神託の完遂
「まず、皆さまが気にされている女神様の神託ですが……」
ディアナが話し始めると全員がその言葉に集中する。
「八割方実行できたのではないかと思いますわ」
「八割とは?」
全員が望んでいたのは『完遂』の報告だというのはわかっていた。
そして現時点でディアナができることはすでに終わっている。
つまり、残されているのはマレフィクス卿との間で交わされた約束のみだった。
「その言葉の通りですわ」
「それではわからないから聞いているのだろう?」
いささか気分を害したのか国王がそう言う。
「私のできる範囲のことはすでに終わらせました。女神様の望む結果も出せたかと」
「それでなぜ八割になるのかがわからないな」
ソファの背もたれにもたれかかると国王がため息をついた。
ディアナがすべきことを成し、女神の望む結果を出したにもかかわらず神託が完遂していないというのは理に適っていないと言いたいのだろう。
「今回女神様の神託を実行するに当たって、ユエラン国の王弟殿下にご協力いただきました」
「ユエラン国だと?」
「ええ」
ウィクトル帝国とでさえ限定的なつき合いしかしていないフォルトゥーナにとって、帝国を挟んでさらに海の向こうのユエラン国といえば名前を知っているくらいの認識しかない。
「ご協力の見返りとしてユエラン国が望まれたことがありますので、それに応えることで初めて神託は完遂となります。ですので、八割なのですわ」
ディアナは国王を、そして王妃を、さらには姉と兄を順番に見て言った。
それぞれの瞳に映る感情は何だろうか。
困惑、驚き、苛立ち、それとも他の何か。
「ではその望みとやらを叶えてやればいいだろう?」
早くすべてを終えて安心したいのだと、国王の言葉からはその気持ちがうかがえた。
「もちろんそうしたいのは山々なのですが、先方のお望みを叶えることが私ではできないのです」
「……どういうことだ?」
国王がその顔に疑問を浮かべる。
と、ちょうどそのタイミングで家令が来客を告げた。
「ディアナ様、陛下が今こちらにいらっしゃるとのことです」
「そう。着いたらお通しして」
ディアナの返答を聞くと家令は下がり、それと同時に侍女たちが新しいお茶を用意し始める。
「陛下がいらっしゃるのか?」
「ええ、そのようですね。今回急遽前皇帝陛下が退位されて現皇帝陛下と変わりましたので、陛下もフォルトゥーナの皆さまにご挨拶をされたいとのことですわ」
もちろんそれも理由の一つではある。
ただそれだけではなく、ユージンはフォルトゥーナの王族たちに対してディアナ一人で対峙することを憂慮したのだろう。
『明日は必ず私も同席する』
昨日の夜そう言ったユージンの顔がディアナの脳裏に浮かんだ。
相手は自分の家族であるフォルトゥーナの王族だ。
普通に考えれば不安になることなどない。
しかしディアナの中で、彼らはすでに親しみのある大事な家族ではなくなってしまっている。
そのことに対して一抹の寂しさを感じながらも、同時にユージンの存在がディアナの心を支えてくれていた。
もちろん、ユージンだけでなく今もディアナの背後に控えながら守ってくれているアラン、侍女としてついてくれているリリとルラもだ。
自分は決して一人ではないのだと、そう思えるだけで気持ちを強く持つことができる。
そうディアナが思っている内に、家令が陛下の来訪を告げた。
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