33.大バーベキュー大会
イノシシの襲撃(?)からどうにか帰宅し、沢遊びもひと段落したその日の夕方。
俺、結月、翔、そして西園寺麗華は西園寺家の別荘のウッドデッキで一息ついていた。
「ねぇ、美玲ちゃん。せっかくなら今夜はバーベキューしようよ!」
楽しそうに声をかけてくるのは、もちろん結月。日中のドタバタも何のその、まだ元気いっぱいだ。
「バーベキュー? たしかに、これだけ魚もあるし……」
俺は魚を捌くのも大変そうだなと内心思うが、結月は楽しそうだ。
「外のお庭で炭火を使って、本格的に焼こうよ~! せっかく別荘の広い庭があるんだし!」
たしかに別荘には十分なスペースがあり、BBQコンロらしき道具も備え付けられている。いつでもできる環境だ。
それにここまで食材が揃っているとなれば、確かに豪華なバーベキューになりそう。俺は結月の熱量につられ、少しワクワクしてくる。
そしてタイミングよく、猟友会の人から連絡が入る。昼間のイノシシ事件を対処してくれた先輩さんだ。
「さっきのイノシシ、けっこう良い肉が取れたぞ。せっかくだから、一部を捌いて持ってきたよ。みんなで食べてくれや!」
まさかの猪肉提供の申し出。昼間、別荘前で拾われた(?)イノシシがこんな形でバーベキューに加わることになるなんて……。
俺は戸惑いつつも、「そ、そうですか、わざわざありがとうございます……」としか言えない。
さらに、昼に手に入った俺の天然漁(川魚)も山盛りある。鮎みたいな魚も混ざっていて、すごくバーベキュー向きではないか、と結月が張り切っている。
そこへ追い打ちをかけるように、地元農家の人からなぜか大量の野菜を差し入れてもらえる展開に。
「トマト、ナス、ピーマン、きゅうり……あっちにジャガイモと玉ねぎまで……」
結月が目を丸くするほどの量だ。
「こんなの、どうやって食べるのよ……」
西園寺は呆れ顔ながらも、もともと地元との付き合いが深いらしく、農家の人は「お嬢ちゃんたちが来てるなら沢山食べてもらいたい」と奮発しているらしい。
玄関やウッドデッキに山積みされた食材。魚、猪肉、野菜の豪華ラインナップ。
翔は「いくらなんでも量が多すぎるだろ……」と呆れ気味だし、俺も「こんなの4人じゃ無理……」と苦笑い。
だが、そこに猟友会の人がニヤリと笑って一言。
「なら他の連中にも声かけるか。バーベキューなんて久々に盛り上がるかもしれんし!」
あれよあれよという間に、地元住民たちが続々集まる流れができあがる。
まるでお祭りのように、20人、30人……最終的に100人くらいの人々が集まってしまい、超大型バーベキュー大会へと発展した。
西園寺の別荘の広い庭にたくさんのテーブルとコンロが並べられ、まるで地域のフェスのよう。地元民がそれぞれビールや焼酎、ソフトドリンク、さらにはサラダやフルーツの差し入れまで持ってきてくれた。
「すっげぇ……こんな人数でバーベキューかよ……」
翔はビックリしながらも、賑やかな雰囲気にテンションが上がっている。
「美玲ちゃん、まるで道の駅の出店みたいになってるね……すごい!」
結月も嬉しそうにドリンクを回し始める。
一方、俺は「なんだよこれ……また壮大な騒ぎに……」と呆れ半分、でもにぎやかで楽しい気持ち半分。
西園寺は少し気圧されながらも、「こんなに人が集まるなんて……あんまり騒がしいのは好きではないのだけど」と苦笑する。
こうして、俺がゲットした魚と猟友会の猪肉、そして地元農家の野菜を皮切りに、100人規模の大バーベキューがスタート。
夏の夜風に乗って笑い声と炭火の香りが広がり、別荘は一大パーティー会場に早変わりだ。
――――
「美玲ちゃん、肉焼けたよー! はいどうぞ!」
「わ、ありがとう。私、さっきの魚も食べたいんだけど……どこにある?」
「ほら、ここにあるよ! もうみんな食べててちょっと減ってるけど……」
