ストロボ・キリエ・カンタータ
部屋のペンダントライトが、消えそうにチカチカと瞬いてる。
君の買った、ギザギザした形のそれは、何だか刺さりそうで僕は嫌いだと言ったのに。
君がいなきゃあ外せもしない。
好き勝手に塗られたショッキングピンクの壁に、蛍光イエローの額縁、飛び散る青緑の斑点が目に痛くてしょうがないよ。
いつも真夜中に帰って来る君は、寝ている僕を愛しそうに撫でて、その度に覚める目にうんざりしていたけれど、君がいなきゃ眠れないだなんて、それはそれでどうかしてるね。
お酒臭い君が抱きついてくれば、僕いつも顔を背けたけど、それさえも愉快だというように、君はいつも笑ってた。
たまに、泣いてた。
訳など話さない君に、寄り添うことしか出来なくて、そんな夜は二人で寝た。
ちょっと鬱陶しいくらいに僕の頭を撫でるので、なかなか眠れなくて困ったりもした。
そうそう、いつだったか、喧嘩した次の日、君が仕事に行った隙に、大切にしていた熱帯魚の水槽のコンセントを抜いてやったことがあったっけ。
今思えば、なんて可哀想で大人気ないことをしたのかと悔やむのだけど、あの時の僕は怒りでそんなこと考えもしなかった。
遅くに帰って来た君は、すぐそれに気付いて、僕を哀しげに睨んだけれど、それも束の間で、またいつものように僕にただいまのキスをした。
ごめんね。
あんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。
「やりたいことがありすぎて、時間が足りないよ」
目を輝かせて言う君が、素敵で、羨ましくて、それと同じくらいに、置いて行かれそうな気がして寂しくて堪らなかったんだ。
僕は、僕でしかいられないから。
でもね、最後に見た君の顔は、今までで一番綺麗だった。
僕しか見られない穏やかな顔だった。
あんなにキラキラした君の顔を、真冬の月のように凍らせたそれは
「絶望。」
なのだと教えてくれた。
それがどれ程のものか、僕では到底分からなくて、君をすっかり変えてしまったそれを、その存在を、僕はうらやましくもおもったりした。
ねたましかった。
ほら、また、電気がきえた。
君がかえてくれないから。
きみ、きみ、何だかすごいにおいだよ。
おふろにはいったほうがいいよ、よく、ぼくを洗ってくれたよね。
ねえ、入ろうよ、はなが、まがりそう。
きみのうえを虫がはってる。
のけても、のけても、わいてくるんだ。
うみつけられた、ときみがいったぜつぼうが、ふかしたのかもしれない。
きみがごはんをくれないからと、おそとにいったら、くびわがひっかかってとれて、しわしわのおばさんが
「野良め!」
と、ばしばしぼくをなぐる。
からだが、いたくてたまらない。
ちがでてる。
むねからへんなおとがする。
そうだ、あのひみたいに、君の横により添おう。
どうか僕にも、君の絶望が孵化します様に。
和訳された「アルジャーノンに花束を」を読んで、若かりしあの頃(笑)ショックを受けました。
それを何となく意識したりしてみなかったり。