披露の宴
「この度はご結婚おめでとうございます……と言うべきなんでしょうね」
結婚披露の宴では招待客が比較的自由な雰囲気の中で歓談している。
ユージンとディアナはホールの前方で多くの人々の挨拶を受けていた。
紫色のプリンセスラインのドレスに着替えたディアナは結婚式の時よりもリラックスしている。
そばに立つユージンはダークグレーのテールコートを着込み、そつなく多くの招待客の相手をしていた。
そこにマレフィクスがやってきて言ったのが先ほどの言葉である。
「ありがとう、と返しておこう」
ユージンにとってマレフィクスは油断のならない相手だ。
彼は常にディアナを狙っている、そう感じているから。
「私はディアナ嬢にユエラン国へ来て欲しかったんですがね」
「残念ながらディアナは卿の求める愛し子ではないのでな。それと、ディアナは正式にわが国の皇后となった。今後は呼び方にも気をつけていただきたい」
二人の間に静かに火花が散っている。
ディアナは詳細は省いたものの、マレフィクスの求める『女神の愛し子』は自分ではなく現フォルトゥーナの王族である王女と王子だと伝えた。
だからユエラン国へ行くのはその内の誰かだと。
マレフィクスとフォルトゥーナ側の会談は明日行われるはずだ。
ところが、なぜかマレフィクスはいまだにディアナに執着しているような態度を見せる。
「皇后……ね。ユージン殿下……おっと、もう陛下でしたね。私はディアナ嬢がどんな立場でも気にしませんよ。それこそウィクトル帝国の皇后であっても」
マレフィクスは明らかな言い間違いをして、さらには不穏な言葉をつけ加えた。
「ディアナ嬢、私はいつまでも待っていますので」
「何を待たれているのかわかりませんが、卿の希望が叶う日はきませんわ」
「相変わらずつれない人だ。まぁ、そこがまたディアナ嬢の魅力でもある」
まったくもって勝手な言い分である。
それでも粘着質な感じではなくまるで言葉遊びのような言い方だったので、ディアナも軽く返した。
「マレフィクス卿、執着する相手が間違ってるだろう」
「間違っていませんよ。私はたしかに女神の愛し子に執着していますが……ディアナ嬢以外のフォルトゥーナの王女と王子には魅力を感じません」
呆れたようなユージンの物言いにマレフィクスが皮肉げに答える。
「彼らはその立場を安穏と享受している。私は苦しみを呑みこみ昇華した人にこそ魅力を感じるのです」
「なかなかに難儀な性格だな……」
おそらくマレフィクスは困難に遭っても自身の努力によって乗り越えた人に魅力を感じるのだろうが、その表現方法が独特だ。
しかもその執着している相手というのがディアナだからユージンにとっては迷惑でしかない。
「いずれにせよディアナがユエラン国へ行くことはないから諦めるんだな」
「人生何が起こるかわからないものですよ」
「諦めの悪いやつだ」
どこまでいっても変わらないマレフィクスにユージンがため息をつく。
ユージンとしては何があってもディアナを手放す気はなかったので結局変わりはないのだが。
「まぁ、私も一度国へ戻らなければならないので、再びディアナ嬢に会えるのは少し先になりますね」
さも残念そうにマレフィクスが言った。
彼はフィリアを連れて国に戻り、彼女に裁きを受けさせなければならない。
そしてオルランド公が捕まったとはいえオルランド領とユエラン国との事業の提携は国との約束だ。
今のところ新しいオルランドの領主の件を含めて未定なため宙に浮いた状態だが、いずれそちらも話し合わなければならなくなるだろう。
「近いうちにまたお会いできるのを楽しみにしています」
そう言って、マレフィクスはサッとディアナの右手を取るとその甲に口付けた。
イブニンググローブ越しとはいえ突然の行為にディアナは驚き、ユージンの眉間には盛大な皺が刻まれる。
「陛下に斬られる前に撤退するとしよう」
どことなく悪戯っぽく笑ったマレフィクスがあっという間にそばを離れていく。
「まったく。油断も隙もない」
ユージンが苦々しく言った。
ディアナとしても次の行動が読めないマレフィクスには困惑させられるばかりだ。
(早く諦めるか、別の人に興味を持ってくれるといいのだけど……)
結局マレフィクスは最後までディアナのことを『皇后』とは呼ばず『ディアナ嬢』と呼んでいたと、ユージンが思い至ったのは少し後だった。
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