(いやー、ほんとすごい人数だよな……これじゃ普通にバーベキューってレベルを超えてる……)
「翔くん、そっちのお肉も焼き加減大丈夫?」
「おう、大丈夫。いい感じに焼けてきてる。焦がさないよう気をつけてるぞ」
「あ、それ私も欲しい!」
「うん、あと1分待ってな。美玲、そっちで魚返しといてくれ」
「わ、私? えっと、魚、ひっくり返せばいいんだね……」
――――
「ふぅ……少し落ち着こう……」
俺は休憩がてらテーブルで息をついた。その横で西園寺麗華が珍しいものを手にしている。
「それ、甘酒?」
「ええ。地元の人が持ってきたの。夏なのにね」
そう言いながらゴクゴクと飲んでいる西園寺。甘酒と言っても若干のアルコール成分がある場合がある。
「……大丈夫?」
俺は一抹の不安を覚える。
(嫌な予感がする……)
その直後、西園寺がやけに顔を赤らめ、「ふふ……ほんとにおいしい甘酒ね……ふふふ……」と怪しい笑みを浮かべ始めた。
「あれ? 西園寺さん、ちょっと様子変だよ……?」
結月が気づいて声を掛ける。
「そ、そんなことないわよ……ふふ……私、こういうの平気だし……」
どう見ても既に酔っ払っている。
「なんか歌いたい気分……!」
酔った勢いで西園寺は、別荘の簡易カラオケ機材を見つけると俺の腕を掴んだ。
「美玲、あなたも一緒に歌いなさいよ!」
「え、私!? いや、えっと、どうしよう……」
(やっぱりまた歌う流れかよ……俺、海の家でのあれがトラウマ……)
しかし勢いに乗った西園寺を止められず、俺はマイクを持たされてしまう。
周囲の地元民も「歌ってくれ~!」と煽るし、結月までもが「いいじゃん、私、聴きたい!」なんて口を揃えている。
結局、俺と西園寺がデュエットする形に。
「ふふ、完璧に歌いこなしてみせるわ……あはは」
もはや西園寺は完全に出来上がっていた。俺も付き合ってマイクの前に立った。
カラオケ機材から流れる音楽に合わせて、俺と西園寺が歌い出す。西園寺は酔いながらもリズム感と歌唱力は意外としっかりしていて、かなりの美声。
俺がハモるように声を重ねると、地元の人たちから拍手と歓声が沸き起こる。翔は手拍子をし、結月はニコニコ笑いながら動画撮影までしている。
(また俺がこんなステージめいたことを……どうしてこうなるんだ……でも……)
「みんな盛り上がってるから、ま、いっか……」
そんな風に思いつつ、夜の庭に響く歌声に酔いしれる。結局、2~3曲デュエットを披露することになり、大人も子どもも入り乱れた大宴会が深夜まで続いた。
――――
翌日、朝の別荘。
俺は少し寝坊気味でリビングへ向かうと、急に西園寺の悲鳴が聞こえた。
「きゃああああ! なにこれ、どういうこと!?」
飛び込んだ先には、床に散らかる紙皿やコップ、ひっくり返った椅子、カラオケ機材のコードが縺れてて、まるで戦場の後のような光景。
「お、おはよう……昨日、みんなで盛り上がりすぎたんじゃない?」
結月が照れ笑いしながら言うが、西園寺は混乱している。どうやら酔っ払った時の記憶が曖昧らしい。
「え? 私……こんなふうにしたの? 全然覚えてない……」
顔を青ざめながら、床に散乱した甘酒の空き瓶を見て動揺している。
「ま、まあ……私と西園寺さんで歌いまくって、最後には肩組んで踊ってたし……」
俺が申し訳なさそうに説明すると、西園寺は固まったまま「嘘……!」と絶句。
(うん、昨夜は大騒ぎだったから仕方ない。俺だってちょっと恥ずかしいし……)
「うわあ、もうどうしよう! 別荘が……めちゃくちゃ!」
悲鳴を上げる西園寺を横目に、結月と翔は肩をすくめ合う。
「とりあえず、片づけようぜ……それから朝ごはんだな……」
こうして、大バーベキュー大会は夜中まで続き、翌朝には散らかった室内を見て西園寺が絶望の悲鳴を上げるという、何とも騒々しい結末になってしまった。




