臨時公爵会<4>
「まず、ディアナ嬢のおかげで『魅了の香り』に関しては解呪の方法がわかった」
ユージンの言葉にその場に安堵の息がもれる。
「それはかなり重要ですな」
「そうだ。一番難しいと思われていたのが陛下にかけられた魅了の解呪。実際に術を解いてみないとわからないが、香りにさらされていた期間を考えると解呪したとしても陛下にはそれなりの期間影響が残るだろう」
解呪できることは大きな助けではあるが、だからといってそれですべて解決とはいかない。
「しかし、いったいどうやって解呪するのですか?」
ただできると聞いただけでその方法がはっきりとわからなければ信じられない、とでもいうようにベルダーが疑問を呈す。
「結局、香りに対しては香り、ということだ」
「つまり?」
「魅了の香りが香水であるのならば、解呪に使われるのもまた香水」
「……それは……」
きっとベルダーは頭の中であらゆる可能性を考えているのだろう。
強力な魅了の力を持つ香水を解くために使うのが香水であるのなら、それを調合したのはいったい誰なのか。
「まさかと思いますが、解呪の香水を調合したのもマレフィクス卿だとおっしゃいますか?」
「そのまさかだ」
ユージンの返答にベルダーは絶句し、コラードは唖然、そしてラルグスは頭を抱えた。
「解呪の香水を作っておくというのは理解できますが、呪術用の香水を渡した相手と敵対する相手に対してそれを融通するとは……」
「考えられん……」
「先ほどから言っているように、マレフィクス卿に我々の常識は通用しない」
意に反して何度もマレフィクスと相対することになった結果、ユージンはある程度マレフィクスに耐性ができているのかもしれない。
他の三公爵が受けるほどのショックは感じていなかった。
常にユージンと行動を共にしている護衛騎士のカーライル、そしてこの件で奔走することになった宰相も同様だろう。
「とにかく、彼に関しては我々の常識に当てはめないことが肝要だ」
「……話を戻しましょう。つまり、現状殿下は解呪の香水を手に入れている、そういうことでよろしいでしょうか?」
ベルダーの問いにユージンが首を横に振った。
「解呪の香水はディアナ嬢が持っている」
「ディアナ様が?」
「そうだ。ディアナ嬢自らがマレフィクス卿と取り引きをして手に入れたようだ」
「取り引き? それはいったいどのような内容で?」
「それはわからない。私からも聞いたが、答えてはくれなかったからな」
ディアナは鉄壁の笑顔でそれ以上の追求を許さなかった。
あれは確実に何かを隠している。
おそらく相当のものと引き換えに彼女は解呪の香水を手に入れたはずだ。
「ディアナ様は政治的思惑で輿入れしていただいた方。陛下に望まれていないこともご存じだったようです。それなのになぜこれほどまでに我が国へ尽くしてくださるのでしょう?」
コラードの言葉に他の二人の公爵も頷く。
「ディアナ様は帝国のことをよくご存じです。そしてそれぞれの領地の問題を解決する方法を提示してくださった」
ベルダーもまたそう言った。
公爵たちの持つ疑問の答えを、この場でユージンだけが知っているのだろう。
『すべては女神の神託を実行するため』
ディアナの行動の根底には常にそれがある。
ならば。
ディアナ本人の幸せはいったいどこにあるのだろう?
ふと、ユージンはそう思った。
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