フォルトゥーナの王族
「それにしても、帝国の皇帝が代わるなんて聞いてなかったぞ」
宮殿にある貴賓用の一室に通され、フォルトゥーナの国王と王妃、そして第一王女のマルティナ、第一王子のルクス、そして第二王子のセルシウスは久しぶりのディアナとの再会を待っていた。
ディアナの結婚は明日、そしてその後に開かれるお披露目の宴に参加し、一日休息日を挟んで翌日にはフォルトゥーナの王族一行は帰国する。
さすがに主だった王族が長い間国を開けるわけにもいかず、比較的忙しない日程だ。
とはいえ、これだけの王族が一度に国を開けても問題がないのは国全体に女神の守りがあるからだろう。
「まぁ、落ち着いてそこに座れ」
若いからかそれとも性格か、セルシウスが不満げに言ったのを国王がなだめた。
国王は二人がけソファに腰かけており、その隣には王妃が座っている。
目の前には長めの応接テーブルがあるが対面のソファは無人だ。
テーブルの両端に置かれた一人がけのソファにはそれぞれマルティナとルクスが腰かけているため、セルシウスは仕方なくルクスの斜め後ろに置かれたソファに座った。
。
「女神様の神託の関係なのでは?」
マルティナの言葉にルクスが顔を上げる。
「可能性としてはそれが一番高そうではあるな。しかし父上、ディアナからは何か報告などあったのでしょうか?」
ルクスの問いかけに国王が思案げにあごを撫でながら答えた。
「いや。無いな」
「まぁ。女神様の神託の実行は何よりも大切なものですのに。あの子ったら」
王妃が嘆くように言う。
「途中までの報告はいくつか届いてはいたが……。結果どうなったのかはわからん」
「そもそも、まだ終わっていない可能性もあるのでは?」
ルクスの言葉にその場に沈黙が落ちる。
彼らが何よりも望むのは女神の神託が滞りなく実行されたという報告。
そもそも王女が他国へ嫁ぐ際に成人した王族全員が結婚式に参加する決まりというのは、どちらかというと労いの意味合いが強い。
神託の実行を担い、さらには祖国へ戻ることができなくなった王女への餞のようなものだ。
過去にそうやって王女が嫁いだ時も神託はすでに完了していることが多かった。
「ディアナは聡明な子だわ。報告もないなんてあまり考えられないのだけれど」
マルティナの意見に否と言う者はいない。
ディアナは昔から賢く、自身の立場をよく理解している子だった。
実際にディアナが我がままを言って周囲を困らせたことはない。
それはここにいる全員の共通認識だったのだが。
「そうだなディアナはセルシウスよりも年下とは思えないくらい落ち着いていたな」
「なんで俺を引き合いに出すんだよ」
ルクスの言いようにセルシウスがぼやく。
「ああでも……。たしか一度だけディアナが自分の我を通したことがあった」
思い返すように言うルクスに全員の視線が集まった。
「ほら、ディアナの遊び相手として王宮に来ていたアランを専属護衛にして欲しいと言ったあの時だ」
普段聞き分けの良いディアナがあの時だけは周りが何を言っても聞き入れなかった。
「相手は侯爵家の後継者。遊び相手には良くても専属護衛にするのは無理だとディアナが理解できないはずがなかったのに」
アランが実際はディアナの実の兄であると、この場にいる者たちは全員知っている。
「血が呼ぶ、なんてことがあるのかしらね」
マルティナの言葉になんとも言えない空気が流れた。
コンコン。
そんな中、ノックの音が響く。
「失礼いたします。まもなくディアナ様がいらっしゃいます」
許可の声に応えて入室してきた家令がそう告げる。
そして数人の侍女たちが新たなお茶と茶菓子をテーブルにセットしていった。
「リリ? ルラ?」
その中に見知った顔を見つけてマルティナが呟く。
しかしそれに応えることなく侍女たちは準備が終わると壁際に控えた。
コンコン。
そして再びノックの音が響き。
国王の許可を得て、その扉が開いた。
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