20.そうだ、夏祭りに行こう!
梅雨が明け、空はカラッと晴れ渡り――気づけば季節はもう夏。クラスメイトが「海行きたい~」とそれぞれの予定に胸を弾ませる中、俺はひとつの決断をしていた。
「結月、夏祭り、行かない?」
放課後の教室で、身支度を整えている日野結月に声を掛けると、彼女は一瞬ポカンとしてから、目をキラキラさせて振り返った。
「え、えっ、夏祭り!? 行く行く行きたいっ! 花火も見たいし、出店でいろいろ食べたいし!」
まるで部活の試合に出場するかのごとく熱いテンションで答えが返ってくる。どうやら思いのほか結月のお祭り好きスイッチが入ったらしい。
「じゃあ早速、日程とか確認しようか。確か来週の土曜日だよね? 夜には花火も上がるってポスターに書いてたし」
「うんうん、出店も何十軒も出るって噂だし、金魚すくいとかヨーヨー釣りとか! それに、わたあめとチョコバナナ……きゃー、楽しみすぎる!」
結月は机の上にスマホを出して、お祭り情報サイトを見せてくれる。写真に映った提灯や浴衣姿の人々に、俺も胸の奥がザワザワと高鳴る。
「私、夏祭りって、あんまり行った経験がないから楽しみで……」
「そっか、なら私が案内するよ! いや、案内ってわけでもないけど、一緒に回れば楽しさ倍増だよね!」
まるでお祭りコンシェルジュを自称するかのように笑う結月。彼女の笑顔に引っぱられて、こっちまでテンションが上がるのがわかる。
お祭りと言えば、服装が悩みどころ。浴衣を着たい気持ちはあるが、着付けが面倒だし、正直浴衣で外を歩くのに抵抗を感じる。でも、結月は目を輝かせて主張する。
「やっぱり浴衣だよね! 夜風に揺れる浴衣姿って最高だよ! 女子力アップって感じだし!」
「で、でも着るの大変そう……。ヘタすると着崩れしちゃうし……どうしよう……」
「大丈夫! 私、お母さんから浴衣の着付け習ってるから、まかせて! 美玲ちゃんの分も手伝うし、どんな柄にするかも一緒に考えようよ!」
熱意がすごすぎて、俺が「じゃあ私服でもいいんじゃ……」と言い出す余地もない。結月の浴衣コーデ妄想がすでに止まらないのだ。
「美玲ちゃんは肌が白くてふんわりした雰囲気だから、淡いピンクとか水色が似合うと思うんだよね~。帯は反対色でメリハリをつけて……あ、ヘアアレンジも可愛くして……」
「そ、そこまで考えてるんだ……すごい熱意だね」
「えへへ、女の子なんだから当然じゃん? 特に美玲ちゃんみたいな美少女には、絶対浴衣が映えるんだから、絶対に着るべきだよ!」
恥ずかしさで頬が熱くなるが、こうやって推してくれる結月のテンションについつい乗せられてしまう。「じゃあ、浴衣……着ちゃおうかな……」と、小声で了承すると、彼女は「やったぁ!」と歓喜のポーズ。
「せっかくだから、当日のスケジュールも軽く考えようか。夕方くらいに集合して、まずはご飯系の屋台巡り! たこ焼き、焼きそば、唐揚げ……全部少しずつ食べようよ!」
「わ、私、普段あんまり大食いできないけど、大丈夫かな……でも美味しそうだね」
「大丈夫大丈夫! 二人でシェアすればいろんな味を楽しめるし。あとはかき氷やラムネ、わたあめも外せないよ!」
食べ物の話ばかりで盛り上がるが、お祭りは食だけじゃない。夜には花火も上がる予定。
結月はスマホ画面を見せながら「去年はわりと本格的な打ち上げ花火があって、15分くらい連発で上がったんだよ!」と声を弾ませる。
「わ、そんなにたくさん上がるんだ。……花火って、やっぱりワクワクするね」
「うん! 夏の醍醐味だよ~。今から想像するだけでテンション上がっちゃう!」
今にも飛び跳ねそうな彼女の姿に、結月ってお祭り好きなんだな、と思う。おかげで自分も楽しみになってきた。
「じゃあ、当日の待ち合わせ場所は駅前の噴水にしよっか。時間は……夕方5時くらい?」
「うん、それなら浴衣の着付けも間に合いそう。あっ、そうだ、もし着付けで手こずったら連絡してね! 私が迎えに行くから!」
結月の勢いは止まらない。メモ帳を取り出して予定を書き込んだり、浴衣の着方のサイトを見せてくれたり、とにかく準備万端だ。俺も「ここまでしてくれるなら、絶対に失敗できないな……」と心強い反面、少しプレッシャーも感じる。
「そ、そうだ、髪型はどんな感じにしよう……? せっかくならまとめ髪にチャレンジしてみたいけど、不器用だからなぁ……」
「ふふふ、それもまかせて! いろいろ試してみようよ!」
話がどんどん広がって止まらない。二人とも目がキラキラしすぎて、教室の他の生徒が「何の話してんの?」と気になってしまうほどだ。
ちょっと前まで中間試験で死ぬ思いをしたのが嘘のように、いまは夏祭りというイベントへの期待で胸がいっぱいだ。結月も「この前の合宿は大変だったから、その分いっぱい遊ばなきゃ!」と笑い、俺も「うん、頑張ったぶん、夏を満喫したいね!」と思う。
「美玲ちゃんの浴衣姿、すごく可愛いんだろうな……一緒に歩くだけで私まで鼻高々かも!」
「ま、またそんなこと言う……! でも、ありがと。なんか嬉しいな」
照れくささと嬉しさがこみ上げて、自然と顔がほころんでしまう。合宿の厳しさやトラブル続きの毎日に比べれば、こうしたワクワクする時間はまさに癒しの瞬間だ。
何かと抜かりのない結月に導かれ、準備は着々と進む。
気がつけばすっかり陽が傾き、教室は薄暗いオレンジ色に染まっていた。荷物をまとめながら、結月が「もうこんな時間か」と微妙に名残惜しそうに呟く。
「そっか……当日、駅前でね! ああ、楽しみすぎる……美玲ちゃん、また明日ね!」
「うん、ありがとう。じゃあまた明日……!」
勢いよく手を振り合って別れる時、胸がドキドキしているのが自分でもわかる。まだ何も始まっていないのに、当日を想像してテンション急上昇だ。
帰り道、夕焼け空を見上げながら、ふっと思う。
――当日はきっと、新鮮な思い出がたくさんできるだろう。
何が起こるかわからないけれど、少なくともこの結月とのお祭り計画は、楽しさしか想像できない。あえて言えば、予期せぬトラブルが起きないように祈りたいところだが……まぁ、それも含めて夏祭りの醍醐味かもしれない。
「よーし、早く帰って浴衣の準備しなきゃ!」




