行く。楽しみにしてるよ!」

 そう宣言した俺は内心、スイーツに目を輝かせる自分を感じて若干恥ずかしかったが、もう気にしないことにした。 この体になってから胃袋も女性仕様になってるのか、美味しいスイーツには逆らえないんだ。


―――――


 スイーツ巡り当日。晴れやかな秋空、湿気も少なくて、外を歩くのが心地いい――はずだ。

 でも俺は朝からエンジン全開だ。頭の中でこう念じている。


(今日こそどんなトラブルにも負けずに、スイーツを満喫するんだ……!)


 ……夏休み中にいろんな目に遭ってきた。もう、いい加減、何も起こらないでほしい。

 俺は鏡を見つめ、「よし……今日もサングラスと軽く染めた髪で身バレ防止はバッチリだ」と自分に言い聞かせる。


結月と合流し、駅前から店へ向かう途中。さっそく事件の香りが――と思ったら、「クルッポー……クルッポー……」 と不気味に鳩の群れが頭上を旋回し始めた。


「美玲ちゃん、あれ……鳩じゃない? ちょっと数が多くない?」

 結月が怯えた声を出す。50羽くらいはいそうで、まるでこちらをマークしているようにまとわりついてくる。


(やっぱり俺か……この身体だと何故か動物系が寄ってくるんだよな……)


 だが、今日は負けない。せっかくのスイーツデーを邪魔させてたまるか。俺は気合を入れて足を踏み出す。


「どいて! 邪魔しないで!」

 背筋を伸ばし、鳩を追い払うように手を振る。すると鳩は一瞬ビックリして降下してきたが、それを恐れず俺はスライドステップで避けつつ軽く威嚇のようなキックを繰り出す。


「クルッ……?」

 鳩たちは俺の予想外な動きに驚いて飛散。言い換えれば蹴散らすような形になった。


「う、上手い……今日は動物の対処が的確だね」

 結月が半笑いでその様子を見ている。


「なんとしてもスイーツを食べに行くんだもん……!」

 俺は鼻息荒く、胸を張る。鳩ごときじゃ邪魔されないぞ、という決意を新たにした。


 さらに道を進むと、工事中の建物があった。ペンキ職人らしきおじさんが、ハシゴに乗って外壁を塗っている。その足元を通る瞬間――

「おっと……うわっ!」

 おじさんがバランスを崩したのか、ペンキ缶を取り落としそうになる。


「危ないっ! 」

 結月が焦りの声をあげるが、俺はすでに動き始めていた。


「この手の落下事故には慣れてる……!」

 内心そう思いながら、瞬時に半歩後退し、ペンキの直撃軌道から外れる。おじさんも慌てて缶を掴み直したが、ほんの少しペンキが飛び散って危ういところだった。


「わわ、ごめんね! 大丈夫だった?」

 おじさんが申し訳なさそうに声をかける。

「大丈夫です! 」

 俺は丁寧にお辞儀して、その場を後にした。


(危うくペンキまみれになるところだった。危険回避スキルも上がったな、俺……)


 さらにさらに、道の先でロープを張り巡らせている警官がいて、「迷子を探してます」と案内しているところに出くわす。あれ、もう見つかってるのかな――と思ったら、近くで「ママー! どこー!」という子供の声が聞こえた。


前なら「俺が手助けしないと!」と大騒ぎになっていただろうが、今日の俺は違う。


「そこの子かな? よし、結月、あの警官さん呼んで」

 短時間で連携プレーを発揮し、一瞬で親子を対面させて解決。いつものように時間かけずに済んでしまった。

 ついでに、迷ったおばあちゃんを見かけた瞬間も、俺が「じゃあ背中貸しますよ!」と背負う形で目的地まで突っ走り、ものの数分で送還してしまう。


「やっぱり気合入ってると違うね。いつもの美玲ちゃんなら、もっとドタバタしそうなのに……」

 結月が苦笑いする。


(いや、普段からこれができてたら苦労しないんだけど……。でもいい感じだ、トラブルが長引かずにサクサク消化できてる!)


