表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/149

16.クラス対抗リレーと閉会式

 午後の競技もいよいよクライマックス。体育祭の最後を飾るのは、定番のクラス対抗リレーだ。

 見渡せば、走者となる生徒たちがトラックの周りに集まり、それぞれ気合いを込めてウォーミングアップをしている。まさに最終決戦――競技得点が大きいだけに、ここで逆転優勝を狙うクラスもあれば、「どれだけ盛り上げられるか」が焦点のクラスもある。


「さぁ、いよいよ最後の競技、クラス対抗リレーが始まります! スタートラインに並んでください!」


 放送委員のアナウンスとともに、A組からE組まで5クラスの選手たちが続々とスタート地点に整列していく。応援席の熱気は最高潮で、拍手と歓声がグラウンドを包む。

 俺も、数番目の走者として出場することになっていた。嫌な予感しかしないが、クラスが一丸となって頑張っている以上、「自分だけ逃げるわけにはいかない」と腹をくくったのだ。


(ここでこそ、何も起こさずスムーズに終わらせたい……)


 そう祈るような気持ちで、他の走者がスタートダッシュを決めるのを遠目に見ていた。


 バトンを受け取るまでは大丈夫……だった。

 前走者である佐々木翔が快調に飛ばし、予定よりも速いペースでこちらにバトンを持ってくる。クラスの応援席では「いけー、B組ー!」と大盛り上がり。しかし、俺がバトンを受け取って走り始めた瞬間、なぜか予期せぬ事態が次々と発生する。


 片付けが始まっていた大玉転がしの巨大ボールが、勢い余ってトラックのほうに飛び出してきた。

 パッと前方に白い巨大な玉が転がってくるのが見えて、思わず「うわっ!?」と声を上げる。避けようとして一度スピードを落とさざるを得ない。

 ボールを押していた生徒が「すみません、止まらなくて……!」と謝罪しながら追いかけてくる。

 俺は右にステップを切ってなんとか回避。さらに数メートル進んだところで、今度は玉入れ用のポールがゆらゆらと倒れてきた。それがぐらついた拍子に、俺の進行方向へ倒れかけてくる。

 周囲の生徒たちが「倒れる! 倒れる!」と叫び、クラスメイトも「美玲、危ない!」と警告してくれる。ギリギリでしゃがみ込むように姿勢を低くして回避。まるで障害物競走かのような展開だ。

 ガッシャーンという派手な音をたてて、ポールはトラックに横倒しになる。あちらこちらで悲鳴や歓声が上がり、まさに大パニック。


(ちょ、ちょっと……何で私の走ってるときに限って……!)


 内心で嘆きつつも、ここで立ち止まってはクラスに申し訳ない。膝をつきそうになるのをこらえながら、なんとかスピードを上げる。

 障害が多発しているのは俺だけで、ほかのクラスの走者は普通に走っている模様。当然順位が下がる。それでも、B組クラスメイトは「がんばれー!」と声を張り上げてくれている。実際、先ほどの騒動で他のクラスも少しだけタイムロスがあったようで、完全にビリというわけでもない。


「美玲ちゃん、ファイトー!」


 笑いつつも応援してくれる仲間たちの姿に、妙なやる気が湧いてきた。


(負けてたまるか……ここまで来たら完走するしかない!)


 残りわずかな距離を全力疾走。カーブを抜けて次の走者にバトンを渡す頃には、呼吸が乱れきっていたが、なんとか役目を果たしたのだ。

 その後、アンカーまでの走りが続き、5クラス中4位という結果。パッとしない結果となったが、クラスのムードはなぜか明るい。

 特に俺の周囲には「大丈夫!? あんな大玉来るなんて……」「玉入れのポールまで倒れるってさ、ホントに漫画だよ……」と口々に驚く声が飛び交う。


「美玲ちゃん、あの状況で最後までちゃんと走ったのはすごいよ!」


 クラスメイトたちは拍手や握手で迎えてくれ、温かい言葉をかけてくれる。順位は振るわなかったが、あれだけ予期せぬハプニングがあれば仕方ない。

 俺は息を整えながらも、少しほっとする。何とかクラスに迷惑をかけずに済んだ……とまでは言わないけど、クラスの空気を悪くすることはなかったようだ。


 リレーが終わり、激戦を繰り広げたクラス対抗戦もついにすべて終了。グラウンドには、「今年の体育祭もこれで幕を下ろします。では、最後に校長先生の挨拶……」と放送委員の声が響く。

 だが、マイクを持った教頭先生が困り顔でステージに上がると、衝撃的な事実を発表した。


「え、えっと……ただ今、校長先生が見当たりません。よって、校長先生の御挨拶は中止といたします!」


 会場がざわつく。実のところ、校長先生ならいつも閉会式に鼻息荒く登場して、長々と話すのが恒例だった。だからこそ、みんな「またか……」と覚悟していたのに、今日は姿すら見えないなんて不思議だ。

 さらに教師の間では「昼休み以降、姿が確認されてない」と騒ぎになっている。


 後になって分かったことだが、校長先生は『カツラ騒動』に巻き込まれて自分のカツラを失くしてしまい、それが原因で校長室から出られなくなっていたらしい。

 「この姿で外に出るのは嫌だ……」と校長は落ち込み、鍵をかけて校長室に閉じこもったまま、閉会式の時間になっても出てこなかったという。


 わざわざ校長の安否を心配して探し回った先生たちも「こんな理由だと思わなかった」と呆れ顔だ。

 しかしそのおかげで、珍しく短く済んだ閉会式に対して、生徒たちはある意味ラッキーと感じているらしい。

 誰もが、今回の体育祭を『忘れられない思い出』として胸に刻みながら、再び平穏な学園生活へと戻っていくのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