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転生したら『迷惑系美少女』になっていたので、普通に生きることを目指します  作者: ぜんだ 夕里


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28.海の家でバイト ~激務のアイドル~

 夏休み、海の家バイト2日目。

 昨日はまさかのライブ状態に巻き込まれ、どっと疲れたものの、店主の懇願もあって、俺は再び海へ向かった。


(でも、さすがに昨日ほど大騒ぎはない……よね? 普通のバイトのはず……)


 そんな淡い期待を抱いていたが、現地に着いた瞬間、ひどい肩すかしを食らった。


「な、なんだ……あれ……」


 俺の目に飛び込んできたのは、海の家の横に組まれた立派なステージ。足場や機材までセッティングされ、客席となる砂浜にもテープで区画が作られている。まるでフェスかコンサート会場みたいな規模だ。

 店主がニコニコ顔で迎えてくる。


「おはよう、ミレイたん! 昨日の盛況ぶりに感動しちゃってね……今日はもう本格的にステージ作っちゃったよ! いやー、協力してくれた若者たちがいて助かった!」


(だからって、本気で組み上げるとか、やりすぎだろ……!)


 俺は頭を抱えながら言葉を失う。隣で結月も「あ、あはは……すごい力の入れよう……」と苦笑している。


「それから、これ、用意したんだ」

 店主が取り出したのは、謎のアイドル風衣装。水色と白を基調としたフリフリのスカートがあり、ヘアアクセまでも完備されている。まさにステージに立つ人のコスチュームだ。


「ちょ、ちょっと……こんなのどこから持ってきたんですか!? 私、バイトしに来てるんですけど……」


 という抗議も空しく、「うんうん、バイト代も弾むからさ、頼むよ~」と店主が勝手に話を進める。結月まで「わぁ、可愛い! 美玲ちゃん似合いそう!」と目を輝かせて後押しするから逃げ場がない。


 こうして、昨日以上に派手な衣装を着せられた俺は、朝からステージに立たされることに。もうバイトの本分(接客や調理補助)ですらない状態だ。


 まさかこんな朝早くから見物客が来るはずない、そう思っていたら甘かった。SNSや口コミで拡散したらしく、昼前にはビーチにぞろぞろと大勢が集まり始め、すぐに客足がピークに達する。

 数百人じゃ済まない――ステージ周辺だけで数千人、やがて一万人を超えるんじゃないかというレベルで人が埋め尽くす。まるで海の家が一夜にしてアイドルイベント会場に化したようだ。


「ミレイちゃーん!」「妖精さまー!」と謎のコールが響き、店主はホクホク顔で売り上げを確認している。結月は舞台袖で「ひゃあ……これ、ちょっとすごい人数……」と青ざめる。


(こんなの、普通のバイトじゃない……どうしてこうなるんだよ……)


「次はトークショーだって!?」「え、握手会までやるの!?」


 店主が勝手に組んだスケジュールには、握手会や撮影会までが盛り込まれていた。ライブで数曲歌ったあとは、立ちっぱなしで延々とファン(?)と握手やツーショット写真を撮る流れ。

 観客数が多すぎるため列が途切れない。気づけば昼食すら取れないまま、タオル片手に対応を続ける羽目になる。


「み、ミレイちゃん、休憩取ったら? 顔色やばいよ……」

 結月が心配してくれるが、「あはは、でもお客さんが待ってるし……」と半ば流される形。


(なんだよ、これ……バイトなんてこういうんじゃない……普通、海の家は焼きそば売ったりするんじゃ……)


 混乱の中で、俺は笑顔を保ち続けるしかない。気づけば汗で衣装がびしょびしょだ。


 そして夕方も近づいてきたころ――体は限界を迎える。大勢の握手に応え、撮影に応じ、ライブも繰り返していたせいで、頭がグラグラする。

 最後に「もう1曲!」とリクエストされ、マイクを握った瞬間、俺の視界が歪んだ。


(あ、やばい……動けない……)


 一瞬、地面と空が逆転したような錯覚がして、そのまま俺はステージ上で膝を崩し、倒れ込んだ。


---


 「……美玲ちゃん、起きて、わかる?」


 意識がぼんやりするなか、結月の優しい声が耳に入る。汗が冷たく感じられる。どうやら海の家の簡易休憩スペースらしく、薄暗い部屋で布団に横たわっていた。

 水を差し出され、口を湿らせる。頭痛が少し和らいでいく。


「う……うん……ありがとう……私、倒れちゃったの……?」


「そうだよ……もう、無理しすぎ! 普通のバイトってこんなにきついはずないのに……美玲ちゃんだけライブみたいになって……」


 結月は苦笑しながらタオルで俺の額を拭いてくれる。その表情からも心配と呆れが混ざっているのがわかる。


 しばらくして店主が入ってきて、頭を下げてくる。いつものニコニコ顔はすっかり申し訳なさそうにしぼんでいた。


「ご、ごめんよ、ミレイたん……いや、美玲ちゃん。まさかこんな大変になるとは思わなくて……完全にやりすぎたね。体は大丈夫か?」


「だ、大丈夫……です……。でも、無理しちゃいました……」


「ほんと、悪かった。バイト代は弾むから……今回ばかりは許しておくれ。しばらく休んでいいからね。もう今日はここまでにしよう」


 そう言われても、俺は半分意識が飛びそうになっている。とりあえず今日は終わりらしいのが救いだ。

 他のスタッフが「せっかくの大盛況だったのに、申し訳ないね」とか言っているが、こちらとしては「何が大盛況だ……」と呆れ半分だった。


 こうして、海の家バイト2日目は完全にアイドル活動と化し、最終的にはステージでぶっ倒れるという散々な結果になった。

 バイト代は弾んでもらえたものの、心身ともに疲労困憊。汗でベタベタ、喉もカラカラ……普通のバイトがしたかっただけなのに、どうしてこうなるのか。


(普通のバイトってこんなにきつかったっけ……? いや、どう考えても普通ではないな……)


 結月に支えられ、ゆっくりと店を後にする。店主は「またよろしく!」などと言っていたが、さすがに俺は「もう勘弁して……」と小さくつぶやく。

 一万人規模の観客を引き寄せてしまった結果、店の売り上げは大幅に伸びたらしい。とりあえず、バイト代も弾んでもらって、いい金額を稼げたため、海の家のバイトを終わりにすることを告げて帰路につくのだった。



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