 ようやく、目的のスイーツ店が見えるところまで来た。店の前は華やかなショーウィンドウがあって、リンゴの飾りがずらり。 しかし、その手前で10人の着ぐるみ集団がソーラン節みたいなダンスをしている。


 なぜこんなところで……と思ったら、観光PRのイベントらしい。しかも通行人を巻き込んで何かパフォーマンスをやっているようだ。


「わー、邪魔で入れない……」

 結月が困惑顔。

 着ぐるみが10体も踊っているせいで、通路が完全に塞がれている。一言かければ通してくれるかもしれないが、タイミングが合わずなかなか動けない。


(ここまで来て店に入れないなんてあり得ない……!)


 と決意し、俺は着ぐるみの間を強引にすり抜ける。右から来るトラ柄着ぐるみをスッとかわし、左で踊るウサギ柄を軽く押して道を空けると、最後にイノシシみたいな着ぐるみも踏み台にして一瞬ジャンプして着地。


「わわっ、ごめんなさい、通ります――!」

 ちょっと強引だったが、結果的に俺は短時間で10人を蹴散らす形に成功。結月は「すごい……」とドン引き顔でこっちを見ている。


「スイーツを前にした私は無敵なんだよ……」

苦笑しつつ、店のドアを開ける。


 そして到着したのが、「ママルコ洋菓子店」。秋限定のリンゴタルトが売りだそうだ。

 結月が「やっぱりここだね!」と嬉しそうに案内してくれる。店内は木目調で落ち着いた雰囲気。ショーケースの中にリンゴのスイーツがずらり並んでいる。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」

 店員さんがにこやかに声をかけてくれる。そこで、俺は遠慮なく宣言する。


「リンゴタルトを……えっと、ホールで5つ……」

「え、5ホール……?」


 店員もびっくりだが、結月も「そんな食べるの?」と唖然とした顔をする。

 だけど、今日の俺はどんなトラブルも蹴散らしてここまで来た。そのご褒美だと思えばこれくらい楽勝だろう。


「はい、ホール5つ。……ほら、私、さっきまでのトラブルで疲れたから……」

 店員さんは苦笑しつつ奥からタルトを取り出してくれる。焼きたての香りが強烈に食欲をそそる。


 席について、5ホールのリンゴタルトがテーブルにドーンと並ぶ。バターの甘い香り、リンゴの酸味がほんのり漂ってくる。


「いっただきまーす!」

 さっそくフォークを入れ、もりもり食べ始める俺。

 結月はそれを見て、「すごい量だよね、私もいただきます……」と、1ピース分のタルトを食べ始めた。


 もりもり食べるうちに、あっという間に1ホールは消えてしまう。続けて2ホール目へ突入。リンゴのシャクシャク感とカスタードの甘みが絶妙だ。

 もう幸せすぎて、口が止まらない。


「はぁ……美味しい……やっぱ幸せってここにあるんだね……。ほら結月、もっと食べる?」

「い、いいの? じゃちょっとだけ……」

 結月は遠慮がちにフォークを刺す。俺が食べてる量にやや引いてるのが分かるが、気にしない。


最終的に5ホールきっちり食べきってしまい、店員も「全部食べたな……」と驚愕の表情。結月は「やっぱり美玲ちゃんってすごい……」と苦笑い。


「でもやっと、普通にスイーツを楽しめた感じしない? 何も大事件起きなかったし……」

 俺は深い満足感とともにそう言う。


 しかし、結月は微妙な顔で言う。

「えぇ……道中、いろいろ蹴散らしてたよ……鳩やペンキや着ぐるみとか、全然普通じゃ……」

「あと、5ホールって、普通の量じゃないし……」とさらに呟く。


 俺は一瞬思い返し、まぁ確かにいろいろあったな、と自覚してしまうが、


「いやいや、それは些細なこと……私の中では問題なしだよ!」


 結月は引き気味に笑顔を作り、「そ、そっか。まぁ喜んでもらえたならいいけど……」と言うのだった。

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