皇帝の心
「今後のことも含めて二人で話してはどうか?」
そんなイーサンの言葉に見送られて、ディアナはユージンにエスコートされながら王宮内を歩いていた。
アランとカーライルはその存在が邪魔にならない程度に離れたところから護衛をしているのだろう。
パッと見では姿が見えない。
(ユージン殿下はどこに向かっているのかしら?)
そう思ったところでふと気づく。
彼はディアナと一緒に何度も話したあのガゼボに向かっているのだと。
(そういえば、あの場所を気に入っていると仰っていたわ)
思い至ったものの、だからといってそれを指摘するのもおかしくディアナは別の話題を口にした。
「イーサン陛下は本来ああいった性格の方だったんですね」
今回話してみて初めて気づいたのだが、魅了の香りに縛られていないイーサンはいたって穏やかで理知的な性格の人だった。
今の姿を見ればフィリアに魅了されていた間の彼はまったくの別人。
今までつき合いのないディアナでさえそう思うのだから、以前からイーサンの周りにいた者たちにとっては彼の変化は驚きであり理解できないない苦しさを伴うものだっただろう。
(それとも、性格は段々と変化していったでしょうから、おかしいと感じながらもただ変わっただけだと受け止められていたのかしら)
誰しも何かをきっかけにして性格が変わり得ることはある。
「そうだ。兄上は元々聡明で理知的な方。だから今の姿が本当の姿だ」
(ああ……。きっと兄弟間のわだかまりは解けたのね)
以前ユージンはイーサンのことを『陛下』と呼んでいた。
その言葉の響きにはどことなく苦しさが垣間見えていたような気がする。
しかし魅了の香りのことが判明し、それが解呪されたことによって兄弟の間にあった気持ちの隔たりは解消されたのだろう。
自然と『兄上』と呼べるようになったユージンもまた、イーサンと同様以前よりも落ち着いたような気がした。
「今の兄上であれば以前のように問題なく帝国を導いていける。だが……」
「法律がそれを許さない、ですわね」
「帝国は五つの部族が集まってできた国。だからこそ帝国法を遵守することは重要だ」
おそらく、ユージンは今でも皇帝であるべきはイーサンだと思っているのだろう。
自身が兄を差し置いて皇帝の座に就くことに対して抵抗を感じているのかもしれない。
しかしそれは許されない。
「兄上はなぜ魅了されてしまったのだろうな……」
そう呟いた声は答えを求めているわけではないように聞こえた。
なぜ、なのか。
それはイーサン以外誰にもわからないだろう。
そういった方面に対しても十分に警戒していたイーサンであっても不意に魔がさすことがあったのか。
それとも、彼にも誰かに縋ってしまいたいような苦悩があったのか。
でもその答えをユージンやディアナが知ることはない。
今後イーサンは何があってもその時の自身の思いを口にすることはないだろうから。
今日会った彼の目にはそんな覚悟が見えた。
そうして、ぽつぽつと会話を交わしながら二人はあのガゼボについたのだった。
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