皇帝の問い
「お初にお目にかかる。今日よりウィクトル帝国皇帝となったユージン・ウィクトルだ」
そう言って差し出された手をフォルトゥーナの国王が握り返した。
ディアナの隣に腰かけたユージンは朗らかな笑顔を浮かべている。
友好的な雰囲気を醸し出してはいるものの、しかしその笑顔から彼の心の内をうかがうことはできない。
(そういえば、初めてユージン陛下に会った時は考えの読めない人だと思ったのだったわ)
そんなことを思い出しながらディアナは二人の挨拶を見守った。
「初めまして。ディアナの父であるユースフル・フォルトゥーナだ」
国王の言葉にディアナが一瞬ピクリと反応してしまったことにユージンは気づいただろう。
思えばディアナにとってはこの父も、実の父親も、結局のところどちらも純粋に父と思える相手ではなかったのだと気づく。
それは同様に母親に対しても言えた。
(産みの母であるルラシオン侯爵夫人の顔なんて思い出せないくらいだわ)
まだ成人していなかったディアナは社交の場に出ることがなかったから、侯爵夫人にはほとんど会うことすらできなかった。
それでも、折に触れてアランが両親のことを教えてくれたりしていたから、なんとなくこんな人たちなのだろうというイメージは持てていたが。
そんな過去のことに気持ちがそれていたからか、気づいた頃にはユージンと国王は和やかに会話を交わしていた。
「なるほど。そのようなことがあったのですか……」
どうやらユージンは今回の事件の概要を説明していたらしい。
もちろん都合の悪いところは伏せておくのは当然だ。
「ええ。ですので、急な皇帝の交代となりましてディアナ嬢には苦労をかけたと思います」
国内の反対勢力が反乱を企てるなんてどの国にだって起こりうることだ。
とはいえそれはある意味国の恥でもある。
隠しておきたいと思うのが普通ではあるが、ユージンはあえてそうはせずにフォルトゥーナに対して誠実に答えた。
何か他に意図があるからなのか、それともディアナの祖国に敬意を払ってくれたからなのかはわからない。
「問題は解決しましたのでご心配いただくことはないかと」
「それはもちろん。ユージン陛下の手腕を疑うことはありません」
そう話していても、国王の関心が先ほどの『ユエラン国の望みとは何か』にあるのはよくわかった。
ユージンと国王の会話が続くということは、肝心の女神の神託に関する話ができないということ。
(気になってイライラしてるところかしら?)
そうディアナが思ったところでユージンがおもむろに話題を変えた。
「ところで、フォルトゥーナには女神の神託が降ろされると聞きました」
その一言に、フォルトゥーナの王族の視線がディアナに突き刺さる。
女神の神託の存在はフォルトゥーナ国内では公にされているが、国外ではほとんど知られていないものだ。
それがなぜウィクトル帝国皇帝の口から今この場で出てきたのか。
「……そのことをどこから?」
「私は元々一年ほどフォルトゥーナに滞在していたことがあるのです」
「陛下がですか?」
「いろいろ事情がありまして非公式での外遊でしたので、ご存じないのも無理はないかと」
(だから神託の存在自体は知っていたと、そう話すつもりね)
知っていたのか知らなかったのか、それはわりに大きな意味を持つ。
知っていたのであれば、神託に縛られる王族は基本的に国外へ出ることはない、ということも同時に認識するからだ。
「そういった経緯もあったので驚いたんですよ。フォルトゥーナの王族であるディアナ嬢が我が国へ来ていただけると聞いて」
「それは……。まぁ、他国の方との婚姻も少ないとはいえ今までなかったわけではないので」
国王の返答にユージンは「そうですね」と相槌を打つ。
「たしかに、かなり昔のことにはなりますがかつて我が国へ嫁いで来られた方もいますね」
あれはいつのことだったかな……と呟くユージンに対してフォルトゥーナの王族が警戒しているのが伝わってきた。
「陛下。周りくどい話は止めにしましょう。今あえてその話題を出すということは、いったい何が目的でしょうか?」
国王の言葉にユージンはそれまで浮かべていた柔和な笑顔を消した。
目が合った者が圧を感じるくらい鋭い視線が国王を射る。
「そうですね。目的を達成するためには代償が必要になることもあると、フォルトゥーナ国王もそう思いませんか?」
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