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【受賞&書籍化】先視の王女の謀(さきみのおうじょのはかりごと)  作者: 神宮寺 あおい@受賞&書籍化


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 その日ディアナは朝から準備に勤しんでいた。

 

「姫さま。今日の主役は姫さまなんですから、気合いを入れてくださいね!」


 いつになく力の入るリリにルラも同意する。

 

「誰よりも綺麗に装い、姫さまの美しさを参列の方々に見せつけなければなりません」


 二人の言いように苦笑をこぼし、しかしディアナは二人にされるがままだ。

 この状態の二人に何を言っても聞かないのは過去の経験として知っているからでもある。

 それに、ディアナに似合うものを二人はディアナ以上に知っていたから任せておいて間違いはなかった。


 婚礼の日、花嫁の支度は多くの侍女の手で行われることが多い。

 しかしディアナは今日だけは他の侍女を部屋に入れなかった。

 名目上はフォルトゥーナの婚礼衣装をウィクトル帝国の侍女は知らないからということにしてあるが、本当は違う。


 婚姻前の最後の時間をディアナはリリとルラ、そしてアランとだけ過ごしたかったからだ。


「リリ、ルラ、ここまで私についてきてくれてありがとう」


 鏡の前に座り、二人に髪の毛を結われながらディアナが言う。


「「姫さま……」」


 ディアナの言葉に二人の手が止まった。


「あなたたちがいてくれたから、私はこの国でも頑張ることができたのだわ」

「いいえ。姫さま。姫さまはきっと私たちがいなくても課せられた使命を果たされたと思います」

「私たちは少しのお手伝いをしたに過ぎません」


 口々に言う二人にディアナは困ったように小さく笑う


(リリもルラも故郷を捨ててついてきてくれたわ。きっと辛いこともあったはずなのに、それを私には決して見せないのね)

 

「それでもありがとうと伝えたいの。それに、これからもよろしくね」

「「もちろんです!」」


 ディアナの言葉を受けて二人が笑顔になる。

 そんな二人を鏡越しに見ながら、ディアナは少し離れた場所に置かれた椅子に座るアランに声をかけた。


「お兄様」


 本来であれば花嫁の支度をする部屋に男性が入ることは無い。

 もちろん、ディアナも着替えは別の部屋で行った。

 結婚式までにゆっくり話す時間が取れるのであればディアナも支度を済ませてから改めて向き合いたかったのだが、それは難しかった。


「姫さま。誰かに聞かれたら問題ですよ」


 ディアナの言葉にアランが苦言を呈す。


「今ここには私たちしかいないわ」

「それでも誰がどこで聞いているかわかりません」


 どこまでいっても心配性なアランに、ディアナは心が温まるのを感じた。

 アランが心配しているのはいつでもディアナのことだ。

 ほんの少しもディアナに不安な要素を持たせたくない、そう思っているのが伝わってくる。


「アランお兄様。今日までありがとうございました」

「ディアナ、それはきっと父親が聞くはずの言葉だろう?」


 そう。

 普通であれば花嫁が父にかける言葉なのかもしれない。

 そしてディアナが王女と護衛騎士として話しかけているわけではないことがわかったからか、アランもまたディアナのことを『姫さま』ではなく『ディアナ』と呼んだ。


「私に父はいませんわ。いるのは血の繋がった人と戸籍上父の欄に名前が書かれた人だけ」


 むしろずっとディアナのそばにいて守ってきてくれたアランの方がよほど保護者のようだった。

 

「お兄様には感謝してもしきれません。私のためにたくさんのことを諦めさせてしまった……」

「ディアナ、それは私が自分で選んだことだ」

「でも……」


 ディアナが望まなければ、アランはフォルトゥーナでルラシオン侯爵家を継いでいたはずなのに。


「ディアナ。私はお前のそばでずっと一緒にいることができて良かったと思っているよ。それに、こんな大役も任せてもらったしね」


 そう言ってアランは自らの衣装を指差した。

 アランは今フォルトゥーナの騎士団の正装をしている。


 ウィクトル帝国とフォルトゥーナ国の婚姻である今回、ユージンは帝国の正装を、そしてディアナはフォルトゥーナのドレスを身にまとって結婚式に臨む。

 さらには式の際にユージンのところまでディアナをエスコートする役目はアランが担うことになった。

 本来であればそれは父親であるフォルトゥーナ国王の役目だ。

 国王も式へ参加する中で、一専属護衛が王女のエスコートをするだなんて異例といっていい。

 

「身に余る大役だと思うのだが」

「私が希望したのです」

 

 なぜアランがエスコート役なのか、その理由がわかる者は限られる。

 それでも。

 ディアナは国王よりもアランにエスコートして欲しかった。

 幸いユージンは理解を示してくれたし、国と国の婚姻の場合、他国の習慣に対して口を出さないということが暗黙の了解となっている。

 もしディアナのエスコートが国王ではないことに疑問を持つ者がいたとしても、そのことを声高に疑問視することはできない。


「今まで私を守ってきてくれたお兄様に最後はエスコートして欲しかったの」


 ディアナがそう言うと、アランが何ともいえない切なそうな表情をした。


「とうとう、この手を離れていくんだな」

「籍がウィクトル帝国に移っても、これからもそばにいてくれるのでしょう?」

「もちろんだ」


 環境は今までと変わらない。

 それでも、結婚という儀式が一つの区切りになるのだと、この場にいる誰もが感じていた。




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本日より新しい話を始めました。

異世界転移もので、どちらかというと前作に近い雰囲気の話となっているかと思います。

よろしければ新しい話も読んでいただけるととても嬉しいです。


タイトル

『異世界に行った、そのあとで。』

(リンクが上手く貼れず……お手数ですが作品のところから見ていただけると助かります)


読んでいただきありがとうございます。


少しでも続きが気になりましたら、ブックマーク登録や評価などしていただけるととても励みになります。


よろしくお願いします。

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