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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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34.ある夏休みの一日


「……あー、暑い……」


 俺は枕に顔を埋めながら、ゴロゴロと床を転がっていた。夏休み、特に予定がない日はこんなふうにダラダラしてしまう。

 夏の暑さにエアコンをつける。エアコンの風が心地いいんだけど、なんだか口寂しいというか……。


(うーん、アイス食べたい……)


 そう思ったらもう頭の中がアイスでいっぱい。夏の定番だし、冷たい甘さを味わいたい。けれど、家に在庫はなかったはず。


「ちょっとコンビニ行ってアイス買ってこよう……」

 ぼそっと呟いて立ち上がる。夏の陽射しはきついが、アイスの誘惑には勝てない。


 部屋を出て外に出ると、ムッとする熱気が包んできた。

「うわ、やっぱ暑い……」

 内心「まぁ、これが夏か……」と思いつつ、タオルで汗を拭く。


(普通に歩くだけで汗だらだらだけど、アイスを買ってすぐ帰れば大丈夫……)


 周りの風景はいつも通り。特に事件も起きず、道路を歩いている人たちも穏やかだ。何も起こらないって、ちょっとありがたいかも。


 コンビニに着くと、冷房が効いていて生き返るようだ。

 アイスのショーケースの前で、どれを買うか悩む時間がいちばん幸せかもしれない。


(チョコ系? それともさっぱり系?……うーん、どっちにしよう)


「今日は普通にバニラにしよっかな……」


 思わず小声で独り言を口にする。最終的には王道のバニラアイスをチョイス。あとジュースも一本買って、会計を済ませた。


 家に帰り着くと、再びエアコンの風が迎えてくれる。

 床にゴロンとしながら、冷たいバニラアイスを一口。


(はぁ……幸せ……)


 口の中で溶けていく甘さがたまらない。特に今日みたいに暑い日は最高のご褒美だ。

 何もトラブルがない、ただの休日。普通の日常こそが一番嬉しいって、最近つくづく思う。


「今日は普通の日でよかった……」


 溶けかけたアイスを食べながら、しみじみそう思う俺だった。


――――


【神崎視点】


 神崎駿は、夏休み中の街を歩いていた。特に大きな目的はなかったが、部活もない日は散歩に出ることが多い。

 ふと遠くに美玲の姿が見えたような気がして、神崎は足を速める。


(あれ、美玲……? せっかくだし、声かけてみようかな)


 美玲がゆっくり歩いているのを見つけ、声をかけようと手を伸ばす瞬間、


 バサッ


 上方から何か大きな影が落ちてきた。見ると、マンションのベランダに置かれていた鉢植えが崩れて神崎めがけて落下。


「うわっ……あぶねっ!」


 慌てて横に飛びのくと、鉢植えはゴトッと地面に砕け散った。

 美玲はその音に振り向くことなく、のんびりと曲がり角を行ってしまう。


(い、いきなり鉢植えが落ちてくるって……何だ……?)


 神崎はドキドキが止まらない。どうやら美玲に声をかける前に危うく怪我しそうだったが、辛うじて回避した形だ。


 気を取り直して再び先を急ぐ神崎。やっと美玲の背中が見えると思ったら、今度は黒猫が数匹、路地を塞ぐように並んでいた。


「ん……猫? どいてくれないかな……」


 神崎が足を進めようとしたとたん、黒猫たちは一斉にフーッと威嚇。まるでバリアを張るかのように道を塞ぐように睨みを利かせる。


「なんだよ……追い払うのも可哀想だし……」


 仕方なく回り道をしようと引き返すが、その間にも美玲はどんどん先へ行ってしまう。もう視界から消えそうだ。


(まるで、何か『見えない力』が俺を阻んでるみたい……なんだこれ……?)


 最後に神崎がようやく美玲を捉えたのは、コンビニの入り口だった。美玲が出てきたところを見て「今度こそ」と走り寄る。

 だが、突然頭上でカラスの群れがカァーと鳴き始め、コンビニの看板や屋根に降りてきて狭い空間を覆い尽くす。出口付近で騒ぎ立てるカラスたちがバサバサと神崎を威嚇し、近づきにくい雰囲気に。


「な、なんでこんなに……しかもここで……」


美玲はすっと通り過ぎて歩道へ抜けるが、神崎はカラスの乱舞に阻まれて視界が取れず、一瞬足を止めてしまう。その一瞬で完全に美玲は消えてしまった。


 結局、神崎は一言も声をかけられないまま、その場に取り残される。

 周囲が落ち着いたころには、美玲の姿は消えていた。


(なんだよ……花壇、黒猫、カラス……あんまりにも都合が悪いタイミングで出てきやがって……)


 心の中で愚痴りながらも、彼は思わず苦笑いを浮かべる。

(まるで誰かが美玲を守る結界みたいなのを張ってるみたいだ。黒猫にカラスに…… 魔女かな?)


 まだ外にはカラスの残党がカァカァ鳴いているのが見える。神崎はため息をついて引き返す。


「まぁ、また次の機会にするか……」

 そのつぶやきとともに、この小さな追いかけ劇は幕を下ろした。


――――


 美玲は家でアイスを食べながら、「今日は普通の日でよかった……」と心底思っている。一方で神崎は、謎の天変地異に近い邪魔を食らって一言も声をかけられず、「あいつ、もしかして魔女か?」と不可思議に思う。

 美玲本人が普通の日を過ごしているつもりでも、周りの人間から見るとそうではないこともある……。という、そんな一日だった。

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