皇帝の危惧
「それは……どういうことでしょうか?」
「どういうことも何も、言葉の通りだ」
国王は驚きを露わにしたまま言葉を続ける。
「結婚式は明日です。ですのでディアナはまだフォルトゥーナの第二王女でしょう?」
「国王陛下、我が国は婚姻の契約を結ぶことと結婚式を挙げるのと、どちらが先になるかは問わない」
つまり、結婚式が明日であっても婚姻の契約をその前に交わすことは可能だということだ。
「先ほど私は前皇帝陛下より帝位を継ぎウィクトル帝国の皇帝となった。それと同時にディアナ嬢と婚姻の契約を結びその契約は即時に受理されている」
「つまり……」
国王が震える声で言うのを遮るかのようにユージンが言葉を続ける。
「そうだ。つまり、今この時点でディアナ嬢はフォルトゥーナの第二王女ではなくウィクトル帝国の皇后だということだ」
だから、ディアナはフォルトゥーナの意志に従う必要はない。
(ユージン陛下の危惧していた通りね)
二人の姿を見ながらディアナはそう思った。
そして今朝の出来事を思い返す。
帝位を引き継いだら式を待たずにすぐに婚姻の契約を交わすとユージンに言われた時ディアナは驚いた。
何もそんなに急がなくとも明日には結婚式だ。
通常は結婚の誓いをした後にその場で婚姻届にサインをするのが一般的だった。
だからディアナもそうするものだと思っていたのだが。
「今日は午後からフォルトゥーナの王族に会うのだろう?」
「ええ。マレフィクス卿との契約の件もありますし、彼らは明々後日には帰国してしまいますので」
日程的に考えてディアナが彼らとゆっくり話ができるのは今日の午後しかない。
フォルトゥーナ側は明後日のどこかで時間が取れるかもしれないが、結婚式の後はディアナの方が忙しかった。
「ならばその前に婚姻届を出して受理させておいた方がいい」
「……なぜですか?」
なぜそうも急ぐのか。
疑問に思い問いかければ、ユージンが一瞬口籠もる。
どちらかというと何事も明確に答えるユージンにしては珍しかった。
「その契約書があるからだ」
「契約書……マレフィクス卿とのですか?」
「ああ。その件を告げられたフォルトゥーナの国王が、ディアナ嬢、あなたをユエラン国へ行かせると言い出しかねないと思っている」
「それは……」
無いと言い切れるだろうか?
自分で自分に問いかけて、ディアナは否定することができなかった。
そしてユージンは言葉を重ねる。
「私はあなたと一緒に幸せになると誓った。だからこそ、懸念となることは排除しておきたい」
「わかりましたわ。私も陛下と一緒に幸せになると決めています。だから、すぐにでも届けを出しましょう」
そうして、ユージンの帝位継承後すぐに二人は婚姻届にサインをして提出した。
当然その届は即座に受理されるように手配をしてある。
「何度も言うが我が国の皇后を他国へやることはできない。したがって女神の愛し子としてユエラン国へ向かわせることは不可能だ」
ユージンの声にディアナは今朝の出来事から思考を戻した。
フォルトゥーナの国王は言葉を失い、今まで『女神の愛し子としての義務』を自分とは関係のないものとして考えていたフォルトゥーナの王女と王子たちは不安げな表情を浮かべる。
「マレフィクス卿との会談の場はこちらで用意しよう」
ユージンがそう言って話を終わらせようとしたその時、セルシウスが突然立ち上がった。
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